東京都大田区「大森ふるさとの浜辺公園」
「リポスト」しただけでも賠償命令
SNSなどネット上の「デマ」「誹謗中傷」に対して、司法の厳しい判断が続いている。
コロナ禍では、感染対策としてマスクの着用やワクチンの接種がWHO(世界保健機構)からも全世界に推奨された。
ところが、陰謀論にからめてマスク着用やワクチン接種に反対する人々が一部に発生。SNS上で誤情報を拡散するばかりか、感染対策に従事する専門家や医師らに対し、激しい中傷批判を繰り返すアカウントも続出した。
感染防止への情報発信を続けていた忽那賢志 ・大阪大学教授(感染制御学)も、そうした誹謗中傷にさらされた1人。「泣き寝入りしては、次のパンデミックが起きたときに後進の医師たちも被害に遭う」と考えた。
22年12月、特に悪質な投稿約50件について、発信者情報の開示を大阪地裁に申し立てた。全ての開示が認められ、40人ほど発信者を特定。約半数とは、解決金の支払いを条件に和解が成立した。(「読売新聞オンライン」2024年2月3日)
2023年7月、和解に応じなかった投稿者17人を提訴。うち特に悪質だった3人に対し、大阪地裁は同年12月、計約70万円の損害賠償を命じる判決を言い渡している。
2023年9月には、性被害を訴えていた女性ジャーナリストが、ツイッター(現・X)への投稿で名誉を毀損されたとして漫画家のはすみとしこ氏らに賠償を求めていた訴訟の上告審で、最高裁第一小法廷がはすみ氏らの上告を棄却。はすみ氏に110万円の賠償を求めた東京高裁判決が確定した。
はすみ氏は2017~19年、伊藤氏に似た女性に「枕営業大失敗!!」と書き添えたイラストを投稿するなどした。二審判決は、一審・東京地裁と同様、はすみ氏の一連の投稿は「伊藤氏が虚偽の性被害を訴えていると示す内容で、多大な精神的苦痛を与えた」と認定。その上で、投稿が広く閲覧されたことを踏まえて、賠償額を一審の88万円から増額した。(『朝日新聞デジタル』2023年9月15日)
なお、この最高裁判決では、はすみ氏の投稿をリツイート(リポスト)した男性2人にも11~22万円の賠償命令が確定している。
兵庫県ではSNS等での誹謗中傷・脅迫にさらされた県議が、自ら命を絶つという痛ましい事態が起きた。
東京大学の鳥海不二夫教授(計算社会科学)の調査では、昨年1月からの1年間で同県議には約11万4000件の批判的なXでの投稿が見られたが、その半数は、わずか13アカウントによる発信が転載されたものだったと報じられている。
ネット上でたまたま目にしたから、誰かが投稿していたからといって、それをむやみにリポストすることは重大な不法行為への加担であり、時に責任を問われて賠償命令の対象にもなり得るのである。
ビジネスに利用されるデマ
公明党とその支持母体である創価学会に対しても、動画配信やSNS上などでは悪質なデマ・誹謗中傷が絶えない。
これまで公明党も創価学会も対応には抑制的な姿勢をとっていたが、SNSがもはや社会インフラになっている現状を考えると、今後は悪質な事案には法的措置も辞さない構えでよいのではないかと思う。
閲覧数を稼ぐことをビジネス目的にしていたり、嫌がらせの示威行動を配信してカンパを募ったりするような者が、放置されてよいはずがない。
創価学会に関するデマで今もSNS上に見られるのは、あいかわらず「政教分離違反」「フランスではカルト」といったものだ。
ひとことで言えば知識と情報リテラシーの欠如で、このようなデマ情報を鵜吞みにしてしまうのだろう。WEB第三文明の本コラムでも取り上げられているので、幼稚なデマに踊らされないようにしてほしい。
荒唐無稽なデマといえば、池田大作SGI(創価学会インタナショナル)会長についても、朝鮮半島出身の在日外国人であるという話を、虚偽と知ってか知らずか、今もってSNS上などに投稿する者がいるようだ。
常識的に考えて誰も相手にしないようなレベルのデマなのだが、ネットリテラシーのない人や陰謀論好きな人のなかには、こんな話にさえ引っかかってしまう者もいるのである。
池田SGI会長が日本と韓国の友好親善に尽力してきた事実を悪用して、ヘイトの燃料にするやり方は許されるものではない。
このデマは、不思議なことに2001年を境に突如としてネット上などに見られるようになったもの。それ以前にも、創価学会や池田SGI会長を中傷する言説は膨大な量に上っていたが、そこには一度も出てこなかった話だ。
デマの端緒は「占い師」の捏造記事
おそらくデマの火元となったのは、2001年6月、政治団体の機関紙『國民新聞』(現在は休刊)が掲載した「池田大作帰化人説」と題する悪質な捏造記事である。「風水師」「陰陽師」「永田町の指南役」などと自称し「昭和天皇の言霊」を受信するなどと公言していた占い師の富士谷紹憲(ふじたに・しょうけん)なる人物(2009年死没)の言説を、何の検証もなく書き連ねたものだった。
