2016年4月、沖縄県庁に空手振興課が発足して10年目。これまでWEB第三文明では歴代課長にインタビューしてきたが、今回4人目の課長を取材した。(収録/2025年8月6日)
課長自ら道場に入門
――これまで空手振興課の歴代課長にインタビューさせていただきました。今回は4人目の金城信尚課長となります。今年4月に着任されて4か月あまりが経過しました。
金城信尚課長 昨年班長として空手振興課に来まして、1年間の経験を経て就任しました。昨年夏には第2回沖縄空手少年少女世界大会も経験しました。
――金城課長は2016年、空手振興課が設置されたときにはどの部署にいましたか。
金城課長 平成28年は基地対策課ですね。
――それは沖縄ならではのセクションですね。基地の仕事は何年くらいやったのですか。
金城課長 2年間です。主に調査研究的なことをしていました。
――そのころ、空手振興課には関心すらなかったのですか。
金城課長 新聞で読んで認識はしていましたが、あまり記憶にはないです。むしろ振興会(一般社団法人・沖縄伝統空手道振興会)ができたときのことは覚えています。

第4代となる金城信尚課長。沖縄県庁南12階の空手振興課で
――2008年ですね。なぜ覚えているのでしょうか。
金城課長 知事を先頭に空手界が一致団結したという点が印象に残りました。仲井眞(弘多)知事の時代です。
――これまでのスポーツ体験はなにか。
金城課長 10年くらい前に膝を怪我するまではサッカーをやっていました。中学校からずっと。
――サッカー少年だったのですね。
金城課長 そうですね。
――過去の人生において空手をやったことはありますか。
金城課長 実は最近始めました。2カ月くらい前から。
――すごいですね。課長自ら始めたのですか。
金城課長 仕事のためというより、仕事を通して空手のよさを再認識し、学生時代にカナダに留学したときも沖縄空手は世界に誇る伝統文化だということを認識させられました。実は83歳になる父が先に地域の道場に入門しました。もともとお付き合いのある空手道場の方でしたので、父子ともに入門させていただきました。家から5分くらいのところです。空手を始めたいなというのは(空手振興課に)来てからずっとあったのですが、行政は中立の立場なので敢えて始めないほうがいいという意見もありました。それでどうしようかと迷っているうちに1年が過ぎてしまった。いまタイミングを逃すと始められなくなるので、いまのうちにと。私の入門した道場は行こうと思ったら週5回行ける道場なのですが、仕事の都合でなかなか、週1回とか2回しか行けていないです。
――なるほど。
金城課長 細く長く続けていけたらと思っています。
――稽古は何時から始まりますか。
金城課長 8時半から10時までです。
――みっちりやるのですか。
金城課長 やります。個人練習のときと、あとは集団でやるときと2パターンあって、集団でやるときは子どもを含めて20人くらい集まります。
――手応えはいかがですか。
金城課長 特にまだ何か言える段階ではないですが、地域に道場が密着していますし、健康にもいいですし、一人でもできますし、持続可能なところがいいですね。やはり気持ちのいい汗をかくなあというのはあります。ご存知かと思いますが、うちの課では昼休みの最後に1時からみんなで普及型Ⅰ、Ⅱ、Ⅲを週替わりで行うのですが、いまのところはその延長線のレベルです。
世界大会を再編成する

2024年8月に開催された「第2回 沖縄空手少年少女世界大会」(宜野湾市)
――昨年、少年少女世界大会が終わりましたので2年後となる来年は3回目の大人の世界大会となりますね。
金城課長 それが来年は子どもの大会と大人の大会を両方同時に開催します。
――子どもの大会をまたやるのですか。
金城課長 これまでは4年ごとに、大人の大会と子どもの大会を2年おきに開催するということだったのですが、コロナの制限が緩やかになって空手界も自分たちの団体や流派等で大会を開催したり、海外でセミナーを実施したり、独自の活動が活発になってきたということもあります。持続可能な大会運営をしようということで、大人と子どもの2つの大会を統一しようと空手界の話し合いの中で結論をみたのです。令和8年度の大人の大会のときに子どもの大会も一緒に開催して、それ以降は4年ごとに同時開催する方向で決まりました。子どもの大会はやはり「競技」で子どもの成長を促す面から競技はそのままですが、大人の大会については、(競技を止めて)「演武会」にしましょうと。
――そうしますと、大人の考え方は抜本的に変わったわけですね。
金城課長 昨年の第2回少年少女世界大会の前にも、競技大会ではなく演武会にという話が一部にあったらしいのですけど、大人については技の奥深さや精神性を示すところに焦点を当て、演武会をやろうということでまとまりました。世界大会になってから演武大会を行うのは初めてなので、今後も空手界とも意見交換しながら、どのように実施していくかを決めていきます。
――競技がなくなるということは、優劣を競うわけではなくなりますね。
金城課長 なくなるということですね。
――いい面と悪い面の両方があるような気がしますが、変更については空手界には告知されているということですか。
金城課長 もちろんです。むしろ空手界の意見がそうでした。

