コラム」カテゴリーアーカイブ

書評『世界宗教の条件とは何か』――創価大学での課外連続講座から

ライター
本房歩

創価学会の世界宗教化

 作家の佐藤優氏は、2017年9月から12月にかけて創価大学で計10回の「課外連続講座」をおこなった。本書は、その内容をまとめたものである。
 佐藤氏は日本基督教団に所属するプロテスタントのキリスト教徒であり、神学者でもある。
 一方で、佐藤氏は創価学会と公明党に深い関心をもち、この数年、精力的に関連の著述も重ねてきた。

 創価大学の創立者でもある創価学会の池田大作第三代会長を、深く尊敬しています。(『世界宗教の条件とは何か』/以下同じ)

 キリスト教徒である佐藤氏が、なぜ池田会長を尊敬し、これほど創価学会に強い関心を抱いているのか。連続講座の冒頭、氏はこの理由に言及する。

 いちばん強い要因を一つだけ挙げるとすれば、「創価学会の世界宗教化」という現象に対する関心です。

 いうまでもなく氏が信奉するキリスト教は、西暦313年のミラノ勅令によってローマ帝国の公認宗教となり、世界宗教となって久しい。
 ただし、そのプロセスは現代のキリスト教徒にとっても歴史書で学ぶしかない。 続きを読む

連載エッセー「本の楽園」 第80回 僕の好きな文芸誌

作家
村上政彦

 文芸誌というのは、小説や詩、エッセイや書評などを掲載した、文学に特化した雑誌をいう。僕は文芸誌の新人賞をもらって作家としてデビューしたので、何か特別な思い入れがあるかというと、そうでもない。
 ただし、デビューする前は、いわば修業のために何誌か定期購読していた。作家の名前が印刷された表紙を眺めて、いつかここに自分の名前が入ることを妄想していた。10代の半ばから20代の半ばにかけてのころだ。思えば、あれは僕の文学の青春だった。
 デビューしてからほとんど文芸誌は読まなくなった。気になる作家の作品が掲載されていると、ちらっと覗く程度で、文芸誌は読むものではなく、作品を発表する場に変わった。タモリが、「テレビは見るものではなく、出るもの」といっているのに近い。
 最近になって、また文芸誌を手に取るようになった。これには理由がある。大学の創作科で教えるようになったので、現在の文壇の動向を観察する必要に迫られたのだ。学生たちに最新の文学事情を伝えるためだ。 続きを読む

沖縄伝統空手のいま~世界に飛翔したカラテの源流 第41回(最終回)番外編 空手の流派はなぜ生まれたのか

ジャーナリスト
柳原滋雄

もともと個人に帰属した

 沖縄で個人から個人に秘かに伝えられてきた武術にほかならない空手。本来、それらの武術に流派という概念はなかったとされる。ところが一定程度、沖縄社会で認知されるようになると、2つの流派が言われるようになる。大きく分けて、昭林(しょうりん)流と昭霊(しょうれい)流の2派である。前者が現在のしょうりん流を意味し、後者が剛柔流系を意味すると言われている。
 現在、沖縄空手を分別するのに使われる「首里手」「那覇手」という言い方も古くからあったものとはいえず、地元行政において区別する必要に応じて「首里手」「泊手」「那覇手」に分類されたと伝えられる。 続きを読む

アジアに広がる創価の哲学(下)――池田会長が結んだ信義の絆

ライター
青山樹人

国王との3度の会見

 東南アジアのなかで、大きく発展しているのがタイSGIだ。
 同国最高学府であるチュラロンコン大学とタマサート大学は、ともに創価大学と学術交流協定を締結。1988年にはチュラロンコン大学でSGIなどが主催して「核兵器――現代世界の脅威」展が開催された。
 民主音楽協会も、「タイ国立民族舞踊団」「タイ王立舞踊団」「タイ人形劇団」などを日本に招聘。文化交流を強く推進してきた。
 6度にわたってタイを訪問した池田会長は、1988年、92年、94年の3度の訪問時には、当時のプーミポン・アドゥンヤデート国王(現在のワチラロンコーン国王の父君)と会見している。
 会長の提案で、国民から敬愛され文化と芸術に造詣の深かった前国王の作品を紹介する「特別写真展」「特別演奏会」、また絵画の「特別展」などが開催されてきた。こうした貢献に対し、91年には王冠勲章勲一等が会長に授与されている。 続きを読む

アジアに広がる創価の哲学(中)――異なる価値観への尊敬と共生

ライター
青山樹人

アジア初訪問での着想

 池田大作SGI(創価学会インタナショナル)会長が、現在の東洋哲学研究所や民主音楽協会の構想を思い描いたのは、アジア諸国を初訪問した1961年2月のことである。
 前年5月に32歳の若さで創価学会の第3代会長に就任して8ヵ月余。
1月下旬に日本を発ち、香港、セイロン(現スリランカ)、インドを訪れた会長の一行は、ビルマ(現ミャンマー)の首都であったラングーン(現ヤンゴン)に到着した。
 ビルマは、会長の長兄が戦死した場所でもある。 続きを読む