20歳になったとき、僕は遺書を書いていた。死のうとおもっていたのだ。興奮して一睡もせずに何やら次々と文字を書き連ねて、気がついたら朝になっていた。書き終わって読み返したら、憑き物が落ちたようにきょろりとして、なぜ、あんなに興奮していたのか、死のうとまで思いつめたのか、自分でもよく分からなかった。結局、僕は死ななかった。
おかげで、ずっとあとになるが、いまの妻と巡り会って大恋愛をし、文学新人賞をもらって作家デビューを果たした。あのとき、死ななくてよかった、と心からおもう。若気の至りで命を絶っていたら、いまの幸せ(そう、僕は幸せである)はなかった。
今回取り上げる絵本『ぼく』は、僕の好きな詩人・谷川俊太郎さんの文章に、谷川さんの指名した若いイラストレーター・合田里美さんが絵を描いた。テーマは重い。子供の自死だ。小学生の男の子がみずから命を絶つというストーリーである。 続きを読む
