葬儀場の人々の描写から、生の滑稽さや愛しさが滲み出る
滝口悠生(たきぐち・ゆうしょう)著/第154回芥川賞受賞作(2015年下半期)
各家庭に存在するさまざまな事情
滝口悠生の「死んでいない者」の舞台は、葬儀場だ。通夜会場、それに隣接する宴会場や控室、そして葬儀場近くの故人の実家とその周辺を舞台とし、多くの親族が登場する。
亡くなった老人の葬儀のために集まった親族の数は、5人の子どもとその家族、孫ひ孫まで入れると、20数人にのぼる。これだけ多くの親族が集まれば、当然、誰と誰がどのようなつながりなのか分からなくなる。しかも、物語は、特定の2、3人だけに焦点を当てるのではなくひ孫まで描いているので、スムーズに読み進めるために筆者は図を書いたほどだった。
それぞれの家庭の事情を絡めながら多くの登場人物を描くことで浮かび上がってくるのは、それぞれに懸命に生きているありのままの人の姿だ。周囲に迷惑ばかりかけて行方不明となっている男、中学時代から不登校となり、今は故人の実家の離れで無職のままひっそりと生きている若者、半ばアルコール中毒の小学生等々、それぞれの事情を抱えた血縁者たちが、一人の老人の死をきっかけに一堂に会いして、酒を飲み、話をする。日常ではありえない不思議な「場」からは、生きることの滑稽さや愛しさが滲み出てくるのである。 続きを読む