本の楽園」タグアーカイブ

連載エッセー「本の楽園」 第14回 グローバリズムとローカリズム

作家
村上 政彦

 デザイナーとは、「問題を解決する人」と梅原真はいう。これはソーシャルデザインの考え方に近い。彼はデザインを通じて現実に働きかける。それは顧客に利益を与えるばかりか、社会の在り方を、ほんの少し変える。
『ありえないデザイン』は、梅原自身による梅原デザインの解説書だ。高知県に生まれて11歳で和歌山に移った彼は、地元の高校を経て大阪芸術大学をめざすが、学費が高いという理由で、大阪経済大学に入る。卒業後は高知に戻って、地元新聞社のグループ企業の、あるプロダクションに勤めた。 続きを読む

連載エッセー「本の楽園」 第13回 休日の読書

作家
村上 政彦

 もともと勤勉な性格ではない怠け者なのに、貧乏暇なし、で働き過ぎたので、静養の日をもうけることにした。といっても、プライベートジェットで保養地に出掛けたり、五つ星ホテルで豪華なランチを取ったりはできない。身の丈に合った過ごし方をする。
 まず、昼近くまで寝て、たっぷりと睡眠を取る。起きたら、昨夜、妻に頼んでおいたので風呂が沸いている。湯の量は多めにしてある。浴槽につかったとき、溢れるぐらいが気持ちいいのだ。 続きを読む

連載エッセー「本の楽園」 第12回 ノーブック・ノーライフ(町の本屋篇)

作家
村上 政彦

 このコラムは、本好きによる、本好きのための読み物だ。これまで編集者、出版社について書いてきた。このあたりで書店について触れないわけにはいかない。「町の本屋」のことを語ろう。

 子供の頃、僕が暮らしていた家の近くに、S書房はあった。表に漫画や雑誌を置いて、奥の10坪ほどの狭いフロアに、文学や実用書など活字の本を並べている。レジにいるのは、主だったり、その奥さんだったりする。 続きを読む

連載エッセー「本の楽園」 第11回 ノーブック・ノーライフ(出版社篇)

作家
村上政彦

老舗の出版社の社長が、ある会合で挨拶をした。売れる本を出したい――一言でいうと、そういう話だった。僕は、溜め息が出た。彼を責める気持ちはない。多くの社員の生活を支える立場からすれば、仕方のないことだ。
しかも大手の出版社となると、社員は高給取りである。聞いたところでは、20代の後半で大台(年収1000万)に乗る会社もあるらしい。しかし――。 続きを読む

連載エッセー「本の楽園」 第10回 ポップでダークな大人の童話 ブコウスキーの小説『パルプ』

作家
村上政彦

 俺はニック・ビレーン。酒に救われ、競馬に慰められている、腹に贅肉のついた55歳の中年男。LA公認の私立探偵だ。ある日、オフィスにとびきりスタイルのいい、セクシーな女性が現われた。「死の貴婦人」(レイデイ・デス)を名乗る彼女は、セリーヌを探して欲しい、と依頼してきた。セリーヌだって? とうに死んだ作家じゃないか。しかし彼女は、セリーヌは生きている、街の書店に姿を見せたという。依頼とあれば仕方がない。1時間6ドルの報酬で請け負った。 続きを読む