シリーズ:東日本大震災10年~「防災・減災社会」構築への視点 第7回「日本版ディザスター・シティ」構想~一級の危機管理要員育成へ~(下)

フリーライター
峠 淳次

福島誘致のすすめ~複合災害の場を人づくりの学校に~

公明党福島県本部が危機管理要員訓練施設の誘致で記者会見(2021年3月15日、『公明新聞』3月16日付)

 東日本大震災から10年の節目を刻んだ今年3月、公明党福島県本部は〝次の10年〟に向けた独自の福島復興加速化政策を発表し、この中で日本版ディザスター・シティともいうべき本格的な「危機管理要員育成センター」の創設と福島誘致を提言した。
 提言は冒頭、「災害大国の日本にあって危機管理と防災・減災に関わる多様な知識や技術を身につけた人材を育てることは喫緊の課題である」として、大震災と原発事故という未曽有の複合災害を経験した福島に、あらゆる自然災害に加えて原子力災害も想定した危機管理要員育成センターを創設、誘致すべきと主張。その上で、県沿岸部の浜通り地域で進む国家プロジェクト「福島イノベーション・コースト(国際研究産業都市)構想」に「防災」の視点を盛り込むよう求め、「最先端のハイテク産業とリンクした新時代の育成拠点」というセンターの具体像も浮かび上がらせた。
 周知の通り、福島イノベーション・コースト構想は、原発事故と大震災からの復興と創生をめざし、浜通り地域に最先端技術の産業や研究機関が集積する〝未来都市〟を創出するという巨大プロジェクトである。既に「ロボットテストフィールド」では〝空飛ぶ車〟やドローンの飛行試験など200を超える実証実験が行われており、世界最大級の「水素エネルギー研究フィールド」でもクリーンエネルギーの開発に関わるさまざまな実験が繰り返されている。
 公明党福島県本部の提言は、こうした高度の最先端技術も導入した危機管理要員育成施設を浜通り地域につくることで、福島を「防災と危機管理に関わる人材輩出の基地」にしようというものだ。静岡県立大学グローバル地域センターの小川和久特任教授は、

斬新かつ魅力的な発想で、実現すれば、より高度な知識と能力を備えた一級の危機管理要員を育成する世界屈指の施設となりうる

と高く評価している。

ロボット開発拠点開所式(2020年9月12日、『公明新聞』9月13日付)

 福島誘致の優位性と利点はこれだけにとどまらない。浜通り地域には3・11の震災遺構や原発事故の爪痕など、複合災害の〝生きた教訓〟が生々しく残り、昨年(2020年)9月には、フクシマの記録と記憶と教訓を未来へ伝える「東日本大震災・原子力災害伝承館」も開館した。「あの日」の出来事を生の声で語り伝える語り部たちもいれば、何より、廃炉作業が今後30年以上にわたって続く第1原発が人影の消えた風景の中に立ち、〝終わりなき原子力災害〟の悲惨を無言のうちに伝えてもいる。言うならば、未曽有の複合災害を経験した浜通り地域はそのまま「災害学習の学校」なのであって、この環境下に日本版ディザスター・シティを創設することは二重三重の意味を持つことになる。加えて、既にある巨大国家プロジェクトとリンクさせるのだから、新たに土地を探す手間が省け、資金的にも〝安上がり〟になるはずだ。地元雇用の拡大や交流人口の増加も期待できる。

「福島DC」私案~ソフトからハードまで~

 では、実際に福島に日本版ディザスター・シティ(以下、便宜上、「福島ディザスター・シティ」と呼ぶ)を整備するとなれば、どれぐらいの費用が掛かり、そこでどのような訓練をどのように行うことになるのか。前回紹介した米国と台湾の先進事例を参考に青写真を描いてみよう。
 その前に大前提として確認しておきたいのは、福島ディザスター・シティの創設にあたっては、日本の公共事業がとかく陥りがちな「はじめに箱モノありき」というハード先行の発想を捨て去る必要性だ。「建物(=ハード)を作ってから中身(=ソフト)を考える」のでなく、「先に中身を構想し、その上で施設の規模や構造を考える」というソフト先行型事業への転換である。誰に何をどう教えるか、教官やインストラクターをどうするか。そうした中身さえ固まれば、施設の規模や整備費用は自ずと決まってくるはずだ。
 
