投稿者「web-daisanbunmei」のアーカイブ

芥川賞を読む 第8回 『運転士』藤原智美

文筆家
水上修一

ひとりの地下鉄運転士の内面を徹底して描き切る

藤原智美著/第107回芥川賞受賞作(1992年上半期)

無機質な運転士の変貌

 第107回芥川賞を受賞したのは、当時36歳の藤原智美の『運転士』だった。『群像』(1992年5月号)に掲載された127枚の作品だ。

 主人公には名前はなく、「運転士」と表記されるだけだ。この無機的な表現方法は、主人公の内面とうまく共鳴し合う。主人公が地下鉄の運転士を仕事に選んだ理由は、時間と方法が確立されていて、いい加減なものが入り込む余地のない明確な仕事だからだ。彼にとって曖昧さは不自由さと同じ意味を持つ。あえて地上の電車ではなく地下鉄を選んだのは、天候によって運航が乱されることも昼夜の光量の差もなく、常に一定の条件で運転できるからだ。 続きを読む

核兵器の恐怖から人類を解放するために(下)――理想と現実のギャップを乗り越えていくために

中部大学教授
酒井吉廣

 8月6日の広島平和記念式典の後の記者会見で、菅首相は、核兵器禁止条約(以下、核禁条約)の署名・批准やオブザーバーとしての参加の意思がないことを表明すると共に、NPT(核不拡散条約)の下で核兵器の不拡散に努めると語った。前回も触れた通り、日米安全保障条約に基づく米国の核の傘の下にある日本の宰相として菅首相のコメントは当然の内容で、筆者はこの国際情勢の現況を睨んだ判断を多としたい。
 これに対して、野党の多くは日本国が核禁条約に書かれているオブザーバーとしての参加を主張し、日本共産党は核禁条約のすみやかな署名・批准を主張した。日本国が、核禁条約へのオブザーバー参加を考える事は難しいというのも前回触れたとおりである。オブザーバー参加して、米国の核の傘の下での防衛体制を敷きながら、それを否定する核禁条約加盟国と話し合いをするという二股外交などあってはならないからだ。 続きを読む

書評『ニュースの未来』――石戸諭の抱く「希望」とは

ライター
本房 歩

 石戸諭の新著『ニュースの未来』を読み終えて、鷲田清一の式辞集を思い出した。
 哲学者の鷲田清一は、2007年から11年まで大阪大学総長を、15年から19年までは京都市立芸術大学の理事長・学長をつとめている。
 その彼の学長としてのキャリアの最後となる式辞。すなわち2019年3月におこなわれた京都市立芸術大学卒業式で、鷲田は宮沢賢治の言葉について語った。
 まず有名な《世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない》に触れ、《職業芸術家は一度亡びねばならぬ》と《産者(創る人)は不断に内的批評を有(も)たねばならぬ》のふたつの言葉を挙げた。 続きを読む

特集㊴ 池田会長を見る世界の目――各国に広がる池田研究

ライター
青山樹人

 この記事は『新版 宗教はだれのものか 三代会長が開いた世界宗教への道』(青山樹人著/鳳書院)の発売にともない「非公開」となりました。
 新たに「三代会長が開いた世界宗教への道(全5回)」が「公開」となります。

「三代会長が開いた世界宗教への道」(全5回):
 第1回 日蓮仏法の精神を受け継ぐ(4月26日公開)
 第2回 嵐のなかで世界への対話を開始(5月2日公開)
 第3回 第1次宗門事件の謀略(5月5日公開)
 第4回 法主が主導した第2次宗門事件(5月7日公開)
 第5回 世界宗教へと飛翔する創価学会(5月9日公開)

WEB第三文明の連載が書籍化!
『新版 宗教はだれのものか 三代会長が開いた世界宗教への道』
青山樹人

価格 1,320円/鳳書院/2022年5月2日発売
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第三文明社 公式ページ
 

連載エッセー「本の楽園」 第118回 文学とマーケティング

作家
村上政彦

 文学にマーケティングは必要か?
 まず、マーケティングとは何か?
 本書によれば、

マーケティング=稼ぐ力

である。さらに言い換えると、

マーケティングとは、需要に対して、供給すること。

 そして、マーケティングの目的は、

その集団、あるいは個々人の〝理想の状態〟を維持すること。

〝理想の状態〟とは、分かりやすくいえば「幸せ」のことだ。本書は、このマーケティングを1枚のシートで理解して極めるために書かれた。 続きを読む