核兵器禁止条約が発効へ――日本は「真の橋渡し」役を

ライター
松田 明

市民社会の努力を称える

 国連創設75周年の「国連デー」である10月24日、グテーレス事務総長は報道官声明を発表し、「核兵器禁止条約」の批准国が発効に必要な50に達したことを明らかにした。
 このなかで事務総長は、核兵器廃絶のため批准した国々に敬意を表し、条約の交渉の促進や批准においてきわめて大きな役割を果たしてきた市民社会の努力を讃えた。また、「条約発効は、これを強く求めてきた核爆発と核実験の生存者たちに報いるもの」と語った。
 核兵器禁止条約は2017年7月、122カ国・地域の賛成によって採択され、すでに84カ国・地域が署名。
 核兵器の開発や生産、使用、保有だけでなく、実験、移転、配備許可、「使用するという威嚇」まで法的に禁じている。
→「核兵器禁止条約の全文」中国新聞 ヒロシマ平和メディアセンター
 今回、中米のホンジュラスが批准したことで50カ国に達し、90日後の2021年1月22日に発効することが確定した。
 2017年にノーベル平和賞を受賞したICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)は、この条約制定へのキャンペーンを続けてきた団体だ。
 一方、米英仏ロ中の核保有5カ国は、2018年10月の国連総会で「核兵器禁止条約はNPT(核拡散防止条約)に矛盾し、これを害する危険性がある」との共同声明を発表。
 米国は今回も早速、発効の阻止へはたらきかけた。

 AP通信によると、米国は条約を批准した複数の国に「批准は誤った戦略だ」として撤回を求める書簡を送った。(『日本経済新聞』10月25日

グローバルな民意の可視化を

 核保有国や安全保障の専門家などは、依然として「核抑止力」の有効性を主張する。しかし、機器の誤作動や人為的ミスで核の発射ボタンが押される寸前までいったことは過去に何度もあったし、今日ではサイバー攻撃のリスクが現実的なものとなっている。
 核兵器の存在そのものが人類の安全保障上、最大の脅威となっていることは疑いようもない。
 日本や韓国など「核の傘」の下にある国々が署名や批准をできずにいるのは、核兵器の保有そのものを「違法」とするこの条約が、核保有国の軍事力に依存する自国の安全保障の論理と矛盾するという考えからだ。
 だが、ICANの国際運営団体の1つ「ノルウェー・ピープルズエイド」の報告書によると、すでに155を超える国々で核兵器の開発、実験、製造、取得、保有、貯蔵、移譲と受領、使用と威嚇、配備と許可などは「違法」とされている。
 また、164カ国の8000近い都市が加盟する世界首長会議も、2017年9月の時点で核兵器禁止条約の早期締結を各国に求める声明(「核兵器禁止条約への署名開始についてのコメント」)を出している。日本国内の1733都市もこの首長会議に加盟している。
 その意味では〝実質〟としては日本を含む多くの国内が、すでに核兵器禁止条約の内容に沿う法体系や理念をそなえているのだ。

 核兵器の保有や使用などを全面禁止する核兵器禁止条約について、全国の自治体の4分の1を超える495の地方議会が、日本政府に署名や批准を求める意見書を採択した。(『毎日新聞』10月23日

 したがって、ここからは教条的に核保有国や日本政府の姿勢を非難して、その態度を硬化させることよりも、核廃絶へのグローバルな民意を可視化して拡大し、できることから実質を埋めていくことが一層重要になってくるだろう。

連立与党から日本政府に要望書

 50カ国達成に先立つ10月21日午後、公明党の山口那津男代表は外務省で茂木敏充外相と面会。
 核軍縮の進展に向け、日本が核兵器保有国と非保有国の「真の橋渡し」の役割を担い、国際社会の取り組みをリードしていくことを求める要望書を手渡した。
 核兵器禁止条約では、発効から1年以内に締結国会合を開催することが定められている。
 山口代表は、「日本は唯一の戦争被爆国であり、この条約の採択には広島、長崎の被爆者の並々ならぬ尽力があった」と述べ、この締結国会合に日本もオブザーバー参加することを茂木外相に求めた。
 さらに、新型コロナの影響で延期された核拡散防止条約(NPT)再検討会議において、日本が「賢人会議」の提案を反映するなど、核保有国と非保有国との〝溝〟を埋める橋渡し役になるよう要請した。
 また、来年2月に期限が切れる米ロの新戦略兵器削減条約(新START)の延長や枠組みの拡大へ、日本政府の積極的な働きかけを求めた。
 公明党の支持母体である創価学会は、1950年代から一貫して「核廃絶」への運動を続けてきた。創価学会インタナショナル(SGI)は、ICAN発足当時からの国際パートナーであり、ノーベル平和賞受賞式にも代表が招待されている。
 2017年11月、ローマ教皇庁が主催した「核兵器のない世界について語るバチカン会議」には、ノーベル平和賞受賞者や国連の中満泉事務次長(軍縮担当上級代表)とともに、会議開催の協力団体として招聘を受けた池田博正SGI副会長らが出席した。

「核禁条約はNPTに矛盾しない」

 批准国が50になったことを受け、国連の中満泉事務次長は、

 新型コロナウイルスの感染拡大にもかかわらず、他の軍縮条約と比べても遜色ないスピードで発効が決まったことは、核廃絶を求める各国の決意の強さを示している。核保有国は思いを受け止め、核拡散防止条約(NPT)が定める核軍縮の交渉義務という責任を果たしてほしい。日本が締約国会議に「オブザーバー参加」するかは日本政府が決めることだが、核兵器禁止条約はNPTに矛盾するのではなく補完するものだ。核禁条約に背を向けずに参加を検討し、核廃絶のため、どのような役割を果たせるのか各国と議論を深めてほしい。(『毎日新聞』10月25日

と表明。
 同じく軍縮担当の国連事務次長を経験した阿部信泰氏(日本国際問題研究所軍縮・不拡散促進センター所長)も、NHKの取材に対し、

「日本はすぐに参加できなくても、会場の外で会議の参加国と話し合いの場を持つことはできるのではないか。条約への署名も将来的には参加するという意思を表明する行為になり、できないことはない」と述べて、オブザーバー参加のほか、条約の参加国との非公式の協議などを通して橋渡し役を担うこともできるという考えを示しました。(「NHKニュース」10月25日

と述べた。
 新旧の軍縮担当国連事務次長のコメントは、山口代表が茂木外相に要望した内容の重要性と妥当性を示すものといえる。
 核のない世界へ、唯一の戦争被爆国である日本が実質的な貢献ができるよう、賢明に民意を高めていきたい。

関連記事:
SGI結成から45周年――「世界市民の連帯」の原点
政権に求められる着実な成果――「核軍縮」と「雇用」で前進
ICANと創価学会――国際パートナーとしての関係をひも解く