SDGs「行動の10年」へ(上)――「誰一人取り残さない」との誓い

ライター
松田 明

「持続可能な開発」とは?

 SDGs(Sustainable Development Goals)は「持続可能な開発目標」と訳される。
「持続可能な開発」とは、「将来の世代の欲求を満たしつつ現在の世代の欲求も満足させるような開発」のことだ。
 つまり、資源の有限性や環境破壊を無視して、現在の世代の欲求だけが満たされればよいという利己的な繁栄をめざすのではなく、子や孫、その先の子孫といった将来の世代に対しても公平な社会のあり方をめざす概念である。
 この「持続可能な開発」という概念が国際社会から注目されるようになったきっかけは、1987年に「環境と開発に関する世界委員会」(ブルントラント委員会)が出した報告書『我ら共有の未来』だった。
 92年6月には「環境と開発に関する国連会議(地球サミット)」がブラジルのリオデジャネイロで開催される。
 ここで、持続可能な開発に向けた地球規模での新たなパートナーシップの構築に向けた「環境と開発に関するリオデジャネイロ宣言」(リオ宣言)と、そのための行動計画である「アジェンダ21」が採択された。アジェンダとは、行動計画、検討課題という意味である。
 そして、新たなミレニアム(千年紀)がいよいよ始まろうとしていた2000年9月。147人の国家元首も出席した国連サミットの総会で、189の国連加盟国代表が「国連ミレニアム宣言」を採択した。
 国家が互いに争い、持てる者と持たざる者の格差が広がった過去の1000年を踏まえ、21世紀から30世紀までの1000年をどのような世界にしていくのか。
 このミレニアム宣言では、「自由」「平等」「団結」「寛容」「自然の尊重」「責任の共有」を21世紀の国際関係に不可欠な価値とすることと、平和で公正な世界に不可欠な基礎として〝国連及び国連憲章に対する信頼〟を再確認した。
 あわせて、1990年代に主要な国際会議やサミットで採択された国際開発目標を統合し、2015年までの共通する一つの枠組みとしてまとめられたのが「ミレニアム開発目標(MDGs)」だった。
 MDGsで掲げられた8つのゴールは、以下のとおりである。

①極度の貧困と飢餓の撲滅
②普遍的初等教育の達成
③ジェンダーの平等の推進と女性の地位向上
④幼児死亡率の削減
⑤妊産婦の健康の改善
⑥HIV/エイズ、マラリアその他疾病の蔓延防止
⑦環境の持続可能性の確保
⑧開発のためのグローバル・パートナーシップの推進

池田会長が提唱した「誓い」

 10年後の2010年、国連サミットでMDGsの期限となる2015年以降の開発アジェンダの議論を開始するよう合意がなされた。
 リーマンショックによって、2007年以降、世界は経済危機に陥り、2009年の世界全体の失業者数は史上最悪となっていた。
 MDGsがアフリカなど途上国において識字率などで一定の成果を収めつつある一方、先進国も含めた世界全体では国内格差が広がっていた。
 ポストMDGsの枠組みとして、持続可能性のある開発の重要性が各国の識者や機関から指摘されていたのである。
 たとえば、毎年1月に「SGIの日記念提言」を発表している池田大作創価学会インタナショナル(SGI)会長は、「リオ宣言」から20年の節目になる2012年の提言(第37回「SGIの日」記念提言「生命尊厳の絆輝く世紀を」)でこう述べている。

 私は、貧困や格差がもたらす地球社会の歪みの改善を求めたミレニアム開発目標の精神を継承しつつ、どの国の人々も避けて通ることのできない「人間の安全保障」に関する諸問題への対応を視野に入れた、〝21世紀の人類の共同作業〟としての目標を掲げるべきだと訴えたい。

 その柱となる理念として、これまで論じてきた「人間の安全保障」に加えて、私が挙げたいのは「持続可能性」の理念です。

 そして池田会長は、それは外から縛り付ける堅苦しいルールのようなものではなく、「誰かの不幸の上に幸福を求めない生き方」であり、「現在の繁栄のために未来を踏み台にせず、子どもや孫たちのために最善の選択を重ねる」社会のあり方だと指摘している。