<対象者・訓練メニュー・教官>
 まず、福島ディザスター・シティにおける訓練の対象者は、目的別に3つに分けて考えるのが妥当だろう。第1の分類は捜索救助訓練を目的とするグループで、あらゆる災害に対応する日本初の「都市型捜索救助合同チーム」の育成を視野に、消防吏員、警察官、救急医療従事者、公共事業当局者らを対象とする。また、ニーズに応じて学校や病院、自治会などの防災担当者も参加できるようにしたい。第2の分類は、交通機関や石油コンビナートなど特殊火災の消防訓練が目的で、対象者は消防吏員や自衛消防組織(消防団)など。第3分類は、危機管理業務のマネジメント・計画などの教育訓練を目的に、上述の関係者のほか、自治体幹部・首長や公衆衛生当局者らを対象とする。
 捜索救助の訓練メニューは、前回に一部紹介したテキサスA&M大学ディザスター・シティで行われている科目を全面的に踏襲しつつ、地震・津波や火山噴火、台風、原子力災害などの科目も加え、日本の国土環境にふさわしいものとする。
 ちなみにテキサスA&M大学ディザスター・シティの訓練メニューは大要、以下の通り。

●救助課程……構造物崩壊における救助活動(50時間=5日間)、構造物崩壊技術者(180時間=18日間)、救助技術者が知るべき医学(16時間=2日間)、汚染された環境における救出(24時間=3日間)など計5科目274時間
●捜索課程……災害捜索技術専門家(40時間=5日間)、災害救助犬・捜索専門家(50時間=5日間)、広域捜索(24時間=3日間)など計5科目138時間
●危険物専門家課程……大量破壊兵器事態における都市型捜索救助活動(16時間=2日間)など計2科目24時間
●流水・洪水救助課程……流水救助活動(16時間)、流水救助活動技術者(32時間=4日間)など計3科目52~56時間
●医療課程……災害医療専門家(50時間=5日間)など計2科目58時間
●指揮専属スタッフ課程……合同任務チームリーダー(40時間=5日間)、捜索救助企画官(40時間=5日間)、災害ロジスティクス専門家(40時間=5日間)、構造物破壊における緊急時総合調整システム(16時間=2日間)、CBRNE(化学・生物・放射線・核・爆発物)合同任務チーム育成(24時間=3日間)など計7科目238時間

帰還困難区域の看板(2021年3月 福島県大熊町)

 一方、危機管理業務のマネジメント・計画などの教育訓練メニューについては、災害管理システムの世界標準となっている「緊急時総合調整システム」(ICS インシデント・コマンド・システム)=<注>参照=に依りたいところだが、残念ながら危機管理小国・日本の現状下でこのシステムを前提とした教育訓練は難しいと思われる。従って福島ディザスター・シティでは、パンデミック対策や重要インフラの防護、緊急事態時における広報、自治体首長のリーダーシップなど、ICSの詳しい知識を必要としない教育訓練から始めて、その延長上でICSの原理原則に沿った訓練へと昇華させていく方法を採る。

<注>ICSは米国発祥の災害現場指揮システムのこと。現場指揮官の迅速な意思決定の下、関係者全員が共通の認識・目標・手順で人命救助と被害の抑制に従事できるよう、指揮・管理・命令系統などが標準化されている。米国内で発生するあらゆる災害・緊急事態に適用されるほか、デファクトスタンダード(事実上の世界標準)として国際社会にも広がっている。
 誰がどう教えるか、すなわち教官チームの確保は、福島ディザスター・シティの質的水準を決定づける重要なポイントとなる。だが、これまで本格的な危機管理要員の教育訓練を展開してこなかった日本である。危機管理の現場経験があり、実戦的訓練のノウハウも知る専門家を自前で充当するのは到底、不可能と思われる。
 参考になるのが、短期間のうちに国際水準を超える訓練機関「台湾内政部消防署訓練センター」を実現させた台湾政府の取り組みだ。2度にわたり同センターを視察してきた静岡県立大学の小川特任教授によると、台湾政府は同センターの発足にあたり、「不得手な部分を高い能力の人材で補う」という合理的思考の下、施設の設計段階から米国の専門家の全面的な協力を仰ぎ、教育訓練を担当する台湾側の指導教官の教育もテキサスA&M大学ディザスター・シティの教官をはじめとする米国人インストラクターに委ねた。小川氏は「明治維新のリーダーが『お雇い外国人』という『頭脳』を移植し、短期間に列強に追いついた近代日本の歴史を思い返し、福島ディザスター・シティも台湾方式で、米国人インストラクターによる教育訓練から始めるのが現実的」と話している。
 
