【道場拝見】第9回 喜舎場塾田島道場(松林流)〈上〉

ジャーナリスト
柳原滋雄

松林流から〝進化〟した会派

 松林流の喜舎場塾といえば、私の知る限り、沖縄の空手流派の中では最も研究熱心なグループ(会派)の一つとして位置づけられる。
「沖縄空手道松林流喜舎場塾」は、戦後の沖縄空手界を牽引した長嶺将真(ながみね・しょうしん 1907-97)のもとで三羽烏と謳われた弟子の一人、喜舎場朝啓(きしゃば・ちょうけい 1929-2000)を始祖とする会派で、独特の腰使いなどを特徴としてきた。同塾の2代目となる新里勝彦(しんざと・かつひこ 1939-)塾長は名の知られた存在だが、〝弟弟子〟にあたるのが現在、三原道場(三原公民館、水・土19時~)を運営する道場主の田島一雄・教士8段(1947-)である。
 三原道場での稽古を2度ほど見学し、技法の概要や流派の思い出を取材した。 続きを読む

若者意識と「政党学生部」――2020年以降の変化とは

ライター
松田 明

新たに台頭した「ネット地盤」

 2024年の衆議院選挙は、与党が過半数割れの少数に追い込まれただけでなく、野党第一党の立憲民主党を含め、いわゆる既存の〝組織政党〟にも逆風が吹いた。
 大きな要因として、まず「SNS」を中心とした〝ネット地盤〟が台頭したことがある。

 かつてSNSは若い人のツールと思われていた節があるが、コロナ禍が様相を一変させた。高齢者でもネットにはまる人が急増したのである。「令和5年高齢社会白書」によると、高齢者のネット利用は2017年から2022年で約2.5倍に増えている。
 先の兵庫県知事選挙でも、若者だけでなく少なからぬ高齢者もSNSで情報収集し投票先を決めていた。

 とくに30代以下では新聞やテレビを読まない/見ない人が多く、情報収集はほぼネットになっている。 続きを読む

『摩訶止観』入門

創価大学大学院教授・公益財団法人東洋哲学研究所副所長
菅野博史

第72回 正修止観章㉜

[3]「2. 広く解す」㉚

(9)十乗観法を明かす⑲

 ⑤善巧安心(3)

 (2)別して安心を明かす②

 ④信行の安心のための八種の方法

 次に、信行の人の心を法性に安んじる八種の方法について説明している。八種の方法とは、止と観にそれぞれ四悉檀があり、合わせて八種となる。テキストの引用は省略し、内容について簡略に説明する。

①苦しみ悩みが一杯で心が散乱している者に対して、心の散乱を止息させ根本に達して、その心を一つにするように、巧みな手段、さまざまないわれ、さまざまな比喩によって、広く止をほめたたえて、その気持ちを喜ばせることが、衆生の願望(楽欲)にしたがって(随楽欲=世界悉檀)止によって心を安んじることと名づける。

②禅定が不足して心が散乱している者に対して、巧みな方便、さまざまないわれ、比喩によって、広く止をほめたたえ、その善根を生じることを、便宜にしたがって(随便宜=為人悉檀)止によって心を安んじることと名づける。 続きを読む

書評『もし君が君を信じられなくなっても』――不登校生徒が集まる音楽学校

ライター
本房 歩

増加傾向にある「不登校」児童・生徒

 本書は、福岡市の音楽学校「C&S音楽学院」創立者・毛利直之と、西日本新聞の記者として同校の在校生や卒業生たちを取材してきた首藤厚之の共著である。
 最初に触れておくと、「C&S音楽学院」はプロのミュージシャンなど多彩な人材を輩出してきた音楽の専門学校である。しかし、それ以上に今や同校は、数多くの「不登校生徒」だった子どもたちを蘇生させてきた学校として知られている。
 その教育理念と長年の実践、傑出した成果は、平和学の国際会議でも取り上げられ、アイルランドの高校などとも交流してきた。

 文部科学省の発表によると、2023年度の学校長期欠席いわゆる「不登校」の児童・生徒数は、小中学校で34万6482人。前年度から4万7434人(約16%)増加した。高等学校における不登校生徒数は6万8770人で、前年度から8195人(13.5%)増となっている。
 加えて、高等学校の中途退学者数は4万6238人。こちらも一旦は減少傾向にあったが2020年を境に再び増加に転じている。 続きを読む

芥川賞を読む 第46回 『終の住処』磯﨑憲一郎

文筆家
水上修一

寄る辺のない不穏な空気

磯﨑憲一郎(いそざき・けんいちろう)著/第141回芥川賞受賞作(2009年上半期)

挑戦的な作風

 磯﨑憲一郎の「終の住処」。2度目の芥川賞候補で受賞。当時44歳。
 小説は、何をどのように書いても自由なわけだが、ある程度の作法というものはあるはずだ。そうしたものを壊して新たな作法で書くことは、小説の新たなおもしろさを開く可能性を秘めている反面、失敗すれば理解不能にもなりかねない。「終の住処」は、そうした挑戦的な試みに満ちているような印象を受けた。
 まず、時間軸が長い。結婚をして、子供が生まれて、何人もの女性と不倫を重ね、家を建てて、老いを目前にするまでの長い人生の時間を、わずか原稿用紙110枚程度で描いている。一貫して流れているのは、家族、なかんずく妻という他人との理解しがたい境である。
 また、そこで起きるさまざまな出来事には連続性がない。AがあったからBがあってCとなるといった、因果関係に基づいた連続性がないので、個々の出来事が全く無関係な無機質な独立した出来事のように見えるのだ。 続きを読む