 新たな目標の基盤となる倫理を規定する上では、外在的なルールとしてではなく、こうした生命観に根ざした〝誓い〟としての性格を、教育や意識啓発を通じて帯びさせることを目指す必要があるでしょう。

私たちの〝生き方の転換〟

 同年6月、「リオ宣言」から20年の「国連持続可能な開発会議(リオ+20)」が再びリオデジャネイロで開催され、MDGs後の枠組みとして「持続可能な開発目標(SDGs)」への議論がスタートする。
 7月、当時のパン・ギムン国連事務総長は「ポスト2015開発アジェンダに関するハイレベルパネル」を設置。共同議長に、インドネシアのユドヨノ大統領、リベリアのサーリーフ大統領、英国のキャメロン首相が就いた。
 これらの議論は2014年12月「国連事務総長統合報告書」にまとめられ、翌年の各国政府間交渉を経て、2015年9月の国連サミットにおいて「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択された。

 我々は、世界を持続的かつ強靱(レジリエント)な道筋に移行させるために緊急に必要な、大胆かつ変革的な手段をとることに決意している。我々はこの共同の旅路に乗り出すにあたり、誰一人取り残さないことを誓う。(「前文」より)

 この「誰一人取り残さない」という国際社会の〝誓い〟を2030年までに達成するために掲げられた、具体的な17の目標と169のターゲットが「SDGs」である。
 持続可能な地球をつくるための行動指標であると同時に、「他人の不幸の上に自分の幸福を築くことをしない」という、人類1人1人の〝生き方の転換〟でもある。

「小さな一歩」からが大事

 17のゴールは、相関的に設定されている。
 まず、「貧困をなくす」「飢餓を終わらせる」「教育」「ジェンダー平等」「安全な水」といった1から6は、いわば〝社会の基盤〟をつくるものとなる。
 次いで、「エネルギーへのアクセス」「雇用」「不平等の是正」「持続可能な消費と生産」など7から12は、〝持続可能な経済圏〟をつくるためのものである。
 そして、「気候変動対策」「海洋資源の保全」「陸域生態系の保護」など13から15は、〝地球環境を守る〟取り組み。
 これら15のゴールを達成するために不可欠なのが、16の「平和と公正」であり、さまざまな立場が協力する17の「パートナーシップ」になる。
 もちろん、国際社会全体でこの17ゴールのすべてを達成していこうというものだが、個人や企業、団体などが取り組む際は、むしろあまり堅苦しく考えない方がいい。SDGsの取り組みそのものが〝持続可能〟でなければ意味がないからだ。
 たとえば、マイクロプラスチック(微細なプラスチック片)がとくに海洋汚染の大きな原因として問題になっている。
 ペットボトルやストローの消費を削減しようという動きは、このマイクロプラスチックの元となるプラスチックごみを減らす取り組みだ。
 とはいえ、いきなり生活のすべてからペットボトルを排除するというのは、なかなか難しいだろう。しかし、たとえば毎日ペットボトルの飲料を飲んでいた人が週に1本だけやめたとする。それだけで年間に50本以上のペットボトル削減になるのだ。
 週に平均10枚のレジ袋を受け取っていた人がマイバッグに変えれば、年間500枚以上のレジ袋削減になる。もし日本で100人に1人がこれを実行すれば、年間6億枚の削減になる。
 外からのルールに縛られて実行するのではなく、あくまでも1人1人の内発的な動機にもとづいて、できることから一歩ずつはじめていく。同時に、ある項目の実践が他の項目を阻害するものにならないように配慮する。これがSDGs実践の大事なポイントである。
 さあ「行動の10年」へ、わが社の課題、わが家、自分のできることを考えてみよう。

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SDGs「行動の10年」へ(下)――創価学会青年部の取り組み

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