2021衆院選直前チェック②――「一強」の弊害をなくすには

ライター
松田 明

「自公」は唯一の安定した枠組み

 バブル経済が崩壊した1990年代初頭から民主党政権が退場する2010年代初頭まで、日本は「失われた20年」と呼ばれる低成長時代を経験した。
 冷戦崩壊によるイデオロギー対立時代の終焉、経済のグローバル化、新興国の台頭、インターネットの普及によるIT化など大きな変化を迎えながら、この間の日本の政治は十分な対応ができなかった。
 大きな要因のひとつは、政治の安定が図られなかったことだ。この間、海部俊樹政権から野田佳彦政権まで、首相は14人。平均すれば1年半足らずで首相が交代していたことになる。
 内閣が短命に終われば、当然ながら腰を据えた政策の立案と実行は困難になる。ましてや、既得権者の抵抗をともなうさまざまな改革の断行は難しい。
 また、日本の政治は1990年代初頭から「連立の時代」に入った。冷戦構造が崩壊したことで、自民党と社会党によるイデオロギー対立の「55年体制」も終焉。
 1993年7月の衆院選で自民党が敗北。以後、非自民・非共産の7党1会派による細川護熙政権が誕生して以来、「自社さ連立」「自自公連立」「自公連立」と続き、民主党政権も社民党や国民新党との連立政権だった。
 厳密な意味で自民党単独政権だった時期は、第2次橋本内閣の終盤から小渕恵三内閣の初期までの7カ月半のみ。自民党は政治を安定させて諸課題を乗り切るべく、自由党(当時)と公明党に政権入りを求めた。
 小選挙区制が導入され、とくに民主党が誕生して以来、メディアや政治学者は「二大政党制の時代」であるかのように語ってきた。だが、現実には常に複数政党による連立政権が日本社会に定着してきたのだ。
 なかでも「自公連立」は、民主党政権の3年余を除いて20年間におよぶ。

 自民党の「一強」状態にあるといわれる一二年以降も、単独政権ではなく、公明党との連立政権である。誤解を恐れずにいえば、自公連立は現在の日本政治で唯一の安定的な政権の枠組みになっている。(中北浩爾『自公政権とは何か――「連立」にみる強さの正体』ちくま新書

「自公」の安定がもたらしたもの

 2012年に民主党からふたたび政権を奪還して以降、自公はそれまでの連立時代に比べて、はるかに成熟した関係性を築いた。2009年までの連立時代、公明党の役割は「福祉」などに限定されていた感があったが、第2次安倍内閣からは「外交」「安全保障」「税制」といった国家の根幹にかかわる政策でも、公明党の発言力が増す。
 安倍政権は憲政史上最長の在任期間となった。そのことで官邸に権力が集中し、公文書の破棄や政治とカネの問題などが起きたことは事実だ。岸田政権は、こうした〝負の遺産〟ときちんと向き合わなければ早晩に国民の支持を得られなくなるだろう。
 今回、公明党が主導して自民党と協議し、公職選挙法違反で当選無効となった議員の歳費返納を義務付ける法案で合意した。クリーンさを最重視する公明党の思想が、今や自民党を感化しつつある。
 そして、政治が安定し、長期政権が可能になったからこそ実現したものは多くある。
 まず、民主党政権時代に〝国交正常化以来で最悪〟となった日中関係、〝漂流〟とまで酷評された日米関係が完全に修復された。日本が主導した「自由で開かれたインド太平洋」構想で、豪州やインド、ASEAN諸国とも緊密な連携が実現してきた。
 この時期に歴代最長期間の外相を経験し、オバマ大統領の広島訪問をも実現させた岸田首相には、今後の手腕を大いに期待したい。
 国内的には、民主党政権が「3党合意」で決めた「税と社会保障の一体改革」を自公政権が実現。消費税率引き上げの税収の使途を変更し、不妊治療、幼児教育から高等教育までの無償化、高齢者の就業促進などを推進。現役世代に重くかかっていた負担をやわらげ、教育を受ける機会が格段に公平な社会へと進んだ。

被災地の知事はどう見ているか

 国土強靭化、防災・減災の取り組みも大きく進んだ。政治学者でもある蒲島郁夫・熊本県知事は、

 熊本地震のときに、もしも自民党の単独政権だったとしたら、私は〝自分のことは自分でやれ〟という新自由主義的な対応に傾く恐れがあったと思っています。公明党は伝統的に福祉や平和、弱者への配慮など、社民主義的な要素を持っておられます。熊本地震で熊本県は、負担の最小化と被災地への最大限の配慮、そして創造的復興という哲学を求めました。それらを政府に認めてもらえたのは、ほかでもなく公明党が政権内にいたからでしょう。(『第三文明』2019年8月号)

