『摩訶止観』入門

創価大学大学院教授・公益財団法人東洋哲学研究所副所長
菅野博史

第104回 正修止観章 64

[3]「2. 広く解す」 62

(9)十乗観法を明かす 51

 ⑬大車の譬え

 この段の冒頭に、

 是の十種の法を、大乗の観と名づく。是の乗を学ぶ者を、摩訶衍と名づく。云何んが大乗なる。『法華』に云うが如し、「各おの諸子に等一の大車を賜う。其の車は高広にして、衆宝もて荘校す。周匝(しゅうそう)して欄楯あり、四面に鈴を懸く。又た其の上に於いて幰蓋(けんがい)を張り設け、亦た珍奇の雑宝を以て之れを厳飾し、宝縄交絡して、諸の華瓔(けよう)を垂れ、重ねて綩莚(おんえん)を敷き、丹枕(たんしん)を安置せり。駕するに白牛を以てし、肥荘にして力多く、膚色(ふしき)は充潔に、形体(ぎょうたい)は姝好(しゅこう)にして、大筋力(だいこんりき)有り。行歩(ぎょうぶ)は平正(びょうしょう)にして、其の疾(はや)きこと風の如し。又た、僕従(ぼくじゅう)多くして、之れを侍衛(じえ)せり」と。(第三文明選書『摩訶止観』(Ⅲ)、近刊、頁未定。大正46、100上4~10)

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【道場拝見】第16回 拳龍同志会(上)

ジャーナリスト
柳原滋雄

千客万来の沖縄市の道場

 新城孝弘館長(しんじょう・たかひろ 1956-)が沖縄空手道「拳龍同志会」を設立したのは1983年。まだ20代後半だった。
 14歳で空手を始め、本部流や少林流に親しんだ後、上京して仕事をした8年間は松濤館空手で腕を磨いた。そこで本土の伝統空手の特徴を学んだ。沖縄に戻ってからは自分の道場を開いた後、泊手の使い手である當真正貴(とうま・せいき 1922-98)に20年以上師事した。現在は沖縄空手道拳法会拳武館の久場良男館長(くば・よしお 1946―)に師事する。前回紹介した剛柔流渡口系の流派である。そのため新城館長は自ら「流派という概念があまりない」と語るとおり、流派を超えた指導を行えるのが強みだ。
 この道場の特徴は、武術空手としての沖縄伝統空手を教えるだけでなく、青少年を中心とした競技空手の指導も熱心に行っている点にある。2021年東京オリンピック男子型部門で金メダルを取った喜友名諒選手が子ども時代に在籍した道場といえばわかりやすい。 続きを読む

「創価教育の源流」を学ぶ

創価大学池田大作記念創価教育研究所 客員研究員
塩原將行

第3回 すべての女性に教育の機会を-大日本高等女学会を設立-

向学心のある女性に学ぶ機会を

 創価大学の大学院を卒業後、母校の職員になった私は、通信教育部で7年半勤務させていただきました。創立者池田大作先生は、開学当初から通信教育部の開設を強く希望されていました。また、通信教育部開学式のメッセージでは、牧口常三郎先生が通信教育の事業に従事されていたことに言及されていました。私にとって、これらのことが、本格的に牧口先生の研究へ取り組むきっかけになったのです。

 1900年(明治33年)、4年制の尋常小学校が義務教育になり、授業料が原則無償となったことから、1905年(明治38年)には、小学校の就学率は男女あわせて95.6%(女子は93.3%)に上昇しました。しかしながら、中等学校への進学率は男女あわせて4.3%(女子は1.7%)にすぎず、向学心があっても学校で学ぶことができる女性はごくわずかでした。同年の高等女学校の数は、私立を含めても100校にすぎず、通える場所にはない地域も多かったのです。 続きを読む

与野党の新たな結集軸へ――「政策5本柱」示した公明党

ライター
松田 明

来秋までに「中道改革ビジョン」を策定

 公明党は11月29日に開催された「全国県代表協議会」で、「政策5本柱」を打ち出し、「中道改革勢力の軸」として出発することを約し合った。

 公明党は29日、各都道府県本部の幹部を集めた「全国県代表協議会」を党本部で開いた。連立政権離脱後の党の理念や政策の5本柱を示し、1人当たり国内総生産(GDP)の倍増などを掲げた。来秋の党大会までに「中道改革ビジョン」を策定する方針も表明。斉藤鉄夫代表は「中道改革の旗を高く掲げ、与野党の結集軸として新たな地平を力強く切り開く」と意気込んだ。(『毎日新聞』11月30日

 周知のとおり、公明党は10月10日をもって足掛け26年に及んだ自民党との連立に「区切り」をつけ、石破内閣の総辞職と同時に〝野党〟の立場になった。
 自民党は日本維新の会との閣外協力による〝連立〟(国際的にも政治学の世界では閣内協力しない政党間による政権を「連立」とは呼ばないが、自維政権は合意文書で「連立」と呼称している)を組み、高市政権の樹立にこぎつけた。 続きを読む

書評『創学研究Ⅲ』――世界平和の実現と人類救済の思想

ライター
本房 歩

多角的な視点からの「世界宗教論」

 このほど創学研究所(松岡幹夫所長)から『創学研究Ⅲ――世界宗教論』(第三文明社)が刊行された。
 既刊の「Ⅰ」は「信仰学とは何か」。「Ⅱ」は「日蓮大聖人論」。それに対して今回の刊は、同研究所の創立5周年を記念したシンポジウム(2024年)の成果をまとめるかたちで「世界宗教論」となっている。

 ここでは目次に沿って内容を概括したい。
 第1章は、創価学会の牧口常三郎初代会長と戸田城聖第2代会長の世界宗教観について考察したもの。歴史学や宗教学では「世界宗教」という言葉の淵源は、ローカルな宗教に対するキリスト教を意味するものであった。
 その後、1920年代から30年代に、民族宗教の対義語として用いられるようになり、キリスト教のほかに。仏教、イスラム教、場合によってはユダヤ教、儒教、ヒンドゥー教なども含意するようになった。
「世界宗教」には普遍的宗教と覇権的宗教の両義性がある。創価学会の場合、牧口会長が提唱した「人道的競争」、戸田会長が提唱した「地球民族主義」の理念から、覇権主義やイデオロギー対立を排することが可能だと論じている点が興味深い。 続きを読む