中道改革連合に望むこと――「打倒!」の選挙は嫌われる

ライター
松田 明

国民の理解が得られない解散

 解散から投票まで16日という〝戦後最短〟の衆議院選挙が公示となった。
 首相が自民党首脳にさえ伝えずに電撃解散に打って出たことで、図らずも野党側でも中道改革連合という新党が結党された。

 与党側は「政権の枠組みが変わったのだから、その信任を問う選挙だ」と主張する。しかし、物価高騰対策が喫緊の課題になっているのに、通常国会も開かず、新年度予算の年度内成立を犠牲にしての解散総選挙は、あまりにも代償が大きい。

解散をしなければ、1月末には社会保障をテーマとする国民会議が発足していた。「給付付き税額控除」を含む中長期的な負担と給付のあり方を超党派で議論する段取りだった。
突然の解散によってそれが先送りされた。消費税減税を巡る短期目線の競争に陥ってしまった。痛みを伴う改革を議論する機運は後退し、財政の持続可能性に対する説明責任は放棄されたに等しい。
長期金利の急上昇も、それと無関係ではない。市場は足元の経済指標だけでなく、先行きの政策運営や財政規律を織り込む。解散で社保改革が宙に浮き、減税や給付の財源論が曖昧なままならば、将来不安は強まる一方だ。(中北浩爾・中央大教授『日本経済新聞』1月25日

 しかも国民の大きな政治不信を招いた自民党の「政治とカネ」は、もはやなかったことにされて〝裏金議員〟は全員が公認され比例重複も許された。
 日本維新の会の「国保逃れ」も、第三者による検証さえせずに何人かの地方議員を除名して幕引きである。自民党の地方議員からも「国保逃れ」が発覚した。

 1月26日に公表されたNHKの世論調査(「衆院選2026世論調査」)では、今回の衆議院解散を「妥当ではない」と答えた人が49%。「妥当だ」は34%にとどまっており、国民の2人に1人は否定的に見ている。

平和国家としてのあり方を転換する

 高市首相は解散を発表した1月19日の会見で、

国論を二分するような大胆な政策、改革にも、果敢に挑戦していきたい。(「首相官邸ホームページ」

と語った。
 日本維新の会は2025年9月に公表した「提言 21世紀の国防構想と憲法改正」のなかで、

憲法9 条 2 項を削除し、集団的⾃衛権⾏使を全⾯的に容認する(第1章第2節「 憲法9 条改正と国防条項の充実」

と明記している。
 憲法9条は、1項で戦争の放棄と国際紛争を解決する手段としての武力行使の永久放棄を謳っており、2項では、

前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。(「日本国憲法」第9条

と定めている。
 日本維新の会は、この憲法9条2項を削除して国防軍を創設し、フルスペックの集団的自衛権も認めると主張しているのだ。
 参政党の躍進に焦燥感を抱いたこうした維新の極右的な主張は、そのまま自民党と日本維新の会の「連立政権合意書」にも反映されている。
 一方の自民党側でも、高市政権の安全保障政策を担当する官邸幹部からオフレコ発言として「日本も核保有すべき」という意見が出たことが年末に報じられた。
 唯一の戦争被爆国としての日本の国是である「非核三原則」についても、高市政権が見直しに入ったことは昨年11月14日に一斉に報じられている。おそらく日本国内に核兵器を置く「核共有」のために「持ち込ませず」を撤廃するのだろう。

 この選挙で勝てば自維政権が信任を得たということで、高市政権は「憲法9条の改正」「フルスペックの集団的自衛権の容認」「非核三原則の見直しによる核共有」「国防軍の創設」など、文字どおり〝国論を二分する〟政策変更に手を付けたいのだと思う。
 平和国家としての日本の戦後80年の歩みを大転換するわけだ。

中道改革連合の本当の目的

 今回、公明党と立憲民主党が中道改革連合の結党を速めたのは、ポピュリズムや「分断と対立」をエネルギーにする政治手法が左右ともに勢いを増し、政権が一気に右傾化していることへの危機感からだ。
 政策的に近い中道政党とは見なされながらも、これまで与野党で対峙してきた両党が2名の反対者を除いて新党に結集したことを〝選挙目当ての野合〟と批判する声もある。

 だが、中道改革連合の結党には、もっと先まで視野に入れた「深謀遠慮」があるのだ。
 つまり、今回の結党はまさかの不意打ち解散に即応した結果の「第1弾」に過ぎず、その先の政界再編の引き金になることに本来の目的がある。このことは、野田・斉藤の2人の共同代表もたびたび言及してきた。

 この超短期決戦の真冬の選挙がどのような結果になるか、今のところ誰もが予測できないでいる。
 政治は一寸先が闇で、何がどう選挙結果に影響するかはフタを開けるまでわからない。
自民と維新で過半数を割った場合、高市首相も吉村代表もそれぞれの座を辞すると明言した。

 一方、中道改革連合はあえて「比較第一党を目指す」(野田共同代表)という目標にとどめている。
 参議院では公明と立憲民主では過半数に遠く及ばないし、そもそも斉藤共同代表が「私たちは自民党と全面対決する党を作るというつもりはありません。自民党の中にも中道改革の考え方に賛同してくださる方がたくさんおります。そういう方々と新しい日本の政治を作っていく」「第2の新進党を作るつもりはない」と明言している。

 現状の中道改革連合で政権交代を目指すのではなく、もっと幅広い政界再編を生んで大きな中道勢力のかたまりを作らないと、日本政治はますます「強い言葉」に引きずられて漂流してしまう。
 今回、仮に中道改革連合の候補のいない選挙区で自民党候補を支援することがあるならば、それは近い将来の政界再編を見越した布石であろう。「中道」とはリアリズムだからだ。

