特集⑤ 危機感を強めた既存勢力――「言論問題」に至る構図

ライター
青山樹人

創価学会の〝撲滅〟を宣言

 1960年代後半、創価学会の躍進と軌を一にして、学会を封じ込めようとする一連の策謀が惹起した。
 まず、危機感を強めていたのは宗教界である。
 公明党結成の翌年(1965年)には全日本仏教会が会議を開き、創価学会の〝撲滅〟を宣言。そのために「マスコミを制圧する」「時期をみて国会および政府へ請願する」(『中外日報』65年9月1日付)と方針を決めた。
 宗教の次元で自由競争に任せるのではなく、宗教者がマスコミを動員し国家権力に働きかけ、目障りな教団を撲滅するという異様な決定である。
 66年には神道、仏教、キリスト教、新宗教の代表が対策会議を発足させて、学会への対決姿勢を表明。
 さらに公明党が衆議院に進出した67年の衆院選直前には、新宗教教団が加盟する新宗連(新日本宗教団体連合会)が新宗連政治連合を発足させた。
 これら教団は、「反創価学会」を標榜して政界への影響力を強め、一方、政界でも宗教票を求めてこうした宗教団体に接近する議員が与野党に続出した。
 68年には、地方紙の論説委員であった隈部大蔵が隈田洋の名で『日蓮正宗・創価学会・公明党の破滅』と題する本を出版。隈部の素性については稿を改めて詳述するが、彼はのちに再び「月刊ペン事件」を起こすことになる。
 69年5月には、毎日新聞記者であった内藤国夫が『公明党の素顔』を。7月には民社党の塚本三郎が『公明党を折伏しよう』を出版する。

解散総選挙に合わせた出版

 この1969年の暮れには、第32回衆議院選挙が予定されていたのである。
 8月になると、当時、保守派の論客として名を売っていた藤原弘達が『創価学会を斬る』と題する本を出版するという予告ポスターが大々的に出た。
 藤原の本は、大上段に構えたタイトルとは裏腹に、歪んだ憶測や風評を並べ、学会員とりわけ婦人部を侮蔑するような内容に満ちたものであった。
 創価学会本部に対する一片の取材もおこなわないまま、部下に口述したものを出版社にまとめさせるという安易な出版。
 評論家の大宅壮一は

きわめてぞんざいな方法である。これではキワモノ出版といわざるを得ない。(『現代』70年3月号)

と、痛烈に非難している。
 しかも不可解なことに、この本は設立まもない出版社から発刊されるものにもかかわらず、巨費が投じられて発売される数カ月も前から中吊り広告が出され、話題が先行するよう仕掛けられていたのである。
 ジャーナリズムとは対極にあるといわざるを得ないデタラメな手法と、売上げを見越してどこからか予算を投入した話題づくり。
 事実、ベストセラーを当て込んでいたのであろう、初版部数は常識外の10万部であった。しかも出版されたのは衆議院解散直前の11月上旬である。
 事実上の選挙戦の渦中に、センセーショナルに発売された安直な書籍。政局と連動したきわめて謀略めいたものであり、藤原にとっては金儲けのタネであったことは、誰の目にも明らかであった。
 不可解な動きはさらに加速した。投票日の10日前、「公明党 言論・出版に悪質な圧力」という大見出しで、反共保守で売っていたはずの藤原が『赤旗』に登場した。
 例の出版予告が出た直後、公明党都議会議員と聖教新聞の専務理事が藤原弘達と面談し、数百万人の信仰にかかわる問題であり、出版をするならば邪推や憶測ではなく取材に基づいたものにしてほしいと要請していた。
 藤原は手回しよくこれを録音し、その内容を明かさぬまま創価学会から出版妨害の圧力がかけられた「決定的証拠」であると『赤旗』で主張した。
 さらに「自民党幹部から出版中止を求められた」「いやがらせや脅迫電話が殺到した」「圧力によって出版取次や広告掲載が妨害された」等と騒ぎ始めたのである。『赤旗』は連日、大々的にこの問題を報じた。

