投稿者「web-daisanbunmei」のアーカイブ

くり返された〝軽率〟会見――「ワクチン」の次は「イソジン」

ライター
松田 明

会見中から買い占めがはじまる

 8月4日午後、大阪府庁舎で吉村洋文知事と松井一郎・大阪市長がツーショットで緊急会見をおこなった。2人の前には、まるで通販番組のように何種類もの市販の「うがい薬」が並べられている。
 ワイドショーのテレビ中継も入った会見で、吉村知事はこう切り出した。

 うそみたいな本当の話をさせていただきたい。ポビドンヨードを使ったうがい薬、目の前に複数種類ありますが、このうがい薬を使って、うがいをすることでコロナの陽性者が減っていく。薬事法上、効能を言うわけにはいきませんが、コロナに効くのではないかという研究が出たので紹介し、府民への呼びかけをさせていただきたい。(『毎日新聞』8月4日

 テレビで会見が流れているさなかから、早速、ドラッグストアの店頭では「イソジン」などの商品の買い占めがはじまった。こんなショーアップされた会見を中継すれば、パニックが起きて当然であろう。 続きを読む

連載エッセー「本の楽園」 第96回 ポストヒューマニズムの時代

作家
村上政彦

「人新生」(じんしんせい)とは、地質学的な時代の区分のひとつだが、まだ学問的には正式に認められていないようだ。しかし、このところよく見聞きする言葉だとおもう。ざっくりいうと、人類が地球の環境に影響を与えるようになった時期、ということになるのだろうか。
 僕はこの言葉に、何だか人間の驕りを感じて、あまり好きではなかった。まあ、提唱した人々の意図としては、人間の横暴なふるまいへの警告もあったのだろう。いや、そちらのほうに比重があったのだとおもう。しかし、それにしても――。
 かつて、人間は自然を畏れた。そこには自分たちを生かしてくれる自然への、敬いがあった。ところが、いつからか自然を征服すべき対象と見るようになって、敬いどころか、どれだけ搾り取れるかの算段しかなくなった。 続きを読む

長嶺将真物語~沖縄空手の興亡 第2回 泊という土地柄

ジャーナリスト
柳原滋雄

腕白少年として泊で生まれ育つ

 琉球王国の海の玄関口であった泊(とまり)港。そこに隣接する泊村は、古くから首里城のある首里から四キロほど離れた首里氏族ともゆかりのある地域として、地域共同体の結束が強い場所として知られていた。戦前は風光明媚な地域として知られ、泊は「地域全体が家族みたいなもの」といわれていた。明治新政府による琉球処分によって、旧藩が崩壊し、仕事を失う士族階級とともに、泊でも多くが路頭に迷ったが、貧しくても、教育だけは失わなかった伝統がある。そんな土地柄に、長嶺将真(ながみね・しょうしん)は1907年7月に生を受けた。 続きを読む

書評『コロナ危機の社会学 感染したのはウイルスか、不安か』

ライター
本房 歩

「感染の不安/不安の感染」

 本書は2020年4月末に書きはじめられ、概ね6月初旬に書き終え、6月末まで加筆修正をおこなったのち、奥付7月30日で上梓された。

 新型コロナの発生から国内での認知と対処、緊急事態宣言の発出から解除、2度の補正予算成立を中心とする広義の政治、社会的な事象と過程について、それぞれ公開資料と報道資料を中心に検討、分析した。(本書より、以下同)

 社会学者である著者の西田亮介氏は、とくにメディアと公共政策に関する分野の専門家として知られる。 続きを読む

長嶺将真物語~沖縄空手の興亡 第1回 沖縄空手四天王の時代はどのように始まったか

ジャーナリスト
柳原滋雄

戦争が空手家たちを襲った時代

 県民の4分の1以上が命を落としたとされる1945年の沖縄戦から75年の節目を迎えた。前年10月に那覇市内を中心に襲った米軍機による「10・10空襲」を皮切りに、それから半年もたたない4月1日からの沖縄本島への上陸。その後はこの島のすべてが「戦場」となった。
 戦後、世界に広がった空手が沖縄発祥の武術であることは、最近では比較的知られるようになったが、その空手を保持した空手家たちもこの時期に多くが命を落とした。 続きを読む