目の見えない老婆の踊るダンスに浮かびあがる輝きと寂寥感
藤沢周(ふじさわ・しゅう)著/第119回芥川賞受賞作(1998年上半期)
W受賞となった第119回芥川賞受賞作の一つは、藤沢周の「ブエノスアイレス午前零時」だった。それまでの藤沢周は、「ゲルマニウムの夜」の作者・花村萬月と共通する荒々しい力が持ち味だと思っていたが、本作品は、以前芥川賞候補となった3作品とは異なる静謐な空気を漂わせている。
――主人公のカザマは、東京を離れて雪深い故郷に戻り、冴えない温泉宿の従業員として働いていた。朝、源泉で温泉卵を作ることから始まる退屈な日々に埋没する生活を送っていた――。 続きを読む