沖縄伝統空手のいま 特別番外編⑪ 沖縄県空手振興課長・金城信尚さんインタビュー㊦

ジャーナリスト
柳原滋雄

ユネスコ無形文化遺産の登録へ

――最近あまり耳にしなくなったと感じますが、沖縄空手をユネスコの無形文化遺産に登録しようという長期戦の運動はその後どうなっていますか。

金城信尚課長 それに関して言いますと、令和4年度から6年度(昨年度)にかけて、ユネスコ登録に向けた調査ということで、沖縄の空手がいかに生活文化に密着しているかということを調査しました。特に棒術をはじめとした空手が地域の伝統行事に取り入れられ、生活文化に密着しているということがあって、それを報告書にしたのが昨年度です。ホームページでも公表しています(「生活文化に息づく『沖縄空手』調査報告書」沖縄空手ユネスコ登録推進協議会)。今年度はシンポジウムを開催するという形で、空手家をはじめ、県民の皆さま方に調査結果をフィードバックしたいと考えています。
 あとそれとは別に、通例ですと日本の国内の無形文化財として登録なり指定を受けたものを、国がユネスコに申請を行う手続きとなっているのですが、国内においてはこれまで「武道」が登録された事例がなくて結構ハードルが高い面があります。空手だけではなかなか登録が難しいので、伝統芸能や食文化など、別の分野と一緒に沖縄空手も含めて登録できないかということを模索しているところです。長期戦になると思います。

――ご自身の課長任期中に達成するという話ではないのですね。

金城課長 すぐにということではないと思います。ただしある程度のメドといいますか、今回の調査を通じて空手がどのように生活文化や地域行事に取り入れられてきたかを知れたのは意義深いと思いますので、それを広く知っていただこうと考えています。

沖縄県空手振興課長の金城信尚さん

――2代目の課長さんのインタビューのときに、結構自分の代でやるということをおっしゃっていたのですが、現実はそう簡単ではないのでしょうか。

金城課長  当時も厳しいところはあったとは思います。世界的に見たらユネスコに武道が登録された事例はあるとは思いますが、国内ではそもそも無形文化財としての登録がないので、そう簡単にはいかないなあと感じています。

――では国内登録が先という考え方で進めるしかないわけですね。

金城課長 そうですね。基本はそうなると思います。

「空手発祥の地・沖縄」の普及

――これまでも沖縄が「空手発祥の地」であるという認識を広めようと努力されてきたと思いますが、現在の進展状況はいかがでしょうか。

金城課長 海外から多くの空手家が実際に来ているのを目の当たりにしていますし、アメリカやアルゼンチンなどから門下生などが100人単位で来沖され、集団で演武する姿をみたら、ほんとうに感慨深いものがあります。

――日本国内の認識のほうはどうなのでしょうか。上がっていますか。

金城課長 県内は昨年度ちょっと上がったのですが、本土の認識は徐々にではありますが下がっていますね。この点については毎年調査を行っており、昨年度はおそらく少年少女世界大会を沖縄で開催したことで県内の認識が上がったと思います。また本土のほうは2021年の東京オリンピックを契機に上がって、そこから徐々に下がっている傾向です。

――オリンピックは県出身の喜友名諒選手の金メダルがありましたからね。

金城課長 空手が正式種目になるところから注目は高まっていましたので、その影響はかなり大きかったと思います。

2024年開催の「第2回 沖縄空手少年少女世界大会」最終日の風景(宜野湾市)

――話は戻りますが、昨年の少年少女世界大会は全日程を通して拝見しましたが、全空連(全日本空手道連盟)の競技と何が違うのかなあという印象は受けないではなかったです。

金城課長 来年の第3回世界大会の特徴は、その前の大会に比べ、県内予選を突破する人数を大幅に増やしたいと考えています。前回大会では県内予選を突破する方々は全体の1割だったのですが、来年の大会では全体の4割程度に増やす予定です。本大会に多くの県内選手が参加することで大会を盛り上げたいということもありますし、世界大会を経験することで今後も空手をつづけるモチベーションにもつながっていく。大きな意味で「保存・継承」につながっていくだろうという考えからです。

