くり返された〝軽率〟会見――「ワクチン」の次は「イソジン」

ライター
松田 明

会見中から買い占めがはじまる

 8月4日午後、大阪府庁舎で吉村洋文知事と松井一郎・大阪市長がツーショットで緊急会見をおこなった。2人の前には、まるで通販番組のように何種類もの市販の「うがい薬」が並べられている。
 ワイドショーのテレビ中継も入った会見で、吉村知事はこう切り出した。

 うそみたいな本当の話をさせていただきたい。ポビドンヨードを使ったうがい薬、目の前に複数種類ありますが、このうがい薬を使って、うがいをすることでコロナの陽性者が減っていく。薬事法上、効能を言うわけにはいきませんが、コロナに効くのではないかという研究が出たので紹介し、府民への呼びかけをさせていただきたい。(『毎日新聞』8月4日

 テレビで会見が流れているさなかから、早速、ドラッグストアの店頭では「イソジン」などの商品の買い占めがはじまった。こんなショーアップされた会見を中継すれば、パニックが起きて当然であろう。
 しかし、知事の話によると府と市が協力して5月から「実験」をはじめたばかり。しかも実験対象はわずか41人。まだ研究論文にもなっていないという。
 つまり、学術的にはせいぜい〝思いついた〟程度の段階の話で、なんら科学的な成果と呼べるものではない。
 さらに、ポビドンヨードは甲状腺障害のある人や妊産婦には慎重投与が求められている薬品だ。
 ポビドンヨードは外科手術の際などにも、感染予防のために患者の身体に大量に塗布する。これをうがいに使って仮に一時的に口腔内からウイルスが検出されなくなったとしても、それは陽性者の体内のウイルスが消えたことを意味しない。

日本医師会から「根拠不足」

 さすがに会見場の記者たちからも、会見の軽率さを問う声が次々に出た。しかし吉村知事は、

 もちろん副作用は書いてあるけど、普通に使ったことがあるうがい薬が実はコロナウイルスを低下させる研究成果があるのであれば、府民の皆さん、一緒にやってみませんかという呼びかけです。(同)

と語り、松井市長は記者たちの指摘に逆ギレするように、

 効くとは言ってないけども、事実としてうがいしてないより、イソジン、うがい薬でうがいした人、陽性患者にうがいを推奨してやってもらったら、結果が出ましたよ。で、記者の君の言うのでは、確実に医薬品としてきちっと決まるまで、厚生労働省で承認するまでは発表すんなって聞こえねんけど。(同)

と開き直った。
 予想されたことだが、その日のうちに日本中の薬局から「うがい薬」が消え、ネットでは高値で転売がはじまった。
 しかも、府と市が共同研究したという「大阪はびきの医療センター」の松山晃文・次世代創薬創生センター長自身が、「わずか41例で抑止効果を証明するのは無理」であることを毎日新聞に語っている。

 この研究は解析対象の人数が41例と少なく、松山氏も唾液の飛沫を介した感染拡大の抑止効果を示すには「数十例、数百例では無理」と認める。日本医師会の中川俊男会長は知事の呼び掛けは根拠不足と批判。大阪府保険医協会も「使いすぎはかえって甲状腺機能を低下させる」などと懸念を示した。(『毎日新聞』8月9日)

歯科保険協会から抗議文

 翌5日の会見で、記者団から買い占めや医療関係者などからの批判を指摘されると、吉村知事は「感じたことをしゃべっただけ」と反論した。

 吉村知事は、記者団が、各地でうがい薬の買い占めが起きていることについて、4日の知事の発言が誤解を招いたのではないかなどと質問したのに対し、「予防効果があるとは、ひと言も言っていない。ぼくが感じたことをしゃべり、『それは間違いだ』と言われたら、ぼく自身、言いたいことが言えなくなる」と述べました。(「NHK NEWS WEB」8月5日

 消毒に必須なポビドンヨードが市場から消えてしまったことで、真っ先に困ったのは医療現場だ。
 大阪府歯科保険協会は8月6日、吉村知事宛てに「医療機関と府民を混乱に陥れたことを真摯に受け止めよ」と題する抗議声明を文書で発表。SNSにも公開した(大阪府歯科保険医協会 宣伝担当のツイート)。
 京都大学が2005年に発表した実験結果で、「ヨード液のうがい」より「水のうがい」のほうが風邪予防に顕著な効果が出ていることは、すでに知られている(京都大学 ニュースリリース)。
 さらに多くの医療関係者からは、感染している人がPCR検査の直前にポビドンヨードでうがいをした場合、陽性であるにもかかわらず口腔内からウイルスが検出されずに陰性と誤診される危険性が指摘された。

不用意な「発表」は2度目

 吉村知事はこれまでも、大阪大発の製薬ベンチャーが開発中のワクチンについて、治験実施のめどが付く前から「7月に治験開始、9月に実用化」「年内に10万~20万人に打つ」などテレビなどで繰り返し発言し、科学に基づいた開発手続きを踏まえない発言を批判されていた。(『毎日新聞』8月9日)

 昨年7月の参院選以降、吉村知事が所属する日本維新の会(代表は松井大阪市長)の支持率は下降の一途だった。
 それが新型コロナ禍で知事のテレビ露出が増えると急上昇する。しかし6月17日の会見で、治験のめども立っていないワクチン接種を拙速に発表したことを機に、急速に支持率が下がりはじめたのだ。
 それに焦って、今回もまた稚拙な発表で注目を集めようとしたのだとすれば、もはや救いようがない。
 さらに悪いことは続く。
 吉村知事と松井市長のコンビが非難を浴びているさなかの8月6日、日本維新の会所属の東京・港区議会議員が公然わいせつで現行犯逮捕された。衆議院東京1区支部長をつとめる(つまり次期衆院選の候補者と目されていた)人物である。

 宮前署によると、赤坂容疑者は6日午後1時半ごろ、川崎市宮前区のカラオケ店の駐車場内で、女子高校生3人に「見てくれないか」などと言い、下半身を露出した疑いがある。調べに対し、「右手で性器を隠して、左手でズボンを下ろしていたので見せていません」などと説明しているという。(『朝日新聞』8月6日)

 逮捕された赤坂大輔議員は4期目。2016年にも酒に酔ってタクシー運転手を殴ったとして傷害容疑で警視庁に逮捕されている。
 日本維新の会は9日、同議員を除名したことをツイッターで公表した。

【ご報告】
我が党所属の特別党員赤坂大輔港区議会議員が、令和2年8月6日、公然わいせつの疑いで現行犯逮捕されました。この件を受け、8日付で、赤坂大輔議員を除名処分といたしましたことをご報告いたします。被害に遭われた方々に、心よりお詫び申し上げます。(「日本維新の会」8月9日のツイート

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