<施設・設備・費用>
 以上述べてきたソフト面の構想から想定されるハード面の設計図は、テキサスA&M大学ディザスター・シティをモデルとすることで素描できる。
 例えば、がれき救助訓練施設には基礎訓練と応用訓練・演習の2つのエリアを設け、前者のエリアではコンクリート板の持ち上げや移動・破壊・開口の仕方、不安定な建物の補強方法など基礎的な技術を教え、後者のエリアではセンサーや救助犬を用いた捜索や救急医療の演習など、より専門的、個別的な訓練を施す。となると、応用訓練エリア内には自ずと、①コンクリート片のがれき②木造建築物のがれき③流木がれきなど、少なくとも3つの「がれきの山」の再現が必要となろう。
 近年多発する河川氾濫や土石流、津波などにおける流水救助訓練のためには、長さ200メートル程度の激流訓練場や土石流訓練場などの設備が欠かせない。訓練生はここで、日本では初の大規模捜索の方法や掘削機器操作など実戦的な訓練を受けることになる。
 このほか特殊火災の実戦的な消防訓練のため、船舶、航空機、タンク車、タンクローリー、トンネル、石油化学プラントなどの火災現場ないしモックアップ(実物大模型)を再現するとともに、必要に応じて緊急安全措置を取ることができるよう、管制塔も設置する。こうした消防訓練設備は専門の企業が世界各国に納入しており、技術的な問題はない。
 屋内施設としては、自治体首長・幹部らを対象に行う危機管理業務の教育訓練や訓練生一般に行う座学のための教室、危機管理センターを模した大部屋などが最低限必要となる。また、先述した訓練メニューからも分かるように、教育訓練は一定期間にわたるため宿泊棟の設置も欠かせない。
 必要敷地面積は、福島浜通り地域のどこに整備するかにもよるが、原子力災害も含めたあらゆる災害を想定した実戦的訓練を行う以上、少なくとも20ヘクタール前後の広さは必要だろう。ちなみに、米テキサスA&M大学ディザスター・シティは約21ヘクタール(ブレイトン火災訓練場などと合わせれば約120ヘクタール)、台湾内政部消防署訓練センターは109ヘクタールの規模を誇っており、福島ディザスター・シティも将来的に拡大していく方針を担保しておきたい。
 整備費用は、米ディザスター・シティの事例から8億円程度と想定される。

おわりに~スヌーピーの忠告~

スヌーピーが言ったように、パーティーの5分前にダンスを習っても間に合わない

防護服で一時帰宅する川内村の住民(2011年5月10日、公明党機関紙委員会『人間の復興へ』より)

 2001年9月11日の米同時多発テロや、2005年8月末に米国本土を直撃した大型ハリケーン「カトリーナ」による災禍など、数々の大規模災害に対応してきた米連邦緊急事態管理庁(FEMA)の元調整官、ウィリアム・ロッキー氏の論考「危機管理に関する考察」にある一節である。
 死者2200人を出した1934年3月の「函館大火」や、同じく死者2700人余を数えた同年9月の「室戸台風」など、この年に相次ぎ発生した大災害を受けて、同年11月に雑誌『経済往来』に「天災と国防」を寄稿した寺田寅彦の場合はさらに手厳しい。

日本のような特殊な天然の敵を四面に控えた国では(中略)科学的国防の常備軍を設け、日常の研究と訓練によって非常時に備えるのが当然ではないかと思われる。(中略)地震学者や気象学者は従来かかる国難を予想してしばしば当局と国民とに警告を与えたはずであるが、当局は目前の政務に追われ(中略)そうした忠言に耳をかす暇がなかったように見える。誠に遺憾なことである

と。
 既に阪神・淡路大震災から26年、東日本大震災からも10年が経過した。この間、列島は熊本地震(2016年)や西日本豪雨(2018年)など、毎年のように大規模災害に見舞われ、今はコロナ禍という〝もう一つの災害〟に直面している。予見可能な未来に目を向ければ、南海トラフ巨大地震と首都直下地震という2つの大災害が近づいていることを科学的知見が教えてくれてもいる。それでも、今なおこの国に〝ダンスを習う〟会場がないのはどうしたことか。福島ディザスター・シティの早期実現を望むのは、著者一人ではないはずだ。

シリーズ「東日本大震災10年~『防災・減災社会』構築への視点」:
第1回 「3・11伝承ロード」構想(上)
第2回 「3・11伝承ロード」構想(下)
第3回 つながる語り部たち(上)~東北から阪神、熊本、全国へ~
第4回 つながる語り部たち(下)~コロナ禍を超えて~
第5回 「日本版ディザスター・シティ」構想~一級の危機管理要員育成へ(上)
第6回 「日本版ディザスター・シティ」構想~一級の危機管理要員育成へ(中)
第7回 「日本版ディザスター・シティ」構想~一級の危機管理要員育成へ~(下)
 
関連記事:
「忘れない」の誓い、今こそ――東日本大震災から9年 被災地の今を歩く(上)
「忘れない」の誓い、今こそ――東日本大震災から9年 被災地の今を歩く(下)


とうげ じゅんじ●1954年大阪府生まれ。創価大学文学部卒。1979年公明新聞入社。 東日本大震災取材班キャップ、 編集委員などを経て2019年からフリーに。編著書に『命みつめて~あの日から今、そして未来へ』(鳳書院)など。