「連立離脱」までのタイムライン――なぜ10月10日がリミットだったのか

ライター
松田 明

7割強が「連立離脱」に理解を示す

 10月10日午後、公明党は連立政権からの「離脱」を決断した。
 3年3カ月の民主党政権時代を挟んだとはいえ、足掛け26年におよぶ自公連立の関係に区切りをつけたことになる。

 国政では少数政党である公明党が、これほど長きにわたって国家の運営に携われたことは、世界の政治史のなかでも特筆される稀有な機会だっただろう。
 まず公明党の支持者の1人として、多くの難局を共に乗り越えてきてくださった自民党議員や、その党員・支持者の方々に深く感謝を申し上げたい。

 10日の午後2時前から、国会内の常任委員長室で開かれていた自公の党首・幹事長会談が終了したあと、午後3時半過ぎにNHKが「公明・斉藤代表、連立政権離脱の方針」と速報。与野党には衝撃が広がった。
 同日夜以降、報道番組は地上波もネットも相次いで斉藤鉄夫代表に出演を依頼。皮肉にも政権を去ることが決まって初めて、公明党が日本政治のなかでいかに重要な存在であったかを、多くの国民に印象づけるかたちとなった。

 翌11日の各紙朝刊は、いずれも1面で大きく報道。〈「政治とカネ」溝〉(読売新聞)、〈公明「政治とカネ 限界」〉(朝日新聞)、〈自民と献金問題で決裂〉(日本経済新聞)、〈政治とカネ平行線〉(毎日新聞)、〈政治とカネ巡り決裂〉(産経新聞)と、どの新聞もそろって、連立離脱の理由が「自民党の政治とカネ」であることを主見出しで伝えた。 続きを読む

芥川賞を読む 第62回 『コンビニ人間』村田紗耶香

文筆家
水上修一

異質なものの滑稽さと、異物排除の恐ろしさ

村田紗耶香(むらた・さやか)著/第155回芥川賞受賞作(2016年上半期)

周囲に擬態するように生きる主人公

 第155回「芥川賞」の受賞後、日本のみならず、世界40カ国語に翻訳された「コンビニ人間」。アメリカの雑誌『The New Yorker』が毎年主催している「THE BEST BOOKS 2018」にも選ばれるなど、世界各国で読まれた話題作だ。

――主人公の「私」は、同じコンビニで10年以上アルバイトとして働き続けている30代の女性。正社員になったことは一度もなく、男性と付き合った経験もない。そんな彼女は、幼少期に世間の〝普通〟と自分が違うことに気づき始めた。例えば、普通の人が悲しいと感じる出来事に対しても無機質な感情しか持てず、言葉の裏にある感情がくみ取れずにちぐはぐなコミュニケーションになる――等々。
 周りとは異質な自分を自覚しながらも、排除されないように、懸命に〝普通〟を演じながら生きてきた。
 そんな「私」が自分の地のままでいられる場がコンビニという職場だった。マニュアル化された手順に沿って仕事をして、マニュアル通りに客に対応すれば、優秀なアルバイターとして同僚からも信頼され、立派な社会人のようにそこに存在することができる。まさにコンビニこそが普通の人として存在できる場所だったのだ。 続きを読む

書評『奪われた集中力』――加速化し続ける世界の在り方に警鐘を鳴らす

ライター
小林芳雄

集中力の衰退を招いた原因とは

 著者ヨハン・ハリは、日常的な問題を綿密な調査と取材によって徹底的に掘り下げることに定評があるジャーナリストであり、世界的なベストセラー作家である。
 本書『奪われた集中力』では「なぜ人々は集中できなくなったのか」という問題をとりあげている。3カ月間、インターネットを遮断した環境に身を置き、さらに世界を駆け回り、250人を超える有識者にインタビューを重ね、その核心に迫る。

ぼくらの多くにとって読書は、経験することができるもっとも深い集中が形になったものだ――人生におけるたくさんの時間を、冷静に、心を静めて、一つの話題に費やし、心に浸透させていく行為だからだ。これを手段として、過去四〇〇年にわたる思想の大きな進歩がほぼ理解され、説明されて来た。その経験が今、一気に減少しているのである。(本書90ページ)

 集中力の萎縮を象徴するのが〝読書の衰退〟である。紹介されている調査によれば、現在、読書を娯楽とする米国人の割合は過去最低であり、1年間に1冊の本を読まなかった人の割合は57パーセントに達するという。 続きを読む

連載「創価教育の源流」を学ぶ

創価大学池田大作記念創価教育研究所 客員研究員
塩原將行

第2回 創価教育学を生み出した牧口常三郎の教育実践 [後編]

『人生地理学』出版への道のりと出版後の反響

『評伝 牧口常三郎』では、牧口先生自らの教育実践を通して生まれた研究をもとに、地理科の根本的改良を目指した『人生地理学』の解説に、全体6章のうち1章を割いています。それは、『人生地理学』が人々の生活に光をあてた思想の書であり、創価の思想を探究する上で極めて重要な一書だからです。
 創価教育学会の臨時総会を報じた会報『価値創造』第1号に、戸田とだ城外じょうがい(のちに城聖じょうせいと改名)理事長の話として「学会発展の歴史を述べるには牧口先生の心理過程を語らねばならぬとて、『人生地理学』の出版から『創価教育学体系』の上梓に至るまでの経路を要領よくまとめて述べ(趣意)」と報じられています。戸田先生は、牧口先生の思考の流れが、創価教育学会の大きな根幹になっていると述べているのです。
 1901年(明治34年)5月、北海道師範学校を退職して上京した牧口先生は、地理書の出版に向けて、歴史地理の専門家である坪井九馬三つぼいくめぞう博士のもとを何度も訪れ、多岐にわたって指導を受けながら草稿を整えていきました。しかし、出版までの道のりは平坦なものではありませんでした。何よりも肝心の著作を出してくれる出版社が見つからなかったのです。 続きを読む

連載対談 哲学は中学からはじまる――古今東西を旅する世界の名著ガイド

福谷 茂 ✕ 伊藤貴雄

第1回 哲学を学ぶということ①~対談のはじめに

(対談者)
福谷 茂(京都大学名誉教授、創価大学名誉教授)
伊藤貴雄(創価大学文学部教授)

伊藤教授の研究室にて

編集部 福谷先生、伊藤先生、このたびは連載企画をお引き受けくださりまして、ありがとうございます。

 本企画は、中学生・高校生、また大学生から社会人まで、これから哲学を学ぶ人にとっての第一歩、入門編となるような対談企画です。

 福谷先生の読書ガイド『書海按針―学部学生のための読書ガイド―』(京都大学学術情報リポジトリ――KURENAI)は、多くの方に読まれ、哲学入門の手引として高く評価されています。
 福谷先生の熱意と膨大な本の知識を、哲学を学びたいと考えている方々に向けた「哲学入門」として活かせないだろうか――。そんな思いから、この連載の企画が始まりました。

 最初は「哲学に関する書評」をという漠然としたものでしたが、福谷先生から「中学生や中学の先生にもわかりやすいもの」、さらに「伊藤先生との対談形式なら深く、わかりやすく語ることができる」との提案をいただき、方向性も決まり、また本連載のタイトルも、「対談 哲学は中学からはじまる――古今東西を旅する世界の名著ガイド」と決まりました。

 また、福谷先生、伊藤先生のお二人とも、哲学を志すきっかけとなった読書体験を、それぞれの中学時代に遡ることができるとも伺っております。 続きを読む