「美麗が床上浸水する日本」
この世の枠組みに束の間の亀裂を生じさせ、聖なるものが不気味な貌を覗かせる――。「かざり」とはこのような機能を秘めたものだと著者の橋本麻里氏は記している。
書店の棚に面陳列されていても、本書はまずその佇まいが強烈な存在感を放つ。表紙とカバーを飾るのは、深い墨色の地に静かに妖しく浮かびあがる花弁と葉の組み合わされた紋様。おそらく「金銀鍍宝相華文透彫華籠(きんぎんとほうそうげからくさもんすかしぼりけこ)」(個人蔵)の図版ではないかと思われる。12世紀につくられたもので、仏教の法会で散華の儀式をする際に、紙の花びらを入れておく籠だ。 続きを読む