書評『JAPと呼ばれて』――第一級のオーラル・ヒストリー

ライター
本房 歩

日系人部隊442連隊

 ハワイ真珠湾奇襲攻撃によって日米が開戦してから80年となる2021年12月8日。米国にとって長いあいだ〝忌まわしい記憶〟であったその日、その真珠湾で、米海軍の新しい駆逐艦の就役式がおこなわれた。
 駆逐艦の名前は「ダニエル・イノウエ」。ハワイに生まれた日系2世で、長く上院議員を務めて2012年に逝去した故ダニエル・イノウエの名を冠したものだ。日系人の名前が米軍の艦船につけられたのは初めてのこと。
 日系アメリカ人の歴史は、1868年(明治元年)の最初の移民団にさかのぼる。主にハワイや西海岸の労働者として入植した人々は、過酷な環境のなかで米国社会に根を張った。やがて2世たちも生まれ育ち、それぞれに苦労が実りはじめていた。
 1941年12月8日(米国時間では7日)早朝の真珠湾奇襲攻撃は、そんな日系人たちの運命を一瞬で変える。 続きを読む

連載エッセー「本の楽園」 第125回 すべてをDiY

作家
村上政彦

 DiY=Do it Yourselfというと、すぐに思い浮かぶのは大工仕事ではないか。日曜のパパが普段は持ちなれない工具を手にして、危なっかしい手付きで棚を懸けたり、椅子を作ったり。しかし、ここでいうDiYは少し違う。

七〇年代のパンクロックにはじまり、八〇年代のレイヴ文化で育まれ、九〇年代のインターネット文化や環境運動、新しい文化=政治運動とともに世界中に広がっている思想です

 世界は悪くなっている。人間の管理が強化されている。僕らは生きているというよりも、生かされている。そこで、

なんとかして、じぶんの生活を自分の手に取り返したい!

 ざっくりいうと、DiYはそういうことらしい。 続きを読む

書評『創学研究Ⅰ』――師の実践を継承しようとする挑戦

ライター
本房 歩

創価学会にとっての「神学」

 創学研究所(松岡幹夫所長)は2019年に開所した。創学とは「創価信仰学」のこと。開所にあたって松岡所長は「信仰と知性の統合」という基本理念を披歴した。
 キリスト教には、教会の教理としての「教義学」と、その外側にあって個人が普遍的な言語で試論を展開する「キリスト教思想」がある。

 個人の試論であるキリスト教思想は、正式な教会の教義ではありません。しかし、教会に対して、一つの議論を提供することにはなります。時代と共に歩む「生きた宗教」には、不断の教義の再構成や展開が常に求められています。優れた哲学や思想の考え方を取り込んだキリスト教思想は、個々人の主張であるにもかかわらず、時代の変化に対応した教会の教義の見直しに際し、質の高い選択肢を用意してきたと言えるでしょう。
 我々創学研究所は、このキリスト教思想のような役割の一分を、創価学会の中において果たしていければと考えています。(『創学研究Ⅰ――信仰学とは何か』「発刊の辞」松岡所長)

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2021年「永田町の通信簿」③——真価を発揮した公明党

ライター
松田 明

国民が政治に求めたもの

 新型コロナウイルスのパンデミックがはじまって2年。世界各地ではオミクロン株によるとみられる感染拡大が爆発的に増えており、事態の長期化は避けられない見通しだ。
 日本国内でもコロナ禍で多くの国民が苦痛や困難を強いられ、生きる基盤そのものの揺らぎに直面した。その意味では、公明党が党の「綱領」の冒頭に掲げている、

〈生命・生活・生存〉を最大に尊重する人間主義を貫き、人間・人類の幸福追求を目的とする

 政治というものの重要性を、あらためて誰もが痛切に感じる日々だったといえる。
 同時に、こうした理念に立って政権与党の一翼を担ってきた公明党の真価が、かつてないほど発揮されたのが、このコロナ禍の2年だった。
 公明党が野党時代から一貫して、医療、社会保障、教育、人権、環境といった問題を政治の中心部へと押し上げ続けてきたことは衆目の一致するところだ。 続きを読む

わたしたちはここにいる:LGBTのコモン・センス 第4回 フツーを作る、フツーを超える:トランスジェンダーの生活と意見(後編)

山形大学准教授
池田弘乃

前編では、たくやさんがGID(「性同一性障害(Gender Identity Disorder)の略語)の言葉を知る前の、自分らしさを封印して生きていた時期を紹介した。

GIDという言葉

 たくやさんがGIDの言葉に「出会った」のは何気なく開いた週刊誌の記事だった。それ以前から「ニューハーフ」についての記事、ニュース、テレビ番組は目にしていたが、自分とは関係ないものと感じていた。「ニューハーフ」のいわば「逆」にあたるのが自分かもしれないという発想は微塵も浮かんだことがなかった。
 GIDという言葉を手にしてたくやさんの気持ちは一気にすっきりとした。早速、自分がGIDに違いないと母親にカミングアウトする。しかし、母の返事は「あなたのことを娘として産んだ」というそっけないものだった。たくやさんが密かに期待していたのは、「そういう風に産んで悪かったね。一緒にがんばっていこうね」というセリフだったのだが、母からは「あなたが男として生きたいのであれば、男として通用する実績を自分でつくっていきなさい。自分の責任で」と突き放すような言葉がかえってきた。期待に反する母の反応に落胆したたくやさんだったが、しだいに母はあの時「茨の道を進むのなら行きなさい。強くなりなさい」と言いたかったのかなと思うようになる。母親自身も、たくやさんのカミングアウトを受け、我が子について、そして我が子との関係のあり方について悩みはじめ、葛藤し始めていく。たくやさんの前ではGIDについて「私はわからない」と繰り返す母だったが、実はしだいにGIDに関する情報を調べたり、ニュースを見たりするようになっていったそうだ。 続きを読む