コラム」カテゴリーアーカイブ

ホロコーストの真実をめぐる闘い――書評『否定と肯定』

ライター
本房 歩

法廷闘争のリアルな記録

 本書(『否定と肯定』)を原作とした同名の映画が、日本でも2017年12月から封切られた。その公開に合わせて同年11月に刊行された邦訳だ。
 ナチスによるホロコースト(大量虐殺)があったことを、はたして司法の場で証明できるか。本書は、実際にイギリスでおこなわれた1779日におよぶ法廷闘争のノンフィクションである。
 著者であるデボラ・E・リップシュタットはユダヤ人女性。父親はドイツが第三帝国となる前にアメリカに亡命し、母はカナダ生まれ。
 彼女は、ニューヨークのマンハッタンで育った。現在はジョージア州にあるエモリー大学で、現代ユダヤ史とホロコースト学を教える教授だ。 続きを読む

沖縄伝統空手のいま~世界に飛翔したカラテの源流
第3回 「沖縄詣で」重ねる空手家たち(上)

ジャーナリスト
柳原滋雄

50年で変化した空手の境地

前回取り上げた書籍『公開! 沖縄空手の真実』(2009年)の中でユニークな技法を紹介した空手家に、沖縄空手道松林流喜舎場塾の新里勝彦(しんざと・かつひこ)塾長(1939-)がいる。横に移動しながら行う首里手の代表的な鍛錬型である「ナイハンチ」を独特な腰使いで演武し、独自の解説を加えていた。
新里塾長は英文科の学生時代、19歳のとき大学の空手クラブで空手を始めた。将来アメリカに留学したときに沖縄的なものを身につけていれば何かの役に立つかもしれないくらいの考えだったという。大学卒業後、地元の中学校で3年間英語を教え、20代半ばから2年間の米国留学中は空手をやっていたことが「とても役に立った」と振り返る。帰国後、那覇市の松林流開祖・長嶺将真道場に正式入門した。 続きを読む

連載エッセー「本の楽園」 第45回 ローカルがおもしろい①

作家
村上政彦

このところ、なんだかローカル=地方がおもしろいことになっているようだ。かつては、クリエイティブな若者たちは東京をめざしたものだが、いまやそうではない。あちこちの地方に根差して仕事をする人々が増えているのだ。
そのプレーヤーの1人が藤本智士(さとし)である。若いといっても40代なかば。この分野の先駆者といえる。兵庫県西宮市に住んで、編集者として活動している。『魔法をかける編集』は、彼の仕事振りをトレースした本だ。
2006年に『Re:S(りす)』という雑誌を立ち上げた。これはRe:Standard=「あたらしい〝ふつう〟を提案する」というのがコンセプト。全国誌だけれど、編集部は大阪にあった。「東京では売れない雑誌」をめざして、全国の〝田舎〟に向けて発信する。
このあたりから、すでにおもしろそうではないか。 続きを読む

書評『人生にムダなことはひとつもない』――作家とお笑い芸人の対話

ライター
本房 歩

「人生と信仰」を語る

 作家の佐藤優氏と、お笑い芸人「ナイツ」の土屋伸之・塙宣之の両氏という、かなり異色な取り合わせの鼎談である。
 今さら記すまでもないが、佐藤氏は外務省で在ロシア日本大使館勤務ののち国際情報局で主任分析官を務め、2002年にいわゆる鈴木宗男事件に連座するなどして逮捕・起訴された(13年執行猶予満了)。
 この捜査の内幕を綴った著書『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』で、05年に第59回毎日出版文化賞特別賞を受賞。以降、作家として驚異的な勢いで著作を出し続けている。 続きを読む

沖縄伝統空手のいま~世界に飛翔したカラテの源流
第2回 沖縄空手界をたばねる団体

ジャーナリスト
柳原滋雄

「本場」の空手を映像付きで紹介した書籍

関係者の間で秘かに注目されてきた本がある。タイトルは、『公開! 沖縄空手の真実』――。サブタイトルに「君は本物の空手を見たことがあるか?」の文字が見える。
発刊されたのは2009年。沖縄国際大学名誉教授の高宮城繁(たかみやぎ・しげる1935-2014)の呼びかけで沖縄空手の長老と目される著名な空手家が協力して制作された。110分の特別映像の入ったDVDが付録につけられている。沖縄空手の3大流派の主要な型を演武した映像が収められており、ノーマルスピード、スロースピード、さらには角度を変えて見せるという気の使いようだ。 続きを読む