嫌みに感じるほどの「才気」は、否定しようがない
荻野アンナ著/第105回芥川賞受賞作(1991年上半期)
選考委員の酷評
第105回の芥川賞は、前回取り上げた辺見庸の『自動起床装置』と萩野アンナの『背負い水』がダブル受賞となった。『文学界』(1991年6月号)に掲載された126枚の作品。
さて困った。ちっともいいと思えないのだ。自らの精神の居場所を探し求めながら、男関係のなかで揺れ動く独身女性の心情を描いているのだが、読後、「だから、どうした?」と、ため息をついてしまったのだ。
確かに、才気あふれる作家であることは、読み始めればすぐ分かる。けれども、例えば、そばに近づいて見ると確かにキラキラと部分的には輝いているのだが、離れて全体を見ようとすると、いったいどのような形状で何を表現しようとしているのかがつかめず、戸惑ってしまうのだ。 続きを読む