投稿者「web-daisanbunmei」のアーカイブ

書評『かざる日本』――「簡素」の対極にある日本の美

ライター
本房 歩

「美麗が床上浸水する日本」

 この世の枠組みに束の間の亀裂を生じさせ、聖なるものが不気味な貌を覗かせる――。「かざり」とはこのような機能を秘めたものだと著者の橋本麻里氏は記している。
 書店の棚に面陳列されていても、本書はまずその佇まいが強烈な存在感を放つ。表紙とカバーを飾るのは、深い墨色の地に静かに妖しく浮かびあがる花弁と葉の組み合わされた紋様。おそらく「金銀鍍宝相華文透彫華籠(きんぎんとほうそうげからくさもんすかしぼりけこ)」(個人蔵)の図版ではないかと思われる。12世紀につくられたもので、仏教の法会で散華の儀式をする際に、紙の花びらを入れておく籠だ。 続きを読む

スペシャリストが揃う参議院公明党①――参議院幹事長・谷合正明議員

ライター
松田 明

参議院選挙と政権交代

 日本の国会は衆議院と参議院の「二院制」を採用している。
 衆議院には、法律案の議決、予算の議決、条約の承認、内閣総理大臣の指名などで優越が認められている。衆議院選挙が「政権選択選挙」となるのはこのためだ。一方、任期は4年間でその途中で解散の可能性がある。
 これに対し、参議院は衆議院とは異なる立場と役割を担っている。
 まず任期が6年間で解散がない。3年ごとに半数ずつ選挙がおこなわれる。そのことで、参議院はより長期的な政策課題に取り組むことができる。
 また、「良識の府」「再考の府」「熟議の府」「反省の府」と称されるように、衆議院の行き過ぎをチェックし、党派性を超えた視点も取り込んで、多様な国民の意見を反映する役割をもっている。
 こうした点からも、参議院には衆議院にも増してフェアで高潔な人格と専門的な知見の高いスペシャリストが望まれる。 続きを読む

立憲民主党はどこへゆく――左右に引き裂かれる党内

ライター
松田 明

一度は決まった「共産党外し」

 右に行くべきか、左に行くべきか、立憲民主党内が揺れている。
 2月14日、立憲民主党、日本維新の会、国民民主党、有志の会の野党4会派の国会対策委員長代理らが会合を開き、今後、国会内で連携を深めていくことを確認し合った。
 会合終了後に会見に臨んだ立憲民主党の奥野総一郎・国対委員長代理によれば、立憲民主党が呼びかけた会合で、「できれば毎週開催したい」と決まったという。
 これまで立憲民主党は日本共産党、国民民主党など主要野党との国対委員長会談を継続していた。ただ、ここには日本維新の会は含まれていなかった。
 昨秋の総選挙後、国民民主党がこの定期会談から抜けることを表明。立憲民主党の泉代表が日本共産党との連携を「白紙」に戻すと発言して以来、国対委員長会談の定例開催が見送られたままだった。 続きを読む

書評『「価値創造」の道』――中国に広がる「池田思想」研究

ライター
本房 歩

44カ所になった「池田大作研究」機関

 本年2022年は、日中国交正常化から50周年を迎える。半世紀前、まだ文化大革命の渦中にあった中国は、今や世界第2の経済大国に発展した。
 言うまでもなく中国は日本にとって、歴史的にも文化的にももっとも長く深い関係にある。今日も、経済的には最重要と言っていい関係だ。
 一方で政治体制や安全保障の枠組みの違いから、両国間には常にデリケートな緊張が続く。報道を通して私たちが触れる「中国」は往々にして、価値観の異なる理解しづらい巨大な隣人の姿になりがちだ。
 21世紀に入って中国では「池田思想」研究が広がっている。池田大作・創価学会名誉会長の思想についての研究だ。この事実を多くの日本人は知らない。 続きを読む

芥川賞を読む 第14回 『この人の閾(いき)』 保坂和志

文筆家
水上修一

平凡な日常生活のなかにある〝張りつめたもの〟

保坂和志(ほさか・かずし)著/第113回芥川賞受賞作(1995年上半期)

物語展開の少ない平凡さ

 第112回の芥川賞は、漫画家の内田春菊の「キオミ」などが候補作としてあがり注目を集めたが、結局受賞作はなし。次の第113回の芥川賞は、保坂和志の「この人の閾(いき)」が受賞した。1995年3月号の『新潮』に掲載された推定枚数93枚の作品だ。保坂は、この時すでに野間文芸新人賞(1993年)を受賞し、三島由紀夫賞も二度候補になっていた実力者だったわけで、そういう意味では満を持しての芥川賞受賞である。
 保坂の作風は、ドラマティックな物語展開のない、どこにでもある平凡な日常を語るところにあるが、「この人の閾」もまさにそうだった。事件らしきものもなければ、特筆すべき物語展開も起きない。 続きを読む