僕は、いい短篇小説が書けたら小説家として一人前だとおもってきた。若いころからかなりの数の短篇小説を読んだ。西洋の小説家は、まず、詩人として出発して、やがて小説を書くようになることが多い。
僕もそれに倣おうとおもって、数編の抒情詩らしきものを書いたが、すぐ詩人になるのを諦めた。詩は書けない。がっかりしていたとき、川端康成の『掌の小説』を見つけた。読んでみると、これは詩ではないかとおもった。川端は詩の代わりに掌(たなごころ)の小説を書いたのだ。
日本の小説家で詩人として出発して、小説家になった例はあるが、西洋の作家ほど多くはないとおもう。それは日本の短篇小説が詩の代わりをしているからだと僕は見立てた。400字詰原稿用紙で20枚ほどの短篇小説――それは詩でもあり、小説でもある。 続きを読む
