共産党の〝実績〟を検証してみた――「都政がかじを切った」は本当か?

ライター
松田 明

共産党が主張する〝実績〟

 7月4日投開票の東京都議会議員選挙。
 今回、日本共産党がその〝実績〟の柱にすえて盛んに宣伝しているのが、「認可保育所の増設」というものだ。
 ピーク時の3割にまで退潮が続いていた共産党都議団が、前々回2013年の都議選で8議席から17議席に、前回17年は19議席に増えた。民主党政権が失敗に終わり、その後も迷走を続けたことで、行き場のなくなった不満票が共産党へ流れたのだ。
 都議会で条例等を提案するには議員定数(127人)の12分の1(11議席)以上の賛成者が必要。共産党は13年後半からようやく提案権を復活できた。
 これによって、〝共産党が都政を動かし認可保育所が大幅に増えた〟というのである。
 4月21日の東京オンライン演説会に登壇した同党の志位和夫委員長は、

2013年の都議選の躍進で条例提案権を回復した共産党都議団がまず提出したのは、認可保育所をつくるときの土地代を補助する条例案でした。(「しんぶん赤旗」4月23日)

共産党の条例案が契機になって、都政は認可保育所増設の方向にかじを切りました。一貫した共産党都議団のがんばりで、都の保育所予算は13年以降6倍になり、施設数は1・7倍になりました。(同)

と演説した。
 今、共産党の都議選候補者たちも、そろってこの主張を宣伝している。

予算に反対しておいて「実績」?

 まず、そもそも論として、共産党都議団は一貫して都の当初予算に〝反対〟し続けてこなかったか?
 小池知事が初めて編成した東京都の2017年度一般会計予算が都議会の〝全会一致〟で可決成立した際、新聞各紙で大きく話題になった。それまで40年近く都の予算案に反対し続けてきた共産党が、この年だけ賛成に回ったからだ。

都の一般会計予算案に共産が賛成するのは、美濃部亮吉知事時代の昭和53年度以来、39年ぶりという。(『産経新聞』2017年3月28日)

共産党は鈴木俊一都政以来、知事とは対決姿勢を示し、予算案には一貫して反対の立場を取ってきた。(『日本経済新聞』2017年3月30日)

 この時ばかりは、支持率の高い小池知事を敵に回すのは得策でないと賛成したが、その翌年からは、またお決まりの「反対」である。
 どのような施策であれ、予算を執行させて初めて〝実現〟できるもの。
 2017年のたった1度の例外を除いて、共産党都議団は都の当初予算に半世紀近く反対し続けてきた。予算そのものに反対したなら、その予算で実現されたものを普通は〝実績〟とは言わない。
 しかし、日本共産党は平気で自分たちの〝実績〟だと語って有権者を釣るのである。

すべての他会派により〝否決〟

 さらに細かく検証していこう。
 志位委員長が語った、2013年に共産党が出した「条例案」が契機となって東京都が〝認可保育所増設にかじを切った〟というのは本当だろうか?
 この年の第3回定例会に、共産党都議団は「東京都保育所建設用地取得費補助条例」なる案を出してきた。
 これがどれほどいい加減なものであったかは、議事録に詳細に残っている。共産党の条例案は、50億円もの予算規模でありながら、執行機関である都と財源見通しの協議さえしていない無責任きわまりないものだった。
 過半数の賛同を得て成立させることなど、最初から考えていないのだ。独善的なパフォーマンスだと厳しく非難され、共産党を除くすべての会派から反対され「否決」されている。
 当然そんな廃案が都政を動かすはずもなければ、かじを切らせるはずもない。

「かじを切った」事実はない

 さる6月2日の都議会本会議。都議会公明党の高倉良生議員は、共産党の2013年の条例案提出がきっかけで「都政が認可保育所増設の方向にかじを切った」という事実があるのかないのか、都の見解をただした。
 答弁に立った梶原洋・副知事は、

保育の実施主体である区市町村が、認可保育所、認証保育所、認定こども園、小規模保育、家庭的保育など地域のさまざまな保育資源を活用して整備する。こうした考えのもと、都は保育サービスを整備する区市町村の取り組みを支援してきており、現在もこの考えに変わりはございません。(「6月2日代表質問・一般質問」3:28:00頃から)

と、ことさら認可保育所だけに特化した増設をしていないことを明言した。共産党が言うような「都政が認可保育所増設にかじを切った」という事実などないのだ。

保育拡充は2008年度から開始

 さらに副知事は、都は2008年度(平成20年度)に開始した「保育サービス拡充緊急3カ年事業」以降、今日まで目標を定めて保育の拡充を進めてきたことを詳細に答弁。
 共産党の宣伝する「2013年から都政がかじを切った」という話がデタラメであることは、梶原副知事の答弁で鮮明になった。
 では、共産党が2013年の幻の条例案で掲げた〝保育所の用地購入費補助〟を、これまで東京都がおこなった事実はあるのだろうか。
 これについても梶原副知事は、

なお、保育所の用地購入補助については、これまでおこなっておりません。(同)

とハッキリ否定した。
 共産党がパフォーマンスで出した「認可保育所をつくるときの土地代を補助する条例案」は、廃案になっただけでなく、その提案内容も、ただの1度さえ都政に反映されていないのである。

「安上がりな保育」と罵倒

 さらに副知事は、2016年4月から昨年4月までの4年間で、983カ所増えた認可保育所の〝内訳〟を明らかにした。

この間、公立保育所は901カ所から838カ所に減少する一方、私立保育所は1441カ所から2487カ所に増加をしております。また私立保育所の主な設置主体別の内訳は、社会福祉法人が943カ所から1207カ所へと264カ所の増。株式会社が382カ所から1104カ所へと722カ所の大幅な増加となっております。(同)

 小池都政になってからの4年間で〝大幅な増加〟となったのは、株式会社が設置した私立保育所。ここが重要なポイントだ。
 じつは日本共産党は党の公式サイトで、

民間・企業頼みの安上がりな保育(日本共産党サイト)

規制緩和と企業参入を拡大し、保育の質の低下をもたらしています(同)

問題が相次いでいる企業主導型保育(同)

等と、企業による保育所を罵倒し非難している。
 共産党がデマを積み上げて〝実績〟だと主張する〝認可保育所の増設〟の大部分は、自らが「安上がりな保育」と罵倒する株式会社設置の保育所なのだ。
 もしもそれが同党の〝実績〟だと言うなら、有権者へのとんだ裏切りではないのか?

●そもそも都の当初予算に反対し続けてきた。
●2013年の共産党条例案はすべての他会派から反対され廃案になった。
●都が2013年から特段の方針変更をした事実はない。
●共産党条例案の提案(用地購入費補助)はこれまで1度も実施されていない。
●大幅に増えたのは共産党が罵倒している株式会社設置の認可保育所。

 これだけ事実が並べば、もう十分だろう。
 東京都の認可保育所増設に関して、共産党の主張する〝実績〟などどこにもない。それを分かっていながら、平然とデマを並べて有権者をあざむく。
 これが、公安調査庁が調査対象団体としている日本共産党の手法なのだ。

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