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『摩訶止観』入門

創価大学教授・公益財団法人東洋哲学研究所副所長
菅野博史

第2回 『摩訶止観』の特徴(2)

[2]天台大師智顗の略歴(2)

天台山を下りる

 天台山に隠棲し、修行に専念していた智顗(ちぎ)も、陳朝の皇帝による再三の申し出を拒否し続けることができず、10年にわたる天台山滞在の後、とうとう585年に天台山を下り、再び建康の地を踏むことになった。智顗は歓迎され、勅命により『大智度論』の題目(「大智度」は、摩訶般若波羅蜜の漢訳)を講義し、また『仁王般若経』を講義した。皇帝ばかりでなく、皇后も皇太子も智顗に帰依し、菩薩戒を受けた。また、『法華文句』の講説を行なった。 続きを読む

『摩訶止観』入門

創価大学教授・公益財団法人東洋哲学研究所副所長
菅野博史

第1回『摩訶止観』の特徴(1)

[1]はじめに

 私は今、第三文明選書に『摩訶止観』の訳注を刊行中である。この「WEB第三文明」に、『摩訶止観』の全体像を解明する文章を連載する機会を与えられたので、読者の皆様にはしばらくの間、お付き合い願いたい。
 私はこれまで中国仏教の研究をしてきた。時代的には、主に南北朝・隋の時代の仏教思想が研究対象である。中国の南北朝時代は、北魏(386-534)・東魏(534-550)・西魏(534-556)・北斉(550-577)・北周(557-581)の北朝と、宋(420-479)・斉(479-502)・梁(502-557)・陳(557-589)の南朝が拮抗対立した時代を指す。この南北の対立を統一したのが隋(581-618)である。南北の統一を果たした割には、隋は短命で、それに取って代わったのが長期政権を保持した唐(618-907)である。
 日本では、隋唐仏教が中国仏教史の黄金期であるとよくいわれるが、これは日本の仏教各宗派の多くがこの時代の中国で成立したことによるものだと思われる。私の主な研究は、南北朝・隋代の大乗経典の注釈書を研究することであったが、なかでも最も力を入れて研究したものが『法華経』の注釈書にほかならない。 続きを読む