記事は富士谷某の言説として、池田SGI会長について「日本に先祖の墓がない」「日本語がうまく喋れず、寡黙な男」などと記述。さらに『大白蓮華』(2000年3月号)に掲載された随筆「私の人生記録」から「父が韓国語の言葉を教えてくれた思い出がある」等を都合よく切り取って、「父母が戦前に帰化した朝鮮人であると考えれば納得できる記述がちりばめられている」(原文ママ)等と書いていた。
この随筆は1990年の韓国初訪問について綴られたもので、会長は自身の父が若いころに徴兵され、日本が植民地支配していた当時のソウルに駐留した経験があったことなどを述懐した。富士谷某は、それらの文脈を伏せたうえ、「父が韓国語を教えてくれた思い出がある」と姑息に書き換えて都合よくデマの材料にしたのだった。
なお、この「私の人生記録」は、のちに毎日新聞社から『大道を歩む――私の人生記録』として全4巻が刊行されている。
この富士谷某が開設していた誤字だらけのお粗末なホームページ(魚拓)には、「私は永田町の陰陽師として在野にあって神権政治を行い、霊人体総理として表機関の総理をバックアップするべく努力したいと思う」との、意味不明の誇大妄想とともに、「皇室外交なんて言って外国に行かれることをご希望のようですが、適切ではありません。アフリカなどの外国に行かれると悪霊の憑依を受けてしまいます」「現在日本の拘置所、刑務所は三国人が多数をしめている。犯罪者の92%が三国人DNAということを聞いたことがある」等の、外国人を侮蔑する異常な言説が書き連ねてある。
それにしても、この男はなぜ2001年になって、池田SGI会長の出自をめぐる荒唐無稽なデマを公言したのか。
背景には、まず1999年10月に公明党が連立政権に加わったことへの一部勢力の苛立ちがあった。また1999年に東京都知事に就任した石原慎太郎が、2000年4月9日の陸上自衛隊第1師団創設記念行事で「不法入国した多くの三国人、外国人が非常に凶悪な犯罪を繰り返している」と発言している。
さらにこの時期、永住外国人の地方参政権の要件緩和をめぐって、国会で議論が続いていた。記事は冒頭で、公明党が地方参政権付与に前向きなことへの苛立ちを書いている。池田SGI会長の出自をめぐるデマは、こうした政局をかき乱すために必要だったのだ。
奇妙なことに、この『國民新聞』のデマ記事にはセットで、日蓮正宗の法主だった阿部日顕が創価学会を中傷する書籍を出版したことと、同年5月23日の『朝日新聞』が、「教育基本法 見直すより大いに生かせ」という池田会長の論考を掲載したことを中傷する記事が並んでいる。
各国でナショナリズムが高まっていた2000年代初頭、例の富士谷某は創価学会と池田SGI会長を中傷して人々の耳目を集め、排外主義者たちを煽動して、自分の商売に利用しようとしたのであろう。
この荒唐無稽なデマが、2000年代には「2ちゃんねる掲示板」を通して広がり、SNSが普及した2010年代には陰謀論インフルエンサーらによって拡散された。今なお、このネタで稼ごうとしている悪質なユーチューバーもいて、言わば情報弱者が情報弱者を利用して小銭稼ぎをしているのである。
代々「五右衛門」を襲名する古い家
まともに取り合うのもバカバカしい話なのだが、デマは潰しておかなければ感染症のように広がる。
池田家のルーツに関しては、まず1975年に日本経済新聞社から刊行された『私の履歴書』に記述がある。
池田SGI会長は1928(昭和3)年1月2日に、現在の大田区入新井の地に、海苔製造業を営む池田子之吉(ねのきち)と妻・一(いち)の五男として生まれ、2歳の時に一家は大田区糀谷三丁目(羽田地域)に住居を移している。
「強情さま」と題された『私の履歴書』冒頭の随筆には、江戸時代の天保の大飢饉(1836年)の際に、池田家の先祖が幕府の救助米を受け取らなかった逸話も記されている。
日本経済新聞に連載された1975年当時は、池田SGI会長の両親と交友のあった世代の近隣住民も多くが健在だったはずで、新聞社でも校閲が入るから、不正確な話を書くことなどできない。
同じ羽田に生まれ育った、雑誌記者出身でドキュメンタリー映像プロデューサーの平林猛氏は、大正から昭和の東京湾沿岸に暮らした漁師や船大工の記録を収集していた。
氏は、船大工だった父親から、〝強情さま〟と呼ばれていた頑固者の漁師に頼まれて船をつくったことがあるという話を聞かされた。当時、一帯の漁師で最初に船に発動機を付けたのも〝強情さま〟だったという。
この〝強情さま〟こそ、池田SGI会長の父・子之吉さんのことだった。
私はその日から、〝わが町・羽田〟の古老や、昔、海苔師として働いていた人たちから、〝強情さま〟の話を聞き集めだした。(平林武『池田大作名誉会長の羽田時代』展望社)
平林氏は、子之吉さんの父(池田SGI会長の祖父)池田五右衛門さんについても調査し、
