奇想天外な物語から、沖縄戦の過去と現在が浮かび上がる
目取真俊(めどるま・しゅん)著/第117回芥川賞受賞作(1997年上半期)
奇妙で強烈な印象をもたらすシーン
第117回芥川賞を受賞したのは、目取真俊の「水滴」だった。『文学界』に掲載された原稿用紙約60枚の短編小説である。
目取真の出身は沖縄で、作品の舞台も沖縄。114回の受賞作「豚の報い」も沖縄が舞台だったことから、選考委員の中からは「またしても沖縄か」という声もあったようだが、やはり風土的にも歴史的にも文学の題材が豊富なのだろう。
「豚の報い」もそうだが、魅力の一つは沖縄の人たちの振る舞いからにじみ出てくるおおらかさや笑いである。特に「水滴」は、悲惨な沖縄戦を題材にしながらも、陰々鬱々とただ沈み込むのではなく、ここかしこに生活者の賑やかさや逞しさが漂っているのだ。
芥川賞受賞の要因の一つとして、優れた構成とそれによる読者を引き込む力があるように思えた。 続きを読む