2026年に開催予定の「第3回沖縄空手世界大会」のポスター
――要するに開催頻度が多すぎても、負担が大きいということなのでしょうか。
金城課長 従来どおり、大人の大会と子どもの大会を2年おきにやるとなると、それぞれの前年度には「予選」を行うことになります。県内予選を1月から2月にかけて行う。毎年度予選をやって次に本大会やってということが続くことになるので、やはり持続可能な4年ごとの大会運営にしようということになりました。
6月に世界大会の実行委員会の総会があって、そこで正式決定されたのですが、その前には空手界の代表の方々に聞いて決めた上で、最終的に総会で正式に決まりました。
――長い目で見た場合、そのほうがよいわけですね。
金城課長 やはり持続可能な大会運営が重要かなと思います。競技大会をするというのは、各団体と各流会派が交流するというのはいい機会だと思います。世界大会を通じて、競技大会でもどこまでがОKでどこまでがダメかというのを審判の方々が話し合いながら、スポーツ空手とちょっと違った形でどこまでが許容範囲で、伝統空手として継承していけるのかということで、それらを皆さんで確認しながら決めていく形になります。お互いに意見交換しながら、いい意味の交流になると思います。
――4年に1回、オリンピックのようなものですね。
金城課長 両方一緒にやるので、子どもも大人も一緒に参加しやすくなります。セミナーもやります。さらに併せて「沖縄空手ウィーク」ということで、大会期間(7月30~8月2日)の前後1週間をとって沖縄空手会館(豊見城市)も無料開放して稽古してもらって海外空手家との交流の場を設けたり、民間事業者による沖縄空手ゆかりの地や顕彰碑などを巡るツアーなどの企画も考えています。
――来年(2026年)の世界大会が課長にとって一番重要なイベントになりそうですね。
金城課長 (間髪入れず)そうですね。それが大きいと思います。(㊦につづく)
【2026年開催】第3回沖縄空手世界大会 OKINAWA KARATE WORLD FESTIVAL〜 DEMONSTRATION and TOURNAMENT〜
【プロフィール】きんじょう・のぶひさ●1971年生まれ。与那原町出身。立命館大学国際関係学部卒。95年県庁入り。国際交流課からスタートし、2000年沖縄サミット時は1年あまり外務省(サミット準備事務局)に出向。外国人観光客誘致、県産品の販路拡大、基地対策課、雇用政策課、障害福祉課などをへて2025年4月から空手振興課長。
《沖縄伝統空手のいま 特別番外編》
沖縄県空手振興課長・金城信尚さんインタビュー㊤
沖縄県空手振興課長・金城信尚さんインタビュー㊦
シリーズ【沖縄伝統空手のいま 道場拝見】:
①沖縄空手の名門道場 究道館(小林流)〈上〉 〈下〉
②戦い続ける実践者 沖拳会(沖縄拳法)〈上〉 〈中〉 〈下〉
③沖縄空手の名門道場 明武舘(剛柔流)〈上〉 〈下〉
【WEB連載終了】沖縄伝統空手のいま~世界に飛翔したカラテの源流:
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WEB第三文明で連載された「沖縄伝統空手のいま~世界に飛翔したカラテの源流」が書籍化!
『沖縄空手への旅──琉球発祥の伝統武術』
柳原滋雄 著定価:1,760円(税込)
2020年9月14日発売
第三文明社
【WEB連載終了】長嶺将真物語~沖縄空手の興亡~
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WEB第三文明で連載された「長嶺将真物語~沖縄空手の興亡」が書籍化!
『空手は沖縄の魂なり――長嶺将真伝』
柳原滋雄 著定価:1,980円(税込)
2021年10月28日発売
論創社(論創ノンフィクション 015)