池田五右衛門さんの名は、昭和二年発行の『入新井町誌』(角田長蔵編)によれば、「不入斗漁業組合」の理事の中に発見でき、「八幡魚市場」の問屋の中に「池田屋」の屋号が記されている。池田家の家業は、当時大森海岸で獲れた海苔の問屋であった。(同)
池田家は古い海苔問屋で、長男が代々〝五右衛門〟の名を継ぐほど古い家であった。(同)
と記している。
さらに、池田家が先祖代々、大田区大森北にある真言宗の密厳院を菩提寺としていたことを確認した。
密厳院の歴史は古く、開山されてから七百年以上はたっているという。境内には「お七地蔵」(八百屋お七の供養)などがある。池田家の墓は、墓地の西側一帯を占め、密厳院では大檀家で、池田姓の墓は十数墓におよび、池田氏の父、子之吉さんが建立した墓も墓地内にある。その墓碑には、ビルマで戦死した池田氏の兄、喜一さんの名も刻まれている。(同)
池田氏は、子之吉さんと古市場(大田区矢口)の農家、小宮孝三郎さんの長女、一さんの五男として昭和三年一月二日に、不入斗で生まれた。正式には、東京府荏原郡入新井町大字不入斗百七拾番地である。(同)
加えて平林氏は、当時の国民学校で池田SGI会長と同級生だった者のうち、20数名を捜し出して取材を重ねている。当然のことだが、SGI会長や両親が帰化した外国人であるなどという馬鹿げた話は、誰からも出てこない。お互いに何代も前から見知った漁師町で、地元でも特に古い池田家の息子なのだから、出てこようはずもないのである。
平林氏は1975年初冬に池田SGI会長にも直接面会して、少年時代や国民学校時代の同級生たちの話を聞いている。
なお、池田家の本家のルーツに関しては、下総国千葉庄池田郷(現在の千葉市中央区)にあったようだ。
デマの発信・拡散は「名誉毀損罪」になり得る
創価学会や公明党に対する悪質なデマは、ことに近年は排外主義者のあいだに増えている傾向がある。
2024年10月の衆議院選挙の際も、「公明党が外国人の運転免許証取得を容易にし、そのために事故が増えている」という悪質なデマが流布された。
むろん、すでに多くの指摘がなされているように、公明党が運転免許試験に何らかの変更を要請した事実はない。また、運転免許は公安委員会の管轄であり、国土交通省とは関係ない。
直近では、埼玉県八潮市で発生した県道の陥没事故にからめて、国土交通省を引き合いに出して公明党を非難する投稿が見られる。
たとえば同じ「国道」でも、国土交通省の国道事務所が管理する国道もあれば、都道府県や政令指定都市が管理する国道もある。さらに、都道府県が管理する「都道府県道」、市町村が管理する「市町村道」がある。
道路だから国交省と反応するのは、基本的な認識不足だ。
むしろ公明党では早くから下水道管の老朽化に伴う道路下の空洞に取り組んできた。たとえば東京・品川区では塚本よしひろ区議が当選1期目の2012年9月の議会質問で、地雷除去の技術を応用した特殊車両による空洞調査を提案。2013年度から主要な区道の空洞調査が始まっている。
同様の空洞調査は、全国各地の地方自治体で公明党の提案により実施が始まっている。試しに「公明党 空洞調査」でインターネット検索すると、道路下の空洞調査に関する多くの事例が出てくるが、他党ではほぼヒットしない。
ただ、全国の下水道管の総延長は約49万キロメートルで、耐用年数(50年)を超えた箇所が7%の約3万キロにも達しているのが現状だ。これは赤道の長さの4分の3におよぶ。
大小の陥没事故は年間約2600件も発生しており、耐用年数を超えた下水道管は、2037年には15万キロに達するという。いずれにしても、政府与党にはさらなる対応をお願いしたい。
SNSによって、誰もが小さなスマホから全世界に向かって情報を発信できる時代になった。だが、その手軽さが、責任の重さを忘れさせる落とし穴にもなっている。
いかに匿名で発信しようとも、不法行為として認定され開示請求されれば身元は明らかになる。誰かの名誉を毀損したり脅迫や業務妨害をしたりすれば、相応の賠償金が請求されるし、悪質な場合は刑事罰に処せられることもある。
【刑法230条】
公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する。
死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない(※1)。
※1…死者の名誉を毀損する行為は、虚偽の事実を摘示した場合に限り処罰される、を意味する
名誉毀損罪が免責されるのは「公共性」「公益性」「真実性」の3つすべてが満たされた場合のみ。
過去においては事実無根のデマ記事で池田SGI会長を繰り返し中傷した月刊誌の編集長が、名誉毀損で警視庁に逮捕され、東京高裁で有罪判決を受けている(月刊ペン事件)。
幼稚なデマ情報を鵜呑みにして、SNS上で拡散するような行為は、本人の思っている以上にリスクが大きいことを知るべきだろう。
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