攻撃の矛先を池田会長へ

 このような逆風にもかかわらず、学会員は健気に支援活動に邁進した。12月27日の衆議院選挙では公明党はさらに躍進を果たし、一気に47議席を獲得すると、民社党を抜き、社会党に次ぐ野党第2党に躍り出た。
 1970年が明けると、年末からの動きは政局へと持ち込まれた。
 第63特別国会が召集された同じ日、日本共産党系の学者や仏教関係者が年末に結成していた「言論・出版の自由にかんする懇談会」が集会を開き、この問題を国会で取り上げるよう要請する方針を発表した。
 それを受けるという体裁で、2月になると、国会で社会党、民主党、共産党の各党がそろって公明党への集中砲火に出た。共産党は公明党議員らの証人喚問を要求した。
 とりわけ選挙で面目を潰された民社党は、春日一幸や塚本三郎が国会に質問趣意書を提出するなどし、批判の対象を公明党から創価学会に変えて、激しい攻撃を開始した。両名とも立正佼成会など宗教団体と深いつながりがある政治家だった。
 2年前に学会批判の書籍まで出版していた塚本は、何の根拠もないまま「学会員による凶悪犯罪が多発している」などと国会で発言して、池田会長の証人喚問を要求したのである。次いで、社会党も池田会長の喚問を要求した。
 3月に入ると、春日一幸が「宗教団体の政治活動に関する質問主意書」を提出。宗教団体の政治活動が憲法の政教分離に反するのではないかと政府に問うた。
 内閣法制局長官は当然、「憲法20条の政教分離は、宗教団体の政治活動を制限するものではない」と答弁している。
 それにもかかわらず4月には、社会党、民社党、日本共産党が協同して池田会長の証人喚問を要求した。
 学会が政治権力を使って国教化をめざし、やがては憲法を改正して国費で戒壇堂を建設しようとしているという、悪意に満ちた荒唐無稽な話までもが、国会や世上でまことしやかに喧伝されていった。

言論出版事件の異様な構図

 公明党の伸長と背中合わせに生まれてきた一連の動きを俯瞰してみると、この事件の異様な構図が浮かび上がってくる。
 仮にも違法な言論弾圧があって証拠まであるというのなら、藤原弘達はただちに法的手段に訴えればよかったのではないのか。
 だが藤原はそれをせず、投票日直前に「言論出版妨害」と題して、なぜか共産党機関紙でセンセーショナルに告発した。反共で知られる保守論客と共産党機関紙という奇妙な組み合わせ。いったい誰がコーディネートしたのだろう。
 藤原の悪質な出版と、巨費が投じられたその異様な発売予告は、単なる選挙妨害に留まらず、むしろ当初から学会・公明党側の反応を織り込んだ入念な仕掛けだったとさえ見えなくもない。
 70年は6月に日米安保条約の期限切れを控えており、前年から国会では与野党の対立が続いていた。日本の権力中枢や保守勢力もまた、結党以来の公明党の在日米軍基地についての動きや、池田会長の日中国交正常化提言に苛立ちを強めていた。
 藤原は「木村官房副長官も、言論問題を法務委員会にかける相談に乗ってくれた」と月刊誌で述べ、政府与党中枢との連携もほのめかしている。野党各党は公明党の躍進を自分たちの死活問題だと捉えていた。
 そして、総選挙で公明党が躍進すると、騒動は年明けの国会に持ち込まれ、しかも途中から創価学会と公明党の関係が「政教一致」であるという論議に変質し、池田会長に攻撃の照準が絞られていったのである。
 登場人物はいずれも、学会ないし公明党の伸展に危惧を覚えていた者ばかりだ。
 政界をはじめ、宗教界、言論界の諸勢力が、まさに〝反創価学会〟という一点で呉越同舟して連携したのだった。
 日蓮が「悪王の正法を破るに邪法の僧等が方人をなして智者を失はん時」(御書957ページ)と記したとおりの構図であった。
 かくして、悪質な言論で攻撃された被害者側であるはずの創価学会が、一転して「政教一致」などという的はずれな非難の集中砲火にさらされていった。危機感を抱いていた者たちは、なりふりかまわぬ総力戦で牙をむいてきたのである。

※この記事は『最新版 世界広布新時代への飛翔』(青山樹人著/鳳書院)をベースに加筆修正したものです。

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あおやま・しげと●著書に『宗教はだれのものか』(2002年/鳳書院)、『新装改訂版 宗教はだれのものか』(2006年/鳳書院)、『最新版 宗教はだれのものか 世界広布新時代への飛翔』(2015年/鳳書院)など。WEB第三文明にコラム執筆多数。