書評『東北のチカラ』――18人の識者が創価学会を語る

ライター
本房 歩

震災が変えた〝創価学会観〟

 東日本大震災から10年になろうとしている。
 震災は、それ以前から抱えていたさまざまな地域の課題や限界を、一気に可視化したものでもあった。産業の衰退。過疎化。高齢化と後継者不足。経済格差。教育格差。
 それは単に「東北」が抱えていた問題というより、多かれ少なかれ日本全体が抱えていたものでもある。また、日本は世界のなかでも超高齢化社会の先頭を走っている。
 だからこそ、この10年の東北の困難と、それをなんとか打開しなければという悪戦苦闘は、そのまま日本と世界の挑戦の〝最先端〟ともなってきた。
 いまも困難が続く一方で、復旧復興も着実に進んだ。コロナ禍のなか、2020年3月14日には、不通となっていたJR常磐線が開通し、これで東北の路線が全線開通した。
 発災のあの日から、この10年ひたすら格闘してきた東北の人々。
 発災直後、官民のさまざまな組織や人々が、被災地に駆けつけた。日本最大級の宗教運動であり民間団体である創価学会もまた、発災直後から救援活動を開始した。
 特筆すべきことは、過酷な状況のなかで被災した当事者でありながら、多くの学会員が誰に指示されるでもなく、即座に懸命な救援・支援活動に立ち上がったことだろう。
 震災を機に、とくに東北の首長や識者の創価学会への認識が大きく変わったことは、この10年間、これらの人々がメディアで発言してきた内容にも顕著に見てとれる。
 本書『東北のチカラ みちのく魂と池田大作のまなざし』は、東北を代表する18人の識者が、それぞれの立場でどのように東北と関わり、復旧と復興に取り組んできたかを語ったものである。
 同時に、発災からの困難な日々のなかで、創価学会が東北に何をもたらしてきたか。なかんずく、池田大作名誉会長に対する思いを率直に語っている。
 これらの言葉は、内輪の席での社交辞令ではなく、活字として公刊され、後世に残るものとして発せられたものだ。

人材をもって城となす

 東北を代表する地方紙である河北新報社の一力雅彦・代表取締役社長は、昭和29年(1954年)4月に、若き池田名誉会長が戸田第2代会長と仙台・青葉城址を訪れた際、戸田会長から池田青年に「学会は人材をもって城となす」との指針が示されていたことに言及する。
 社主でもあった父・一力一夫氏が、かつて創価大学創立者である池田名誉会長と会った際の名誉会長の誠実な振る舞いを、雅彦氏は父から聞いていた。
 雅彦氏もまた創価大学で特別講義をした際、学生たちの姿をとおして、人を大切にする創立者の心が学生たちに受けつがれていることを実感したと語っている。
 震災直後、池田名誉会長は聖教新聞紙上で、被災地の人々に渾身の励ましのメッセージを送った。

「心の財」だけは絶対に壊されません。
 いかなる苦難も、永遠に幸福になるための試練であります。すべてを断固と「変毒為薬」できるのが、この仏法であり、信心であります。(メッセージ 2011年3月16日)

 創価学会は震災直後の救援活動に尽力したのみならず、いまも継続して〝誰ひとり取り残さない〟心で被災地の励ましに徹する。
同時に、被災地の青年を育て、国内外と連携しながら、青年の力で地域を復興していく地道な取り組みを続けている。
 一力氏は、創価学会青年部の「SOKAグローバルアクション」や、100回を超えた被災地での「希望の絆コンサート」に触れて、こう記している。

 その「心の財」を、名誉会長は一人ひとりの胸中に育まれてきた。だから創価学会は、どんな苦難に遭っても崩れない、壊れない。
 名誉会長は人材という確固たる「無形の城」を築き、昭和二十九年の「青葉城址での師弟の語らい」を、まさに実現されたのです。(本書)

これほどの民間団体は他にない

 創立130年余の歴史をもつ東北有数のミッションスクール、宮城学院女子大学。学長であった平川新氏(2020年に退任)は歴史資料保存学の第一人者でもある。
 震災翌年に東北大学に設置された災害科学国際研究所の初代所長にも就いた。防災と復興事業の最前線に立った氏は、率直にこう綴っている。

 震災直後から学会のネットワークはフル回転し、心のケアだけではなく、物理的な救援活動に貢献されました。これだけ迅速に大きな動きをした民間団体は他にありません。社会的にも高く評価されています。
 こうした活動を可能にしたのは、会員一人ひとりに脈打つ生命尊厳の精神と、社会貢献への高い意識、使命感です。それは池田先生が自らの行動で示されてきた精神です。

 東日本国際大学学長で、エジプト考古学者として著名な吉村作治氏は、福島県南相馬市でおこなわれた創価学会青年部の東北復興青年主張大会での感慨に触れている。

 登壇した四人の青年は、たじろぐような厳しい現実に負けず、「震災があったからこそ」と力強く決意を語っていました。
 こうした青年たちが必ず素晴らしい未来を築きます。最も厳しい苦難を勝ち越えた天地から、最も強い人材が躍り出る――その人材こそが、東北の力といえるのではないでしょうか。

「先生の言葉は後世まで生きていく」

 本書に登場するのは、ほかに高橋雅行氏(福島民報代表取締役社長/当時)、小笠原直樹氏(秋田魁新報社代表取締役社長/当時)、塩越隆雄氏(東奥日報社代表取締役社長/当時)、東根千万億氏(岩手日報社代表取締役社長)、寒河江浩二氏(山形新聞社代表取締役社長)、開沼博氏(社会学者/立命館大学准教授)、今村文彦氏(東北大学災害科学国際研究所所長)、佐々木典夫氏(四季株式会社代表取締役社長/当時)、鷹山ひばり氏(鷹山宇一記念美術館館長)、橋本逸男氏(日中友好協会副会長/東北大学公共政策大学院教授)、渡部潤一氏(国立天文台副台長)、泉山元氏(三八五流通株式会社代表取締役社長)、玉山哲氏(株式会社東山堂代表取締役社長)、井上弓子氏(高島電機株式会社代表取締役会長)、新田嘉一氏(平田牧場グループ会長)。
 文字どおり、東北の各界を代表する顔ぶれである。
 これらの人々が異口同音に語ること。それは、創価学会が地道に平和・文化・教育を推進し続けてきたこと。その積み重ねが、あるときは国と国との関係改善を大きく動かし、そして東北の復興と発展の具体的な推進力になっていること。
 またなによりも、池田名誉会長が一貫して東北を愛し、理解し、讃えてきたこと。自らの行動で範を示し、東北の津々浦々に数えきれない青年を育ててきたことへの共感と敬意、感謝である。
 東北の復興といっても、根本はそこに希望をもって人生を切り開き、郷土を変革していく〝人間〟が陸続とあらわれなければならない。
 創価学会がいかに重要な役割を果たしてきたか。池田名誉会長の心を受けつぐ青年の存在が、いかに東北の未来へのカギを握っているか。
 本書のサブタイトルは「みちのく魂と池田大作のまなざし」である。

 ここから、新たな人間革命の歴史が、後継の方々の感動にあふれた生き方によってつづられていくことでしょう。
 それは、池田先生にお会いしたことがない青年たちが、師匠の言葉を指針にして立派に成長していることで証明しています。先生の言葉は後世まで生きていく。それが未来をつくることであり、先生の人材育成の素晴らしさです。(鷹山ひばり氏)

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