国会閉会そして都知事選へ――潰し合いをはじめた野党

ライター
松田 明

コロナ禍と並走した国会

 6月17日、150日間の会期を終えて第201通常国会が閉会した。
 閉会中も新型コロナウイルスに関する委員会の閉会中審査を週1回開催することで、与野党が合意した。
 この国会が開会したのは1月20日。新型コロナウイルスの日本での最初の感染者が判明したのは、その4日前の1月16日だった。
 1月20日に横浜港を出港したクルーズ船ダイヤモンドプリンセス号が香港に寄港したのが25日。下船した1名が陽性者だと判明するのが2月1日である。
 以後、新型コロナウイルスは日本を含む196カ国・地域に広がり、感染が確認された数は874万人余、死者は46万1665人(いずれも6月21日時点)となった。
 日本でも全国に緊急事態宣言が発令される異例の事態となったが、幸いにも欧米のような死者数に至ることなく最初のピークを乗り越えることができた。
 6月19日、政府は全国で県をまたぐ移動を解禁したほか、接待を伴う飲食店などでも営業自粛要請を解除した。
 ふりかえると、まさに150日間の国会会期は〝未知の感染症〟との格闘の日々であったといえる。

「政権の安定」と公明党

 今国会では、「2019年度補正予算」「2020年度本予算」「第1次補正予算」「第2次補正予算」の4つの大型予算を成立させ、

事業規模230兆円、GDP(国内総生産)の4割に上る、世界最大の対策(「首相官邸」安倍内閣総理大臣記者会見6月18日)

を実施するはこびとなった。
 そのほか、主な法律だけでも「改正復興庁設置法」「社会福祉法等改正法」「改正道路交通法」「雇用保険法等改正法」「年金制度改革法」「中小企業成長促進法」が成立している。
 一方、賭け麻雀が発覚した東京高検の黒川検事長の辞職や、6月18日に逮捕された河井前法相と妻の安里議員による公職選挙法違反容疑など、政局が何度も大きく揺れた。
 そのなかで、前例のない4つの予算を成立させ、国民の暮らしを守る方向へ着地できたのは、やはり政権の安定によるところが大きい。
 いち早く専門家会議の設置を提唱し、現場の声をこまやかに政府の施策に反映させ、さらに一律10万円の定額給付金支給へ政府の舵を切らせるなどした公明党の存在は、控えめに言っても光ったといえるだろう。

比例当選から1年足らずで離党

 国会が閉会するのと同時に、野党では一気に足並みの乱れが表面化してきている。
 まず、立憲民主党を離党していた山尾志桜里・衆議院議員が6月16日に国民民主党への入党を表明。
 翌17日には同じく立憲民主党の須藤元気・参議院議員が、都知事選において党が支援する宇都宮健児候補ではなく山本太郎候補を支援すると発表。立憲民主党に離党届を提出した。
 須藤議員は会見で泣きながら、

悔しいですよ。何で上の人の言うことを聞かなきゃいけないんですか。「消費税減税とかそういうこと言うな」とか、何が「言うな」だよ。いいじゃないですか、言ったって。(「FNNプライムオンライン」6月18日)

と訴えた。
 しかし、須藤議員はわずか11カ月前の参議院選挙で、立憲民主党の比例代表候補として立候補し、最下位ながら当選しているのである。
 今になって党の政策に異を唱えるならば、まず議員の職を辞するのが筋だ。それをせずに離党して、他党の代表でもある別の候補者の支援に回るというのは、同党に投票した有権者をあまりにもないがしろにした行為ではないのか。
 票を稼ぐため、知名度があるというだけで、候補者の資質もよく見極めずに立候補させ、まともに教育できなかった立憲民主党執行部の責任も重大だ。
 いつのまにか、旧民主党の首脳陣が同じように陣取っているのが今の立憲民主党である。風向きだけを見て〝沈む泥船〟から逃げ出そうとする議員は、今後も後を絶たないのではないだろうか。

ポピュリズムの危うさ

 国会閉会に加え、この7月5日に投開票する東京都知事選挙は、野党間の主導権争いと潰し合いの様相を呈してきた。
 現職の小池都知事の対抗馬になると目されていた宇都宮候補を支援するのは、立憲民主党、日本共産党、社民党、新社会党、緑の党のみ。
 国民民主党は自主投票として距離を置き、さらに沈黙を守っていたれいわ新選組は山本太郎代表が、宇都宮氏に対抗する形で立候補した。
 なんとか「与野党対決」の構図を作りたいと考えていた立憲民主党や共産党など宇都宮陣営からは、激しい怨嗟の声が巻き起こっている。
 コロナ禍のなかで旧民進党系の野党がさらに埋没し、日本維新の会が支持率を伸ばした様子を見ていた山本氏は、〝左寄り〟とは一線を画するほうが自身の求心力を高められると判断したのだろう。
 じつは2019年の参議院選挙の際、日本政治思想を研究する中島岳志・東工大教授は、毎日新聞のインタビューでこう語っていた。

山本さんのやり方は政治学の分析の枠組みでとらえると「ポピュリズム」になります。(「毎日新聞WEB版」2019年7月24日)

 そして、じつは山本太郎氏が「ヤンキー気質」で明確なイデオロギーがないことについて、

そこが危うさになる可能性もある。戦前を研究してきた人間からすると、5・15とか2・26事件を起こすような人たちは、基本的には下からの運動なんですよ。「苦しい人民がいるのに、君側(くんそく)の奸(かん)がいて暴利をむさぼっている」という思いがテロやクーデターにつながる。(同)

と指摘。むしろ山本氏のマインドは戦前の革新右派にも近いと指摘したうえで、

血盟団事件(1932年に発生した連続テロ事件)を起こしたような人たちも、茨城県・大洗の農家の子弟などで、エリートではない。れいわも一転して「一君万民」的なものになる可能性があると思います。イデオロギー運動ではなく、ポピュリズムだからです。さまざまな思想とつながるというのがポピュリズムの最大の特徴です。(同)

と述べ、典型的なポピュリズムであるれいわ新選組は、容易に極右的なものとさえつながる危険性を語っていた。
 一般的に現職が有利と言われる首長選挙に、あえて〝左派〟野党の候補者を潰す形で立候補した姿を見れば、この中島教授の予見が的中したと言えるだろう。
『ポピュリズムの本質』(中央公論新社)の著者の1人である水島治郎・千葉大学教授は、同書のしめくくりで、

ポピュリズム的な既成政治批判への支持の高まりに目を奪われ、そこに安易に依存して自党の存続を図ることは、厳に慎まねばならない。

としたうえで、

既成政党の側では、排除と包摂のいずれかに偏することなく、市民の疎外感に向き合い、その不満を汲み取りながら、丁寧に対応していくことが望まれる。

と綴っている。
 風向きだけを見て人々の不満や苛立ちをエネルギーにする政治ではなく、大衆のなかで、大衆の小さな声を拾い、丁寧に政策として実現していける政党の力量が、ますます重要になってくる。

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