【道場拝見】第17回 拳龍同志会(下)

ジャーナリスト
柳原滋雄

2人の師匠

 新城孝弘館長が27歳で師事した當真正貴(とうま・せいき 1922-1998)は、松林流の長嶺将真(ながみね・しょうしん 1907-1997)、渡山(とざん)流の兼島信助(かねしま・しんすけ 1897-1973)、少林流の島袋善良(しまぶくろ・ぜんりょう 1909-1969)などから空手を学んだ。広く弟子をとる空手家ではなかったこともあり、事実上、マンツーマンで教えを受けた。

當真先生は通ってくる弟子だけに教えていました。僕が最後の弟子だったから、えらくかわいがってもらった。

 師匠の自宅(沖縄市泡瀬)の居間を稽古場に、週2回通ったという。型や武器の練習をした後は、関節技を中心とする裏技の稽古にも熱心に取り組んだ。
 稽古が終わると空手談義で夜遅くまで語り込むことも多かった。當真師より少し遅れて、久場良男館長にも師事したので、泊手と剛柔流の両方の空手を学んだ。つまり、首里手・泊手と那覇手に通暁する。

僕は流派という概念があまりないわけ


 それでも自身は泊手が体質にいちばん合っていると自覚する。得意な型は泊パッサイという。

世界に広がった沖縄空手

欧州チャンピオンを指導する新城館長

 夕方5時に道場を訪ねたときは主に少年部の子どもたちが自主稽古を行っていた。それから2時間ほどの雑談の中で、興味深い話を耳にした。例えば、「空手が発展したのは、時代が平和だったからこそ」という言葉もそうだ。
 剣術でも戦国時代は目先の戦いに忙しく技を練る暇もなかったものの、江戸時代に入り平和な世の中になると、技術を磨くための時間が生まれ、多くの流派が発生した。剣術の技術がはるかに進化したと語る。それと同じく、空手も、特に戦後は平和な時代が続いたからこそ発展したと振り返る。
 空手が世界に広まったのは「競技をやるようになったから」との言葉も実感のこもるものだった。

沖縄だけの武術にとどまっていたら、せいぜい米国止まりの広がり(駐留米兵の流れから)だったと思う。

 空手がヨーロッパを含む全世界に広がったのは、冨名腰義珍(ふなこし・ぎちん 1868-1957)らが日本本土に空手を伝えた際、主にインテリ層である大学生を対象にしたことや、競技を伴う形で普及したため、世界中に広まったと語る。
 なぜなら子どもたちは試合という目標や張り合いがあるからこそ、モチベーションを維持し、空手を続けることができるからだ。実際、沖縄でも競技主体の道場のほうが、生徒数は多い傾向があるという。

子どもの稽古を見守る

 沖縄県に全空連組織ができたのは1981年のことだが(「空手界の琉球処分」とも言われた。※詳細記事リンク)、県空連組織は当初は80団体くらいでスタートし、現在は130団体まで増えている。ただし競技主体の風潮は負の側面も生んだ。

糸洲先生がつくったピンアンは100年でこれほど多様化してしまいました。

と、型の原型が変えられ、雑乱している現状を示唆する。特に国際試合などを見ると、その歪みは一層明らかだという。

世界の試合を見ていると、伝統を守るといった発想は皆無で、どんどんアレンジしていくから、沖縄の先生たちが頭にくるのもよくわかります。ただしこの点はもう割り切るしかない。世界の流れですから、日本だけでは止めようがない。

名前が知られていない沖縄出身者

裏技を指導する新城館長

『JKファン』の連載を2021年11月号から4年以上続ける中で、最近、沖縄出身の空手家が何人か紹介された。本土に出たために名前があまり残っていない人物たちだ。
 一人は宮崎県で「心道流」を開いた首里烏堀町出身の座波仁吉(ざは・じんきち 1914-2009)だ。さらに大阪時代の座波と一緒に剛柔流を学んだ金城兼盛が開いた「空真流」(いずれも2025年8月号)。加えて千唐(ちとう)流(同年9月号)も紹介された。
「千唐流」は新城館長が東京在住時代にたまたま見知っていた流派で、「心道流」は息子の一人が大学で流派会長の息子と同級生だったという縁があり、知ったという。

1700年に作成された首里一帯の古地図のコピー

 同じ8月号では、首里一帯の1700年当時に作成された古地図を紹介する記事も掲載されている。現在のゼンリン地図と同様、当時の家を一軒一軒住んでいた人の名前を書き入れた詳細なものだ。道場では正面に向かって前方左手に縮図のコピーが飾られている。
 拳龍同志会は、伝統と競技を両立する模範的な沖縄空手の道場に映った。(文中敬称略)

※沖縄現地の空手道場を、武術的要素を加味して随時紹介していきます。
 
 
シリーズ【沖縄伝統空手のいま 道場拝見】:
①沖縄空手の名門道場 究道館(小林流)〈上〉 〈下〉
②戦い続ける実践者 沖拳会(沖縄拳法)〈上〉 〈中〉 〈下〉
③沖縄空手の名門道場 明武舘(剛柔流)〈上〉 〈下〉
④上地流宗家道場 普天間修武館(上地流)
⑤喜舎場塾田島道場(松林流)〈上〉 〈中〉 〈下〉
⑥上地流空手道拳優会本部(上地流)〈上〉 〈下〉
⑦沖縄空手道拳法会拳武館(剛柔流)〈上〉 〈下〉
⑧拳龍同志会〈上〉 〈下〉

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やなぎはら・しげお●1965年生まれ、佐賀県出身。早稲田大学卒業後、編集プロダクション勤務、政党機関紙記者などを経て、1997年からフリーのジャーナリスト。東京都在住。