前編では、たくやさんがGID(「性同一性障害(Gender Identity Disorder)の略語)の言葉を知る前の、自分らしさを封印して生きていた時期を紹介した。
GIDという言葉
たくやさんがGIDの言葉に「出会った」のは何気なく開いた週刊誌の記事だった。それ以前から「ニューハーフ」についての記事、ニュース、テレビ番組は目にしていたが、自分とは関係ないものと感じていた。「ニューハーフ」のいわば「逆」にあたるのが自分かもしれないという発想は微塵も浮かんだことがなかった。
GIDという言葉を手にしてたくやさんの気持ちは一気にすっきりとした。早速、自分がGIDに違いないと母親にカミングアウトする。しかし、母の返事は「あなたのことを娘として産んだ」というそっけないものだった。たくやさんが密かに期待していたのは、「そういう風に産んで悪かったね。一緒にがんばっていこうね」というセリフだったのだが、母からは「あなたが男として生きたいのであれば、男として通用する実績を自分でつくっていきなさい。自分の責任で」と突き放すような言葉がかえってきた。期待に反する母の反応に落胆したたくやさんだったが、しだいに母はあの時「茨の道を進むのなら行きなさい。強くなりなさい」と言いたかったのかなと思うようになる。母親自身も、たくやさんのカミングアウトを受け、我が子について、そして我が子との関係のあり方について悩みはじめ、葛藤し始めていく。たくやさんの前ではGIDについて「私はわからない」と繰り返す母だったが、実はしだいにGIDに関する情報を調べたり、ニュースを見たりするようになっていったそうだ。 続きを読む