書評『創学研究Ⅲ』――世界平和の実現と人類救済の思想

ライター
本房 歩

多角的な視点からの「世界宗教論」

 このほど創学研究所(松岡幹夫所長)から『創学研究Ⅲ――世界宗教論』(第三文明社)が刊行された。
 既刊の「Ⅰ」は「信仰学とは何か」。「Ⅱ」は「日蓮大聖人論」。それに対して今回の刊は、同研究所の創立5周年を記念したシンポジウム(2024年)の成果をまとめるかたちで「世界宗教論」となっている。

 ここでは目次に沿って内容を概括したい。
 第1章は、創価学会の牧口常三郎初代会長と戸田城聖第2代会長の世界宗教観について考察したもの。歴史学や宗教学では「世界宗教」という言葉の淵源は、ローカルな宗教に対するキリスト教を意味するものであった。
 その後、1920年代から30年代に、民族宗教の対義語として用いられるようになり、キリスト教のほかに。仏教、イスラム教、場合によってはユダヤ教、儒教、ヒンドゥー教なども含意するようになった。
「世界宗教」には普遍的宗教と覇権的宗教の両義性がある。創価学会の場合、牧口会長が提唱した「人道的競争」、戸田会長が提唱した「地球民族主義」の理念から、覇権主義やイデオロギー対立を排することが可能だと論じている点が興味深い。 続きを読む

高市首相に「助け舟」を出した公明党―2つの「質問主意書」の意味

ライター
松田 明

【本コラムの概要】
①歴代政権はあえて「存立危機事態」の具体的事例を曖昧にしてきた
②官僚とのすり合わせを欠いた高市首相のアドリブ答弁
③首相見解と政府統一見解にズレが生じた危うさ
④首相の名で首相の発言を正式に〝修正〟させた公明党の知恵
⑤斉藤代表「高市首相への協力を惜しまない」
⑥沖縄返還時に「非核三原則」をつくらせたのは公明党
⑦「非核三原則」堅持を明言しない高市内閣の答弁書
⑧党首討論で、あえて首相に釘を刺した斉藤代表
⑨高市首相が尊敬する安倍元首相にはバランス感覚があった
⑩初の女性首相として慎重に政権運営をしてほしい

  
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連載対談 哲学は中学からはじまる――古今東西を旅する世界の名著ガイド

福谷 茂 ✕ 伊藤貴雄

第3回 各教科と哲学のつながり――①科学(理科)と哲学(上)

(対談者)
福谷 茂(京都大学名誉教授、創価大学名誉教授)
伊藤貴雄(創価大学文学部教授)

 

中高生時代の自分に推薦する哲学書は?
~福谷「三浦梅園の『三浦梅園自然哲学論集』」

伊藤貴雄 福谷先生は、もし中学生だった自分に哲学の本を推薦するとしたら、どんな本を勧めますか。

福谷 茂 そうですね。「高校生向け」くらいになるかもしれませんが、やはり三浦梅園(※)ですね。
 知性のあり方の原型というものが、三浦梅園の思考にはあるからです。

伊藤 三浦梅園といえば、一種の総合的な自然論というか、コスモロジー(※)的な哲学で知られていますね。 続きを読む

『摩訶止観』入門

創価大学大学院教授・公益財団法人東洋哲学研究所副所長
菅野博史

第103回 正修止観章 63

[3]「2. 広く解す」 61

(9)十乗観法を明かす㊿

 ⑫無法愛

 今回は、十乗観法の第十、「無法愛」(法に対する愛著をなくすこと)の段の説明である。
 この段の冒頭には、「第十に無法愛とは、上の九事を行じて、内外の障を過ぐれば、応に真に入ることを得べけれども、入らざる者は、法愛の住著を以て、前(すす)むことを得ざるなり」(第三文明選書『摩訶止観』(Ⅲ)、近刊、頁未定。大正46、99下14~16)とある。つまり、これまで説明してきた十乗観法のなかの前の九つの事柄を行じて、内外の妨げを通過すれば、真に入ることができるはずであるが、真に入らない者は、法愛という執著によって進むことができないことを指摘している。
 次に、四善根(煖・頂・忍・世第一法)の第二の頂から悪道に落ちることを「頂堕(ちょうだ)」という。蔵教・通教・別教・円教の頂堕について述べているが、説明を省略する。 続きを読む

芥川賞を読む 第65回 『百年泥』石井遊佳

文筆家
水上修一

百年分の記憶が入り乱れるマジックリアリズム小説

石井遊佳(いしい・ゆうか)著/第158回芥川賞受賞作(2017年下半期)

エネルギッシュなインドの混沌

「百年泥」で芥川賞を受賞した石井遊佳は、初候補での受賞。当時54歳。
 舞台は、インド南部の街チェンナイ。百年に一度の大洪水で街中が水浸しとなった。主人公の「私」は、勤務先である日本語教室に歩いていくため、川にかかる大きな橋を渡ろうとしたのだが、そこは行き交う人と車で大混乱。しかも、橋の両端には山のように積み上げられた泥と廃棄物で溢れていた。その泥は、川底に長年蓄積されてきた、まさに百年分の汚泥であり、その百年分の記憶が白日の下に晒されたのだ。
 作品は、現実世界をリアルに描写しながら非現実的で幻想的な要素を織り交ぜていくマジックリアリズム小説である。現実である日本語教室での授業の様子をベースに置きながら、大洪水で混乱する橋の様子の中にさまざまな幻想を入れ込んでいく。 続きを読む