G7広島サミットへの提言――池田大作SGI会長が発表

ライター
青山樹人

NHKニュースも報道

 4月27日、池田大作SGI(創価学会インタナショナル)会長は、5月のG7広島サミットに寄せて「危機を打開する〝希望への処方箋〟を」と題する提言を発表した。
 時事通信や全国紙が前日にデジタル配信したほか、27日午後にはNHKもニュースやWEBで報道した。

創価学会 池田大作名誉会長 G7広島サミットに向け提言発表(「NHK NEWSWEB」4月27日


 提言の骨子は、今も続くウクライナ危機の早期解決を図るための方途と、核による威嚇と使用を防ぐ具体的措置について。
 SGIは核兵器禁止条約の実現に貢献したことでノーベル平和賞を受賞したICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)の国際パートナー。また40年前の1983年から国連経済社会理事会との協議資格を有するNGOとなり、一貫して国連支援の諸活動をグローバルな規模で継続している。
 日本の創価学会が支持する公明党は1999年から連立与党の一翼を担っており、日本は本年G7議長国を務めるなかで広島サミットを迎える。各メディアが報じたのも、このタイミングでの会長の提言が国際社会にとって小さくない意味を持つからだ。
 なお今般の提言は池田会長の英文サイト(Daisaku Ikeda Websaite)でも英文と英語音声で配信されている。

人類史を動かした1人の医師

 提言の冒頭、池田会長は自身が友情を深めたIPPNW(核戦争防止国際医師会議)の共同創設者であるバーナード・ラウン博士の信念に言及した。
 IPPNWは、米ソ間の核軍拡競争が再び加速しようとしていた1980年に、米国とソ連の医師たちによって設立された。81年の第1回世界会議には12カ国80人の医師が参加。核戦争の悲惨さへの理解を広めた功績で、1985年にはノーベル平和賞を受賞している。
 目の前の人間の命を救うことを職務とする医師にとって、その命がどの国の人間のものであるかは関係ない。
 1989年に広島を訪問したラウン博士は、東京の聖教新聞本社に池田会長を訪ね2度目の会談をおこなった。その際、博士が池田会長に語ったのは、

何とか人々を「不幸な死」から救い出したい。その思いが、やがて、人類全体の「死」をもたらす核兵器廃絶の信念へと昇華されていったのです。

との医師としての信条だった。
 ウクライナ危機と核兵器使用への脅威という未曽有の危機を論じるにあたり、池田会長がかつて冷戦終結に大きな役割を果たした1人の医師にフォーカスして提言を書き起こしていることは重要である。
 人類的諸課題を論じる会長の提言は、これまでも常に等身大の人間に引き寄せて語られる。それは、どんな変革も1人の人間の内なる変革と勇気ある行動からしか生まれないという、会長の変わらない信念の表れでもある。
 読む者は、わが身に引き寄せて会長と問題意識を共有し、自分にも何かができるし、必ず打開の糸口はあるはずだという思いを抱くだろう。
 会長は今回の提言でも、ラウン博士が語っていた医師の特性として、「人間を一つの型にはめない」「解決できそうにない問題に対して、現実的な解決法を考案するよう訓練されている」を挙げた。
 どう手を尽くせばいいのかわからないような困難な状況に対して、それでも〝希望への処方箋〟を見出そうとする医師たちを想起させることで、会長は現下の巨大な困難に対して「医師のように立ち向かうべきだ」とG7首脳に呼び掛けているのだ。

停戦交渉に市民社会の代表を

 ウクライナ危機に対する具体的な措置として、池田会長は2月の国連総会緊急特別会合で決議された「重要インフラに対する攻撃や、住宅、学校、病院を含む民間施設への意図的な攻撃の即時停止」、3月の中ロ首脳会談の共同声明にあった「緊張や戦闘の長期化につながる一切の行動をやめ、危機が悪化し、さらには制御不能になることを回避する」という文言を挙げる。
 このようにロシアを含む国際社会が合意した内容を踏まえたうえで、「戦闘の全面停止」への関係国協議の場を設け、そこに医師や教育者など市民社会の代表をオブザーバー参加させてはどうかと提唱している。
 政府の代表だけでは国家間の利害対立に縛られるが、人々の生命と未来を守り育む立場の市民を参加させることで、そこに橋を架けようという智慧である。米ソの医師たちが冷戦終結に尽力した歴史を踏まえたものであることは言うまでもない。
 また、現下の状況が米ロ間の核関連の枠組みそのものを完全に消失させかねない岐路にあることを示し、広島サミットで「核の先制不使用」の誓約を議論するよう訴えている。
 ここでも会長は抽象的な観念論を語るのではなく、2022年1月にNPT(核兵器不拡散条約)の核兵器5カ国首脳が発した共同声明や、同11月のG20サミット首脳宣言に記された「核兵器の使用又はその威嚇は許されない」「今日の時代は戦争の時代であってはならない」との文言が、これらの土台になると示している。
 G7首脳に対し、自分たちが世界に対して発した声明を誠実に遵守せよと促しているのだ。

「民衆の力」を鼓舞する楽観主義

 国際社会に向けた池田会長の提言に一貫するのは、具体的な裏付けを伴った楽観主義だと言えるだろう。
 その姿勢は、凍えるような絶望のなかに立ち尽くす1人の人間を抱きかかえて励ます仏法者の姿そのものだ。会長と対話してきた世界の識者が口をそろえて感謝し称賛するのは、この類まれな池田会長のタフな精神である。
 今回の提言でも、温暖化防止については「人類全体にかかわる重要課題として国連気候変動枠組み条約の締結国会議を重ねて、対策を強化するためのグローバルな連帯が形づくられて」きたことに言及。
 G7が主導して「核の先制不使用」の誓約が合意できるならば、それが〝希望の処方箋〟となって、NPTと核兵器禁止条約をつなぎ、「核兵器のない世界」へ進む車軸となるだろうと述べている。
 冷戦が終結した1989年。米ソ首脳会談に先駆けて東西両陣営から3000人の医師が集ってIPPNWの世界大会が開かれた。
 会長は提言の締めくくりに、ラウン博士の「一見非力に見える民衆の力が歴史のコースを変えた記念すべき年であった」という言葉を紹介する。そして、

〝闇が深ければ深いほど暁は近い〟との言葉がありますが、冷戦の終結は、不屈の精神に立った人類の連帯がどれほどの力を生み出すかを示したものだったと言えましょう。

 池田会長はこう述べて、今再び、民衆の力で「歴史のコース」を変え、「核兵器のない世界」、そして「戦争のない世界」への道を切り開こうと呼び掛けている。

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あおやま・しげと●著書に『宗教はだれのものか』(2002年/鳳書院)、『新装改訂版 宗教はだれのものか』(2006年/鳳書店)、『最新版 宗教はだれのものか 世界広布新時代への飛翔』(2015年/鳳書店)、『新版 宗教はだれのものか 三代会長が開いた世界宗教への道』(2022年/鳳書院)など。WEB第三文明にコラム執筆多数。