――この4割というのはだれの意見ですか。

金城課長 空手界からは、大幅に増やした方が良いと言う意見があり、いろいろと大会運営のシミュレーションをしていく中で4割くらいまでなら運営上可能ではないかということでした。コート数を増やしたり、審判員の確保というところも考えながら、そのような判断に至りました。

――1割くらいだとかなり選ばれた代表選手という感じになるのですね。

金城課長 やっぱりそうですね。

――来年の大会を終えたらさらに4年後だから、かなり間が空いてしまいますね。課長としては暇になるのではないですか。

金城課長 いえそうでもないです。直近でいえば、来年度は沖縄空手会館の開館(平成29年3月4日)から10周年を迎えますので、そこをめざして記念式典やシンポジウムなどを検討していきます。さらに来年の秋は首里城が復興する予定です。

――もうそんなになりますか。

金城課長 そうなんですよ。何かできたらいいなと漠然とですが考えているところです。

――それは重要ですね。来年の世界大会が終わった後になりますね。

金城課長 あと今年でいえば「空手の日(10月25日)」の制定から20周年です。そこで今年の「空手の日」奉納演武は通常の空手会館の特別道場ではなく、また戦後80周年で平和を発信していくという意味もあるので、糸満の平和祈念公園で行う予定です(空手の日 沖縄空手イベント開催事業)。あとは「空手の日」20周年ということで、県庁近くの県民広場で空手演武披露や瓦割り体験、スタンプラリーなどを行う記念フェスティバルを開催するほか、国際通りでもいつもと同じように集団一斉演武を予定しています。

――ギネス挑戦はやらないですね。

金城課長 今年はやらないです。

県知事も空手で汗を流す

――ちなみに玉城デニー知事も沖縄空手をやっていらっしゃいますね。上地流で黒帯と伺っています。

金城課長 8月9日に大阪・関西万博で「平和の武・沖縄空手を世界へ」と題するステージ公演を行うのですが、そこで知事みずから型や板割りを披露される予定です。

――それはすごいですね。知事はどのくらい稽古されているのですか。

金城課長 同じ道場(上地流拳優会・松崎道場)に通うメンバーから聞いたところでは、公務に支障がないように稽古をされているそうです。忙しい知事が熱心に稽古されているので、むしろ職員のほうが忙しいから稽古に行けないとは言えないと恐縮しています。

――最後に沖縄空手のほかの課題があれば教えてください。

金城課長 目下の課題は県内の門下生数が少し伸び悩んでいることです。実はコロナを契機に少し落ち込んだ状況がありまして、物価高の影響や少子化、お稽古事の多様化などさまざまな要因があるようですが、県内道場も少しずつ数が減っている状況があります。そこが一番の課題でもありますので、振興会の皆さんと意見交換しながら、取り組んでいきたいと思います。
(取材/2025年8月6日)

【2026年開催】第3回沖縄空手世界大会 OKINAWA KARATE WORLD FESTIVAL〜 DEMONSTRATION and TOURNAMENT〜

【プロフィール】きんじょう・のぶひさ●1971年生まれ。与那原町出身。立命館大学国際関係学部卒。95年県庁入り。国際交流課からスタートし、2000年沖縄サミット時は1年あまり外務省(サミット準備事務局)に出向。外国人観光客誘致、県産品の販路拡大、基地対策課、雇用政策課、障害福祉課などをへて2025年4月から空手振興課長。

《沖縄伝統空手のいま 特別番外編》
沖縄県空手振興課長・金城信尚さんインタビュー㊤
沖縄県空手振興課長・金城信尚さんインタビュー㊦

シリーズ【沖縄伝統空手のいま 道場拝見】:
①沖縄空手の名門道場 究道館(小林流)〈上〉 〈下〉
②戦い続ける実践者 沖拳会(沖縄拳法)〈上〉 〈中〉 〈下〉
③沖縄空手の名門道場 明武舘(剛柔流)〈上〉 〈下〉

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やなぎはら・しげお●1965年生まれ、佐賀県出身。早稲田大学卒業後、編集プロダクション勤務、政党機関紙記者などを経て、1997年からフリーのジャーナリスト。東京都在住。