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芥川賞を読む 第2回 『表層生活』大岡玲

文筆家
水上修一

人間とコンピュータの関係。その危うさに切り込んだ挑戦的作品

大岡玲(あきら)著/第102回芥川賞受賞作(1989年下半期)

傍観者が語る異常さ

 第102回の芥川賞は、W受賞となった。前回取り上げた『ネコババのいる町で』と共に、大岡玲の『表層生活』が受賞。枚数は171枚。東京外大在籍当時から小説を書き始め、2作目の『黄昏のストーム・シーディング』が三島由紀夫賞を獲り、その翌年に芥川賞を受賞。31歳の時だった。
 テーマは、コンピュータを筆頭とするテクノロジーが、人間の思考や価値観にどのような影響を与え変容するか、ということだ。当時は、まさにコンピュータが私たち一般人の生活の中にも深く入り込みつつあった時代だったので、こうしたテーマはあらゆる場面で話題になることが多かったはずだ。そういう意味では、時代を切り取る文学作品としては実にタイムリーだったに違いない。 続きを読む

芥川賞を読む 第1回 『ネコババのいる町で』瀧澤美恵子

文筆家
水上修一

重い出来事をサラリと書く軽やかな文体から、温もりと余韻が生まれた

瀧澤美恵子著/第102回芥川賞受賞作(1989年下半期)

読者と共に、芥川賞作品を読んでいこう

 芥川賞は、無名もしくは新進作家の純文学作品に与えられる文学賞だ。現在は、五大文芸誌(文学界・群像・文藝・すばる・新潮)に掲載された作品から選ばれることが多い。
 これまで、石川達三、井上靖、松本清張、吉行淳之介、遠藤周作、石原慎太郎、大江健三郎、村上龍、宮本輝など、日本文学界を代表する作家を生み出してきた。けれども、太宰治や村上春樹など、受賞を逃した著名な作家も多い。 続きを読む