千客万来の沖縄市の道場
新城孝弘館長(しんじょう・たかひろ 1956-)が沖縄空手道「拳龍同志会」を設立したのは1983年。まだ20代後半だった。
14歳で空手を始め、本部流や少林流に親しんだ後、上京して仕事をした8年間は松濤館空手で腕を磨いた。そこで本土の伝統空手の特徴を学んだ。沖縄に戻ってからは自分の道場を開いた後、泊手の使い手である當真正貴(とうま・せいき 1922-98)に20年以上師事した。現在は沖縄空手道拳法会拳武館の久場良男館長(くば・よしお 1946―)に師事する。前回紹介した剛柔流渡口系の流派である。そのため新城館長は自ら「流派という概念があまりない」と語るとおり、流派を超えた指導を行えるのが強みだ。
この道場の特徴は、武術空手としての沖縄伝統空手を教えるだけでなく、青少年を中心とした競技空手の指導も熱心に行っている点にある。2021年東京オリンピック男子型部門で金メダルを取った喜友名諒選手が子ども時代に在籍した道場といえばわかりやすい。

氏原選手の型パープーレンを見守る新城館長。毎年スイスから出稽古に来る
道場に入って正面は全面鏡張りとなっていて、両脇の天井近くに設置された棚には所狭しと獲得したトロフィーが並ぶ。新城館長は、最近まで全空連の傘下団体である沖縄県空手道連盟の理事を務めていた。それは競技を重視する姿勢の表れでもあった。
「競技(試合)がないとモチベーションがつづかず、やはり子どもたちは継続できない」が持論で、「今の道場は多様性がないと発展しない」と語る。
護身目的の伝統空手しか教えない道場では人が集まりにくい現状があるのに対し、競技空手を取り入れた道場では、人の出入りが比較的多いという。
筆者が拳龍同志会の稽古風景を取材したのは8月上旬の木曜日だった。ヨーロッパチャンピオンの男子選手が、スイスからの出稽古で1カ月間日本に滞在して、直々に指導を受けている場面を間近に見ることができた。
前日には、20人の香港からの空手愛好家たちが観光バスで乗りつけて稽古に参加していた。その中には、再び手ほどきを受けに来ていた熱心な南米出身の外交官もいて、地元所属の高校生や、多くの子どもたちと一緒に稽古していた。

子どもにも丁寧に指導する
拳龍同志会では海外からの出稽古は珍しくない。ほかにも、日本本土の伝統派空手の指導者クラスも、沖縄の本場の空手を学ぶためにしばしばこの道場を訪れる。特に新城館長が全空連の月刊準機関誌『JKファン』で「沖縄伝統空手の秘伝解放」の連載を4年前に開始して以来、その傾向が増した。
日本の大学で初めて空手部が作られた慶応大学空手部の関係者が毎年訪れるほか、早稲田や立命館のОB会も訪れるという。新城館長は、本年(2025年)2月、東京で慶応大学空手部創部100周年記念祝賀会が開催された際も招聘された。
新城館長の空手のDVDが3本発売されているせいか、ネットで公開されている映像を見て海外から訪れる空手家が多いという。ヨーロッパをはじめとする海外や、またフィリピンや中国のナショナルチームが来たこともある。
新城館長の子どもは男5人、女2人の大家族で、孫たちも空手に親しむ〝空手一家〟だ。ちなみに長男の新城武は韓国ナショナルチームを率いたこともある。
道場の合同稽古は「月・水・金」で、「火・木」は自主稽古に充てられている。そのため私が訪ねた木曜日は合同稽古ではなく、自主練の日だった。
本土からも海外からも人の出入りが絶えないこの道場は、沖縄空手界の〝隠れた名所〟になっている。
自主稽古風景が道場の特徴
本土のフルコンタクト空手の道場を訪れると、その道場の特徴は合同稽古を終えた後の自主稽古(自由時間)に表れるとよくいわれる。
私が訪れた日はスイス生まれで父親が日本人の氏原勇喜選手(24歳)がシュッシュッと独特の呼気を吐きながら、型稽古に打ち込んでいた。新城館長によると、日本の国内試合では敬遠されるものの、海外で行われる国際試合などになるとそのような呼吸の使い方は珍しくないという。朝から夜11時まで毎日6~7時間の稽古を自分に課す、そのストイックな姿勢に筆者は圧倒された。
一方、香港から来た愛好家は基本稽古のおさらいをし、シソーチンなど剛柔流の型を熱心に稽古していた。時折、新城館長が指導を挟む。
館長はトップ級選手の稽古を見つつ、南米出身の愛好家の自主稽古にも目を配る。型稽古が終わると、今度は手首を返して裏技をとる「取り手」の相対稽古を指導した。
さらに夜9時ごろになると、「こんばんは!」と黒帯の壮年が稽古に現れた。伝統空手を稽古する壮年だ。サンチン、ナイハンチを一人稽古したあと、3尺棒、サイで稽古する。
つまり、現役の選手稽古、海外から来た愛好家の稽古、伝統空手の自主練という3つの空間が混在、同居している。沖縄でもこういう道場はかなり珍しいようだ。
求めるものがそれぞれ違いますから、ニーズに合わせていかないと道場は発展できません。
同じ「空手」の2文字に集約されながら、異なるジャンルにも思える空手が調和した姿。これが拳龍同志会の理念でもあるようだ。

三者三様の自主稽古
新城館長はこう強調する。
30歳くらいまでは競技空手に打ち込み、現役を引退したら伝統空手(=護身目的の武術空手)に移る方法を指導しています。
〝燃え尽き症候群〟ではないが、一般には競技だけで空手を終えてしまうケースも多い。しかし、このような指導方針のもとで、拳龍同志会では国体入賞者や中学生時代のチャンピオン経験者などが競技人生を終えた後も、「黒帯会」の一員として道場に残っているケースが多いという。
自主稽古風景を見ただけでも空手に対する熱量の高さはかなりのものと感じた。(文中敬称略)

シソーチンの型を直す新城館長
※沖縄現地の空手道場を、武術的要素を加味して随時紹介していきます。
シリーズ【沖縄伝統空手のいま 道場拝見】:
①沖縄空手の名門道場 究道館(小林流)〈上〉 〈下〉
②戦い続ける実践者 沖拳会(沖縄拳法)〈上〉 〈中〉 〈下〉
③沖縄空手の名門道場 明武舘(剛柔流)〈上〉 〈下〉
④上地流宗家道場 普天間修武館(上地流)
⑤喜舎場塾田島道場(松林流)〈上〉 〈中〉 〈下〉
⑥上地流空手道拳優会本部(上地流)〈上〉 〈下〉
⑦沖縄空手道拳法会拳武館(剛柔流)〈上〉 〈下〉
⑧拳龍同志会〈上〉 〈下〉
【WEB連載終了】沖縄伝統空手のいま~世界に飛翔したカラテの源流:
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WEB第三文明で連載された「沖縄伝統空手のいま~世界に飛翔したカラテの源流」が書籍化!
『沖縄空手への旅──琉球発祥の伝統武術』
柳原滋雄 著定価:1,760円(税込)
2020年9月14日発売
第三文明社
【WEB連載終了】長嶺将真物語~沖縄空手の興亡~
[シリーズ一覧]を表示する
WEB第三文明で連載された「長嶺将真物語~沖縄空手の興亡」が書籍化!
『空手は沖縄の魂なり――長嶺将真伝』
柳原滋雄 著定価:1,980円(税込)
2021年10月28日発売
論創社(論創ノンフィクション 015)