と率直に評価している。
 また宮城県の村井嘉浩知事は、さる10月21日、衆院選の応援演説に駆けつけた岩手県奥州市でこう発言した。

 ここまで復興ができたのは、公明党と自民党が連立を組んだおかげであります。公明党の地方議員の方は、一人ひとりの被災者のところに、避難所に足を運び、そして仮設住宅に足を運び、今は災害公営住宅に足を運んで、みんなで手分けをしてアンケートをとって、それを私なり国会に振って、そして国を変えてきたわけであります。
知事として(公明党を)見ておりましたけれども、そういうことをなさっているのは公明党の議員だけなんです。ホントです。お世辞じゃありません。(動画【ダイジェスト】10/21 公明党街頭演説会

 そして、震災当時に政権の座にあったかつての民主党、今の立憲民主党の重鎮で、岩手県奥州市を地盤とする小沢一郎氏について、こう語った。

 一つだけ事実としてお話したいのは、私は今回4期16年知事を務めましたけれども、あの震災からも含めまして、小沢一郎さんとはまだ一度も会ったことがない。隣の県知事なんですけれども、小沢さんから大丈夫か? どうだ? という電話1回もいただいたことない。(同動画

 かつては「コンクリートから人へ」、今は「支え合う政治」などと語っている野党第一党が、実際には傷ついた人間に対してどれほど冷淡で、無関心で無策であるかを象徴する衝撃的な証言だ。

「その先を言うのはまだ早い」

 これまで立憲民主党を支持してきた労組のなかには、日本共産党との「閣外協力」を明言した立憲民主党への反発が強まっている。立憲民主党の枝野代表は18日の党首討論会で、めざす政権のあり方を問われ、

 基本的には政権そのものは単独政権を担わせていただく。(Yahoo!ニュース「ハフポスト日本版」10月18日)

と、あくまで立憲民主党の単独政権であり、日本共産党などは「限定的に協力」するのだと強調した。
 しかし、日本共産党は少し違う腹のなかを見せる。志位和夫委員長は、立民と「閣外協力」の政権ができた場合、日米安保条約矢自衛隊をどうするのか問われ、

 共産党独自に、条約廃棄や自衛隊違憲を国民に広げる取り組みはしていく。(『読売新聞』10月21日

と明言。さらに、

 まずは合意した「限定された閣外協力」を作るのが先だ。もし実現すれば、その経験を経て、いろいろな形で発展はあるだろう。しかし、その先を言うのはまだ早い。(同)

と、同党が綱領に記した「統一戦線の政権」を経て主導権を握り「社会主義・共産主義の社会」へ体制変換を進める〝本音〟をのぞかせた。
 被災地の知事たちが口をそろえて称賛する自公連立での公明党の役割。政治の安定をもたらしながら自民党「一強」の弊害をなくすためには、与党内の公明党の議席を増やし、発言力を強くしていくことが、もっとも理にかなった選択だろう。
 立憲民主党は今や完全に日本共産党の革命戦略に便乗してしまった。批判票のつもりで野党の議席を伸ばしても、単に政権運営が不安定になるだけで不利益を被るのは国民だ。その先に日本共産党が見据えているのは、来年の参院選での「ねじれ国会」の実現であり、次の衆院選で「野党連合政権」を誕生させることだろう。

 ポピュリズム的な既成政治批判への支持の高まりに目を奪われ、そこに安易に依存して自党の存続を図ることは、現に慎まねばならない。(谷口将紀・水島治郎『ポピュリズムの本質』中央公論新社)

 これは前回の衆院選で「希望の党」に雪崩れ込んで自滅した旧民主党勢力への警鐘の言葉だ。立憲民主党の人々は、これをどう受けとめているのだろうか。

2021衆院選直前チェック:
2021衆院選直前チェック①――政権をどこに託すのか
2021衆院選直前チェック②――「一強」の弊害をなくすには
2021衆院選直前チェック③――働いた党と、邪魔をした党

公明党衆院選重点政策(全4回):
「公明党衆院選重点政策」第1弾――子育て・教育を国家戦略に
「公明党衆院選重点政策」第2弾――日本経済の再生
「公明党衆院選重点政策」第3弾――感染症に強い日本へ
「公明党衆院選重点政策」第4弾――共生社会をめざして

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