街と人間の堕落が放つ甘美な腐敗臭
松浦寿輝(まつうら・ひさき)著/第123回芥川賞受賞作(2000年上半期)
湿り気のある静かな文体で引きずり込む
W受賞となった第123回芥川賞のもうひとつの作品は、松浦寿輝の「花腐し(はなくたし)」だった。原稿用紙約123枚。43歳での受賞。大学教授のかたわら詩人、評論家としても活躍していて、高見順賞、吉田秀和賞、三島由紀夫賞などをすでに受賞していた。芥川賞候補になったのはこれが2回目だった。
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舞台は、多国籍な街、新宿・大久保。主人公は、友人と立ち上げたデザイン事務所の経営が行き詰まり倒産に追い込まれた男。仕事も家も失った主人公は、雨降るある夜、今にも崩れ落ちそうな廃屋寸前のボロ・アパートの一室を訪ねる。他の住人が全て転居するなか、ただ一人居座る男を追い出すために恫喝しに来たのだ。借金をしている知り合いから依頼されて請け負った小銭稼ぎの仕事である。 続きを読む