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連載エッセー「本の楽園」 第62回 金時鐘の戦い方

作家
村上政彦

子供のころ、実家から少し離れたところに青谷(あおだに)という土地があった。町の人々は、あまり近づこうとしなかった。その土地をめぐる怖い噂もあって、なかへ入ると、容易に出ることのできない、異世界のような印象もあった。
中学に入って、青谷の子供と友達になった。恐る恐る行ってみると、ちょっとした山のなかに、木造の古びた平屋がぽつぽつと並んでいる、静かな土地だった。僕らの住んでいるところと、ほとんど変わらなかった。拍子抜けするほどだった。
そこには朝鮮人と呼ばれる人たちが暮らしていた。僕は、なぜ、彼らが集落をつくっているのか、もっというと、朝鮮人という人々が日本にいるのか、それが分からなかった。 続きを読む

連載エッセー「本の楽園」 第61回 横尾忠則の世界②

作家
村上政彦

僕は本を読むのが好きだ。おもに人文系だが、美術書も読む。必要に応じて理系の本も読む。結局、本であれば、どのような本でもいい。でも、一つ二つ、ジャンルを絞るように促されたら、絶対に入るのが書評集だ。
書評集は、僕のような気の多い人間には向いている。何しろたくさんの本を扱って、そのエッセンスを抜き出して伝えてくれる。本好きにとって、これほどありがたいものはない。 続きを読む

連載エッセー「本の楽園」 第60回 横尾忠則の世界①

作家
村上政彦

横尾忠則のことはとても個性的な絵を描くイラストレーターとして知っていた。でも、それだけだった。特にそれ以上のことを知ろうとも思わなかった。彼のことが気になり始めたのは画家に転向してからだ。
確か、マルセル・デュシャンの影響で、死んでいた絵画がニュー・ペインティングと称されて、またアートの世界で復活を遂げたころだったか。イラストレーターとして成功していた彼が、絵画という未知の領域に乗り出したことで、なぜか? という思いが湧いた。
でも、何となく、それも素通りして、横尾の作品や本を手にすることはなかった。去年あたりから、ぽつぽつ彼の本を読むようになった。これがおもしろかった。 続きを読む

連載エッセー「本の楽園」 第59回 アップデートする民藝

作家
村上政彦

柳宗悦(やなぎ・むねよし)の名は知っていた。彼が提唱した民藝運動についても少しぐらいの知識はあった。しかしそれ以上の関心を惹かれることはなく、柳の著作を読むこともなかった。近年になって、例によって勘が働いて、『民藝とは何か』を読んでみた。いやー、おもしろかった。
それ以来、民藝の思想を文学に活かすことはできないか考え始めた。そこへ本書が現れた。『21世紀民藝』。柳宗悦の思想を再生して、21世紀仕様にアップデートする試みである。 続きを読む

連載エッセー「本の楽園」 第58回 もうひとつの経済、もうひとつの政治

作家
村上政彦

いま僕らの社会を成り立たせているのは、経済としては資本主義であり、政治としては間接(代議制)民主主義だ。このふたつは近代の発明といっていいのだが、だんだん不具合がでてきている。
では、それに代わるものはあるのか? なかなか難しい問題で、決め手はない。ただ、いろいろと新しい試みが現れている。『雇用なしで生きる』の著者は、2012年、「今、革命が起きてるよ!」と聞いて現地のスペインへ向かった。本書は、経済、政治の新しい試みのリポートである。 続きを読む