幻想的な設定と文章で抽象的な世界を描く
笙野頼子(しょうの・よりこ)著/第111回芥川賞受賞作(1994年上半期)
難解と称される作品群
1956年生まれの笙野頼子は、立命館大学在学中から小説を書き始め、大学卒業後も就職せずに他大学受験を口実に予備校に通いながら小説を書き続けた。1981年に『極楽』で群像新人文学賞を受賞し小説家デビューしたものの、その後、約10年間は評価されることはなかった。実家からの仕送りを頼りにひきこもりのような生活をしながら書き続け、1991年に「なにもしてない」で野間文芸新人賞を、1994年に「二百回忌」で三島由紀夫賞をそれぞれ受賞。そして、同じく1994年に「タイムスリップ・コンビナート」で第111回芥川賞を受賞した。
野間文芸新人賞、三島由紀夫賞、芥川賞という純文学の新人賞を獲得したことで新人賞三冠王と呼ばれた彼女は、その後も執筆の熱の衰えることはなかった。「純文学論争」を巻き起こすなど、「戦う作家」として今も書き続けている。
「難解」とも評される彼女の作品には熱烈なファンが多い。何が難解と受け止められるかというと、幻想的で奇抜な設定と、自由奔放な文体だ。「タイムスリップ・コンビナート」もまさにそう。 続きを読む