高市政権が勝っても負けても

 参政党は福井県知事選の終盤で支援した若い新人候補を当選させた。
 神谷代表は1月21日の会見で高市首相がやりたい政策を実現させると語る一方、24日の街頭演説で自民の単独過半数を阻止するとも表明している。同党は手堅い選挙戦略を構えており、再び躍進する可能性がある。

 高市首相や吉村代表の属人的な人気が高いとはいえ、もしも有権者が「政治とカネ」や「大義なき解散」に厳しい目を向けて自民と維新で過半数を割れば、高市首相は退陣し、急な選挙で負担と敗北だけを強いられた与党内では不満が噴出するだろう。

 では、逆に高市政権が今回の選挙で勝った場合には何が起きるか。御厨貴(みくりや・たかし)東大名誉教授は、

首相は保守政治家と言われるが、いまは定義を明確にせず、時折強い右の主張をのぞかせる程度だ。しかし選挙に勝利して政権が続けば、首相は本当の意味で右的な思考を強めてくるだろう。
自民党がかつてないほど右傾化しかねず、これ以上は自民党にいられないという議論も出てくるだろう。党内分裂の芽が生まれる可能性もある。(『日本経済新聞』1月25日

と指摘している。
 つまり、高市政権が勝てば先述したような日本の針路を大きく変える「かつてないほど」の右傾化が加速する。そうなったらそうなったで、やはり自民党内の穏健保守勢力は党を割って出る可能性が生まれてくる。

 中道改革連合にとっては、あくまでも「分断と対立」の政治を「包摂と合意形成」の政治に変えること、右傾化に歯止めをかけ平和国家としての日本の信用を維持し、国民の「生命・生活・生存」を守ることが目標のはず。
 日本の政治空間に人間主義の理念とリアリズムを打ち立て、極端に走らない中道勢力の大きなかたまりを作る。そのための政界再編の起動スイッチが入ることこそ重要なのだ。

〝弱点〟は、じつは〝強み〟である

 とはいえ、史上最短の短期決戦の選挙を前に生まれたばかりの新党で、今のところは中道改革連合の認知度は低い。
 ベンチャー企業のような小政党が支持される風潮もある。連合と創価学会という日本最大規模の組織が支持することに、無党派や若者の多くからは忌避感があることも事実だろう。

 しかし、そうした中間団体の「組織票」に一定程度支えられている政党は、中長期的な政策を議論立案し遂行できる。浮動票に頼るしかない政党は、どうしても有権者が飛びつきそうな極端な話や美味しい話をするしかなく、少数の弱者や未来世代のために必要だが票にはならないという課題には手をつけたがらない。

 あるいは、既存の何かを人々を苦しめる既得権益や〝悪〟に仕立てて、その打倒や排斥を訴えるポピュリズムに走るしかなくなる。
 そもそも、組織の号令1つで皆がロボットのように動くはずもない。単純化された「組織票=悪」論もまたポピュリズムの典型である。

 無党派層や若者のなかにも、社会のあり方や自分たちの将来を真剣に考えている人は大勢いる。無党派層は特定の支持政党を持っていないだけで、皆が政治に無関心だというわけではない。
 単純に「組織票=悪」という図式でないことは、きちんと語り、少し冷静に考えれば、わかる人はわかるだろう。ポピュリズムに政治が振り回されることを憂慮している人は、それなりに一定数いる。

最後まで「明るい表情」の選挙戦を

 最後に筆者から中道改革連合の候補者や支持者にお願いしたいこと。それは、最後まで〝明るい表情〟で選挙戦を戦ってほしいということだ。
「〇〇を打倒する!」とか「〇〇を許さない!」といったメッセージも使うべきではない。それは仲間内で盛り上がりはしても、今の若者・現役世代からは嫌われるだけである。

 もちろん、政策論争をするのが選挙戦ではある。大事なことは、自分たちが何を目指しているか、どういう社会を作ろうとしているのかを、端的に具体的に語ること。
 そして、他党や誰かを否定・攻撃するのではなく、自分たちとの〝違い〟を語ればいいのだと思う。「私たちは、こういう考え方はとりません」「ここが私たちとの違いです」。それだけでいい。

 険しい厳しい顔で、何かを、誰かを強く批判することが選挙の熱量だと思うのは、もはや前世紀的な発想である。内輪だけで盛り上がるような替え歌やらパフォーマンスもNGだ。若者から一番嫌われる。
 たとえ1000人を前にしていても、目の前の1人に語りかけるつもりで、10のうち8割か9割は自分の思い、自分たちの目指すもの、そこから相手の人生に生まれ得る希望を真剣に語る。あとの1割か2割だけ他党との〝違い〟を語ればいいと思う。

 公明党が苦戦した昨年の東京都議選でも参院選でも、やはり最後まで笑顔で明るく戦った候補は勝った。高市首相も吉村代表も、常に意識して笑顔を絶やさない。
 ましてや中道改革連合は「分断と対立」の政治へのアンチテーゼとして結党された政党である。選挙戦で「友か敵か」という友敵論に回収され、「怒り」や「憤り」をエネルギーに変える誘惑に引きずり込まれては本末転倒になる。

 有権者を信じ、有権者1人1人のなかにある善きものを引き出す。そのためにも、最後の1分まで希望と親しみを感じさせる「明るい表情」で戦っていただきたいと願う。

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