『摩訶止観』入門

創価大学大学院教授・公益財団法人東洋哲学研究所副所長
菅野博史

第42回 正修止観章②

[2]「1. 結前生後し、人・法の得失を明かす」②

(2)失を明かす

 この段落では、正しい修行ではなく、誤ったあり方を詳しく描写し、厳しい批判を加えている。まず、

 其れ癡鈍なる者は、毒気(どっけ)深く入りて、本心を失うが故なり。既に其れ信ぜざれば、則ち手に入らず、聞法の鉤(かぎ)無きが故に、聴けども解すること能わず、智慧の眼に乏しければ、真偽を別かたず、身を挙げて痺癩(ひらい)し、歩みを動かすも前(すす)まず、覚らず知らず、大罪の聚(あつ)まれる人なり。何ぞ労して為めに説かん。設(も)し世を厭う者は、下劣の乗を翫(もてあそ)ばば、枝葉に攀附(はんぷ)し、狗(いぬ)の作務(さむ)に狎(な)れ、獼猴(みこう)を敬いて帝釈と為し、瓦礫(がりゃく)は是れ明珠(みょうじゅ)なりと宗(たっと)ぶ。此の黒闇暗 の人に、豈に道を論ず可けん。(第三文明選書『摩訶止観』(Ⅱ)、512-514頁)

とある。愚かな者は、毒気が深く体内に入って本心を失う(『法華経』如来寿量品に出る)から愚かなのである。その人が信じない以上、手に入れることができず、法を聞く鉤(悪を制圧するもの)がないから、聞いても理解することができず、智慧の眼が乏しいから、真偽を区別できず、全身がしびれているから、歩みを進めようとしても進めないとされる。このような人は何も知覚せず、大罪が積もった人であるので、苦労して説く必要はないとされる。 続きを読む

世界はなぜ「池田大作」を評価するのか――第7回 「創価一貫教育」の実現

ライター
青山樹人

創価の学舎では「宗教教育」はしない

――このほど創価インターナショナルスクール・マレーシアが開校しました。2月22日には、マレーシアのヌグリスンビラン州スレンバンにある同校で開校式がおこなわれ、9カ国・地域の138人が1期生として出発しました。

青山樹人 憲法でイスラム教を国教(連邦の宗教)と定めているマレーシアでも、創価学会に対する信頼は篤く、同国のマレーシア創価学会も大きく発展しています。
 創価インターナショナルスクール・マレーシアは、中等教育と大学予備教育、つまり日本で言うところの「中高一貫教育」にあたる学校ですね。外国語の授業以外は試験も授業もすべて英語でおこなわれるとのことです。
 すでに2023年8月24日に第1回入学式がおこなわれて授業はスタートしていたのですが、国によって卒業時期が異なることもあって、マレーシア以外の生徒はオンラインで授業を受けていました。今回、それら外国からの生徒も現地に合流し、追加試験で合格した生徒らもあわせて、晴れの開校式となりました。 続きを読む

沖縄伝統空手のいま 特別番外編⑨ 沖空連主催「空手道古武道演武大会」

ジャーナリスト
柳原滋雄

今年の男子団体組手は上地流が優勝

 1981年、松林流の長嶺将真(1907-1997)によって設立された「沖縄県空手道連盟」(全日本空手道連盟の下部団体、以下「沖空連」)が主催する恒例の「空手道古武道演武大会」が3月3日、沖縄県立武道館アリーナ棟で開催された。
 毎年1回定期開催されるこの大会は、コロナ禍により2020年から22年まで中止を余儀なくされたものの、昨年、沖縄空手会館で再開。今年はさらに広い会場の県立武道館に戻った形となった。大人から子どもまで総勢1000人近いメンバーが関わる演武大会としても知られる。

団体組手の様子

 午前中は競技空手団体の象徴ともいえる組手団体戦が行われ、男子では初めて編成出場した「沖縄県上地流空手道連盟」が優勝、「拳龍同志会」が準優勝の結果となった。昨年大会では東京オリンピックの男子形部門で金メダルを獲得した喜友名諒も所属する「劉衛流龍鳳会」が流派全体としてチーム編成し、好成績(優勝)を収めた。それに触発される形で今年は実践空手で知られる上地流が各道場の垣根をこえて流派として初の選抜チームを編成した。蓋を開くと沖縄市の名門・拳龍同志会との決勝戦となった。 続きを読む

本の楽園 第181回 愛国者と差別

作家
村上政彦

 アジアの物語作家を自任して20年になる。しかし実際に作品を世に問い始めたのは、この5年ほどのことだ。40代なかばから50代の終わりにかけて、「満洲沼」にはまってしまった。
 いや、そんな土地があるのではない。日本が植民地化した「満州帝国」のおもしろさに憑かれて、手当たり次第に資料を集めて読み漁り、何とか長篇小説を書こうとして、ずぶずぶ沼に沈んでいったのだ。
 最初は、朝鮮半島を舞台にして、日本が朝鮮半島を植民地化した歴史を書く予定だった。それで某出版社の経費で関連資料を集めて、韓国へ取材旅行もした。現地では、出版社を営む人物、大手新聞の記者、政治家、文学者など、さまざまな人と会って話した。
 帰国して、小説に着手したら、国家という存在が気になりはじめた。眼にする国家論を読み砕き、5年ほどしてようやく自分なりに、国家とは何か? が分かるようになった。そうしているうちに、国産みの快楽が味わいたくなって、満州に手を伸ばした。
 ここから300枚ぐらいの小説を書き終えるのに、4、5年かかった。親しい目利きに読んでもらって、助言を受け、改稿しようとしているうちに、台湾が気になりはじめた。これは朝鮮半島の植民地史を書くための資料集めの産物で、なかに台湾の文献があったのだ。 続きを読む

『摩訶止観』入門

創価大学大学院教授・公益財団法人東洋哲学研究所副所長
菅野博史

第41回 正修止観章①

 次に、十広の第七章、「正しく止観を修す」について取りあげる。言うまでもなく、『摩訶止観』全体のなかで、一念三千説が説かれる、最も重要な章である。巻第五上から巻第十下の六巻を占めている。また、第八章から第十章は実際には説かれず、その内容の一端は第一章の「大意」(五略として示される)に説かれているだけである。

[1]全体の構成

 はじめに全体の構成について説明する。この章で最も重要な箇所は、いわゆる十境十乗観法と呼ばれるものであるが、これが説かれるのは、下に示す科文の最後の「2.8. 依章解釈」においてである。そこで、まずはこの範囲の科文を示し、順に内容を紹介する。 続きを読む