コラム」カテゴリーアーカイブ

芥川賞を読む 第12回 『タイムスリップ・コンビナート』笙野頼子

文筆家
水上修一

幻想的な設定と文章で抽象的な世界を描く

笙野頼子(しょうの・よりこ)著/第111回芥川賞受賞作(1994年上半期)

難解と称される作品群

 1956年生まれの笙野頼子は、立命館大学在学中から小説を書き始め、大学卒業後も就職せずに他大学受験を口実に予備校に通いながら小説を書き続けた。1981年に『極楽』で群像新人文学賞を受賞し小説家デビューしたものの、その後、約10年間は評価されることはなかった。実家からの仕送りを頼りにひきこもりのような生活をしながら書き続け、1991年に「なにもしてない」で野間文芸新人賞を、1994年に「二百回忌」で三島由紀夫賞をそれぞれ受賞。そして、同じく1994年に「タイムスリップ・コンビナート」で第111回芥川賞を受賞した。
 野間文芸新人賞、三島由紀夫賞、芥川賞という純文学の新人賞を獲得したことで新人賞三冠王と呼ばれた彼女は、その後も執筆の熱の衰えることはなかった。「純文学論争」を巻き起こすなど、「戦う作家」として今も書き続けている。
「難解」とも評される彼女の作品には熱烈なファンが多い。何が難解と受け止められるかというと、幻想的で奇抜な設定と、自由奔放な文体だ。「タイムスリップ・コンビナート」もまさにそう。 続きを読む

連載エッセー「本の楽園」 第123回 原発ガーデン

作家
村上政彦

 1990年代には、クリエイティブな仕事をしている少なくない人たちが、エイズで亡くなった。政府広報によると、エイズ(後天性免疫不全症候群)とは、

「HIV(筆者注・ヒト免疫不全ウイルス)」というウイルスに感染して免疫力が低下し、決められた様々な疾患を発症した状態

をいう。
 かつては不治の、死の病だったが、いまは早期にウイルスを発見することができれば、さまざまな治療薬によって発症を抑えることができるし、普通の暮らしを営むこともできるようになった。
 いま世界を覆っている新型コロナウイルスも、そうなる日が来るだろう。人類はそうして、ウイルスや病とつきあってきた。 続きを読む

日本共産党と「暴力革命」――政府が警戒を解かない理由

ライター
松田 明

「暴力革命の方針に変更なし」

 政府は11月19日の閣議で、「現在においても、日本共産党のいわゆる『敵の出方論』に立った暴力革命の方針に変更はないものと認識している」との答弁書を決定した。
 これは「NHKと裁判してる党弁護士法72条違反で」の浜田聡参院議員の質問主意書に対するもの。答弁書ではさらに、

日本共産党は、日本国内において破壊活動防止法(昭和二十七年法律第二百四十号)第四条第一項に規定する暴力主義的破壊活動を行った疑いがあり、現在でもこの認識に変わりはない。

日本共産党は、破壊活動防止法に基づく公安調査庁の調査対象団体であり、警察としても、公共の安全と秩序を維持する責務を果たす観点から、同党の動向について重大な関心を払っている。(参議院「日本共産党についての政府見解に関する質問主意書」への答弁書

と明記した。 続きを読む

公明党〝強さ〟の秘密――庶民の意思が議員を育てる

ライター
松田 明

得票率50・15%の島

 先ごろおこなわれた第49回衆議院選で、自民党がわずかに議席を減らした一方、連立与党の公明党は9つの小選挙区で完勝。比例区の得票数も2017年の697万7712票から711万4282票に増えた。
 比例区では各ブロックすべてで議席を獲得し、北関東、中部、九州では前回よりも議席を伸ばした。
 とくに3議席から4議席に増えた九州ブロックでは、元沖縄県議会議員の金城泰邦氏が当選。公明党として16年ぶりに沖縄出身者の国会議員を誕生させた。
 沖縄県全体での比例票は前回選挙から2万865票の増加。過去最高を記録した。

得票率は20・86%に上り、都道府県別で日本一を達成。県内41市町村のうち18市町村が「比例第1党」となった。
中でも、北大東島(北大東村、当日有権者447人)は得票率が50・15%で市町村別の日本一に輝いた。(「公明ニュース」11月17日

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連載エッセー「本の楽園」 第122回 とっておきの短篇

作家
村上政彦

 僕は、いい短篇小説が書けたら小説家として一人前だとおもってきた。若いころからかなりの数の短篇小説を読んだ。西洋の小説家は、まず、詩人として出発して、やがて小説を書くようになることが多い。
 僕もそれに倣おうとおもって、数編の抒情詩らしきものを書いたが、すぐ詩人になるのを諦めた。詩は書けない。がっかりしていたとき、川端康成の『掌の小説』を見つけた。読んでみると、これは詩ではないかとおもった。川端は詩の代わりに掌(たなごころ)の小説を書いたのだ。
 日本の小説家で詩人として出発して、小説家になった例はあるが、西洋の作家ほど多くはないとおもう。それは日本の短篇小説が詩の代わりをしているからだと僕は見立てた。400字詰原稿用紙で20枚ほどの短篇小説――それは詩でもあり、小説でもある。 続きを読む