コラム」カテゴリーアーカイブ

書評『法華衆の芸術』――新しい視点で読み解く日本美術

ライター
本房 歩

西洋に影響を与えた日本の美

 幕末から明治初期の頃、ヨーロッパで「ジャポニズム」が開花したことは広く知られている。1867年のパリ万博を契機に、ヨーロッパの人々は日本の美意識に出あい、それは瞬く間に芸術家たちから庶民のあいだにまで熱狂的に歓迎された。
 本書のなかでも触れられているが、背景のひとつに「写真」の普及があった。何かを記録するだけなら、絵画より写真のほうが精巧だ。絵画には写真とは異なる新しい価値が求められていた。
 そこに、「浮世絵」がもたらされる。それは、画題はもちろん、遠近法や陰影のつけ方など、ルネサンス以来の伝統的な西洋絵画とはまったく異なる美の表現をもっていた。
 エドガー・ドガ、クロード・モネなど印象派の画家たちをはじめ、浮世絵に大きな影響を受けた芸術家は枚挙にいとまがない。モネは自邸の庭に睡蓮の池をつくり、そこに日本風の太鼓橋を架けた。モネを敬愛していたファン・ゴッホは浮世絵のコレクターであり、彼の部屋は浮世絵で埋め尽くされていたと伝えられている。 続きを読む

シリーズ:東日本大震災10年「防災・減災社会」構築への視点 第8回 人新世と東北復興のカタチ① 巨大防潮堤の〝罪〟

フリーライター
峠 淳次

はじめに~完新世から人新世へ~

 オゾンホールの研究でノーベル化学賞を受賞したパウル・クルッツェンが、地質学的見地から「人新世(ひとしんせい)」という概念を提起したのは、今世紀初頭のことだった。最終氷期後、今に至るまで1万1700年にわたって続いてきた温和で安定的な「完新世(かんしんせい)」が終わり、「人間活動が地球に及ぼす影響が自然の諸力に匹敵するほどにまで高まり、地球的条件そのものを変えてしまう」(篠原雅武「人新世の哲学」=ちくま新書『世界哲学史1』収録)という未知の地質時代への突入である。
 実際、私たちの惑星は、近代以降の人類の圧倒的な経済活動に伴う二酸化炭素の大量排出やプラスチック、コンクリートなどの人工物の過剰蓄積によって大きく改変され、温暖化、異常気象、海面上昇、さらには大規模自然災害の多発や生態系の破壊的変化などに喘(あえ)いでいる。人新世の学説が今や自然科学の枠を越えて人文・社会科学の分野にまで広がり、それぞれの立場から「自然との共存・共生」が訴えられているゆえんである。 続きを読む

連載エッセー「本の楽園」 第124回 あなたのイドコロ

作家
村上政彦

 居場所がない。家庭、職場、学校など、どこにいても落ち着かない。心の安らぐところがない――そういう人が増えている気がする。新型コロナウイルスのせいばかりではない。居場所がない感じは、それまでからもあった。
『イドコロをつくる』の著者は、「自分が居心地よく精神を回復させる場」をイドコロと呼んでいる。イドコロは僕が考える居場所に近い。そこにいれば、鎧をすべて脱ぎ捨てて無防備でいることができる。身体の疲れを癒せて、心の凝りもほぐれる。充電できる。 続きを読む

世界宗教化する創価学会(下)――「体制内改革」のできる宗教

ライター
青山樹人

公明党の与党化が意味するもの

 創価学会が〝魂の独立〟を勝ちとって以来の30年のあいだに、創価学会の「世界宗教化」が加速したことと、国内において公明党が連立与党の一翼を担うようになったことは、ある意味でパラレル(同時進行)の出来事である。
 創価学会の内在的理論を深く理解する作家の佐藤優氏は、2017年に創価大学でおこなった課外連続講座で次のように述べた。

日本では公明党が与党の一角を占めるようになったことについて、「権力にすり寄ってけしからん」といった、的外れな批判がよくあります。しかし、創価学会の世界宗教化という流れがここ二〇年来にわたり加速していることを考えれば、公明党が与党化したのはむしろ必然と言えます。(『世界宗教の条件とは何か』

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世界宗教化する創価学会(上)――〝魂の独立〟から30年

ライター
青山樹人

永遠に「御書根本」で進む

 日蓮大聖人の生誕から800年、牧口常三郎初代会長の生誕150周年、戸田城聖第2代会長の就任70周年の佳節を刻んだ2021年。創価学会は創立記念日にあたる11月18日に『日蓮大聖人御書全集 新版』を発刊した。
 御書とは日蓮大聖人が遺した論文や書簡など膨大な遺文のこと。
 創価学会による最初の『日蓮大聖人御書全集』の刊行は、立宗700年にあたる1952年4月28日におこなわれている。今回の新版は、その後に発見・公開された御書32編を新たに収録。文字を大きくして改行や句読点を増やし、現代仮名遣いを用いた。
 監修にあたった池田大作SGI(創価学会インタナショナル)会長は「序文」を寄せ、その冒頭に、

我ら創価学会は、永遠に「御書根本」の大道を歩む。

と記している。 続きを読む