2020年の政治をふりかえる(与党編)

ライター
松田 明

危機が明らかにしたもの

 自公連立政権にとって2020年は、まちがいなく2012年末の政権復帰以降でもっとも〝危うい〟1年となった。
 とともに、未曽有の危機のなかで、2つのことが一層鮮明になった1年でもあった。1つは、自民党単独政権ではなく公明党との連立を組んできたことの成果。もう1つは、自民党と公明党の価値観の違いである。
 1月に国内でも感染者が確認されて以降、じつは厚労省など政府の初動は「新型インフルエンザ等特措法」に基づいて、きわめてシステマティックに迅速に進んでいた。
 一方で、「アベノマスク」や「星野源コラボ動画」など無用な批判を招いた失態は、官邸が与党との十分なコミュニケーションを怠って独走した結果であろう。
 国民の生活実感を共有し、そのリアルな声を拾い上げる機能が、自民党には脆弱だったのである。「GoToトラベル」一時停止を発表した夜に自民党首脳と菅首相らが会食して批判を浴びている件も、同質の問題ではないのか。そこには大衆との乖離がある。
 その点で、同じ与党でも公明党は「大衆とともに」が党是だ。地方議員と国会議員が互いに「さん」づけで呼び合い、緊密にフラットに連携する。生活者の感覚、とりわけ弱い立場に置かれている者の声を拾い上げるネットワークを持っている。
 公明党には官僚を罵倒するような傲慢さもないし、個々の議員がモラルと自制心をもって身を処していることは、衆目の一致するところだろう。
 日本政治が世界的に見ても際立って安定している背景には、性質の異なる自公が連立を組んで政権運営をしてきたことがある。

きめ細かい提言を政府におこなう

 公明党はネットワーク政党であると同時にさまざまな分野の〝スペシャリスト集団〟であり、しかも意思決定が速い。
 まず、公明党はいち早く2月14日に「専門家会議」の設置を政府に促した(「時事ドットコム」2020年2月14日)。
 さらに、ネットワークの強みを生かして2月のうちから中小企業など各種団体からのヒア リングを連続して実施し、雇用調整助成金の対象を海外訪日客だけでなく国内客のキャンセルで損害を受けた観光事業者にも広げることや、休業補償の対象をフリーランスにも拡大すべきことなど、具体的なきめ細かい提言を政府におこなった。
 所得が減った世帯に限定して30万円の給付を決定していた政府の方針に対し、緊急事態宣言が発令されたあと、山口代表は「一律10万円」給付に転換するよう安倍首相(当時)を説得した。
 緊急事態宣言下で制約を強いられる人々のあいだに分断が生じかねない危うさを、公明党は敏感に感じ取ったのである。

 公明党は、新型コロナウイルスによる感染者が増えている危機的な状況において、社会の分断をつくらない方向に導いた。もし、一律給付という形でなかったならば、日本社会は大変な状態になっていただろう。これは、正しく評価されなければならない。(作家の佐藤優氏/『公明新聞』5月6日)

未婚のひとり親も控除対象に

 長引くコロナ危機による経済的困窮は、若い世代の「学び」の継続にも深刻な影響を与えた。
 8月、公明党は中間所得層への力強い支援などを盛り込んだ提言「青年政策2020」を安倍首相に提出している。
 超党派の団体である日本若者協議会の室橋祐貴代表は、

 私たち日本若者協議会の問題意識と合致していることに驚きました。表面的に若い世代の意見を聞くフリをする団体はいくらでもあるのですが、その真意をつかみ、これほどまで政策に反映しているのは公明党以外に考えられません。(『第三文明』2021年1月号

と高く評価している。
 コロナ対策以外でも、本年はいくつか画期的な政策転換があった。そのひとつが、3月に成立した令和2年度税制改正法案で「未婚のひとり親」でも離婚・死別した人と同様に税制上の控除を受けられるようになったことだ。これも自民党は家族観にこだわって消極的だったが、公明党が強く主張して実現させた。
 記録的な7月豪雨の渦中に熊本県を視察した山口代表は、国の防災減災緊急3カ年計画が今年度で終了することに触れ、さらなる中長期的な対策を国に求めた。
 その結果、政府は事業規模15兆円の2021年から25年までの「防災・減災、国土強靭化のための5カ年加速化対策」を、さる12月11日に閣議決定した。これには、3か年計画にはなかったインフラ老朽化対策なども盛り込まれている。
 12月15日に閣議決定した第3次補正予算案は、感染症拡大防止、ポストコロナに向けた経済構造の転換、防災・減災、国土強靭化など、21・8兆円の追加支出をするものとなった。公明党が11月24日に政府に提言した内容が反映されている。

「広島3区」と公明党の価値観

 この1年は自民党内にスキャンダルがつづいた。河井克行・元法相(広島3区)と妻の案里議員が公職選挙法違反容疑で逮捕。さらに、「桜を見る会」前夜祭に安倍事務所が費用の一部を補塡していたことが「関係者」から報道機関にリークされた。
 12月に入ると、広島県内の大手鶏卵生産業者の元代表から元農林水産大臣の吉川貴盛衆議院議員や西川公也氏(前衆議院議員)らに現金が渡されていたと報道された。この事件は河井夫妻の捜査のなかで出てきたものだ。
 政権与党内のこうした不祥事は、国民の政治不信を増大させ、コロナ禍の危機に対処する政権基盤を不安定にする。さりとて、共産党との一体化を進めている立憲民主党が政権の受け皿になる状況にないことは、その支持率の低さにもあきらかである。

 派閥の力が衰えていること、また前政権が長期化したこともあって、自民党内からは異論が出にくい構造になってきています。何か問題が起きた時に声を上げられるのは公明党なんです。(中北浩爾・一橋大学大学院教授/『第三文明』2021年1月号

 政治の安定のためにも、与党には失われた信頼を回復する責任がある。公明党は斉藤鉄夫副代表を、次期衆院選で広島3区から擁立することを発表した。

 広島3区を地盤とする元法相の河井克行被告と妻の案里被告(ともに自民党離党)は、昨年夏の参院選に絡む公職選挙法違反事件で公判中。公明党は、支持者の間で政治不信が強まっているとして、候補者擁立に踏み切った。(「時事ドットコム」11月22日

 2012年末の政権復帰以降、自公は合意形成に努めてきた。それは「保守・中道」路線として定着してきたし、未曽有のコロナ禍のなかで、より多様できめ細かい政策実現に寄与してきた。
 あえて公明党が火中の栗を拾う覚悟で党副代表を広島3区から擁立すると決めたのは、同党の譲れない価値観があることを示すものだろう。
 広島3区の候補者の問題は、自公の価値観の違いを明確にしたと同時に、同選挙区の有権者が「共産=立憲」「保守・中道」いずれの価値観を選択するのかを問うものになる。
 被爆75年の本年、公明党は核兵器禁止条約の発効後に開かれる締結国会議を広島か長崎に誘致し、日本がオブザーバーとして会議に参加するよう政府に求めてきた。
 広島市の一部を含む選挙区から、公明党副代表が与党候補として当選することの意味は大きい。

「2020年の政治をふりかえる」:
2020年の政治をふりかえる(野党編)
②2020年の政治をふりかえる(与党編)

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