キリスト教学僧の、信仰者としての精神闘争を描いた大作
平野啓一郎(ひらの・けいいちろう)著/第120回芥川賞受賞作(1998年下半期)
新人賞をすっ飛ばしての受賞
第120回芥川賞を受賞した平野啓一郎の「日蝕」は、異色の形で芥川賞候補となった。通常、芥川賞候補になる作品は、いわゆる純文学五大文芸誌(文學界、群像、すばる、新潮、文藝)のいずれかの新人賞を獲得した作品や、その後それらの文芸誌に掲載された作品が選ばれることが多いが、「日蝕」はそれまでに一度の受賞もなく、いきなりの芥川賞候補となった。有名な話だが、当時23歳の京大生だった平野は、そうした新人賞に応募しても途中で落とされると考えて、『新潮』の編集長に手紙を書き「日蝕」を渡し、それが『新潮』に一挙掲載されたのだ。それが話題となり、芥川賞候補にもなって受賞に至った。
こうした経緯から世間の注目を集め、中には「三島由紀夫の再来」などと評するメディアも登場した。 続きを読む





