コラム」カテゴリーアーカイブ

芥川賞を読む 第37回 『グランドフィナーレ』阿部和重

文筆家
水上修一

冷静な文体で小児性愛を描く不気味さ

阿部和重(あべ・かずしげ)著/第132回芥川賞受賞作(2004年下半期)

肩透かしのような感覚

 阿部和重は、平成16年に芥川賞を受賞するまで、群像新人文学賞、野間文芸新人賞、伊藤整文学賞、毎日出版文学賞を受賞しており、芥川賞候補にも三回あがっている。芥川賞受賞は、平成6年に初めて群像新人文学賞を受賞してから10年後になるので、満を持しての受賞ということだろう。
「グランドフィナーレ」の主人公の「わたし」は、小児性愛者の男性。自分の娘を含む幼女たちの膨大な量のいかがわしい写真が妻に発覚したことから、家庭は崩壊。法的に娘に面接することもできなくなった葛藤を丹念に描いている舞台は東京、そして人生から脱落して新しい道を歩み始めるきっかけを模索する舞台が東北の田舎町だ。田舎町を舞台とする後半の展開は、再生の兆しも見えるのだが、「わたし」の前に現れた美しい2人の少女との出会いから別の展開が見えてくる。 続きを読む

特別展「本阿弥光悦の大宇宙」を振り返って

美術史家/美術ライター
高橋伸城

多彩な美術品が一堂に

 本阿弥光悦という人がいた。
 16世紀の半ば過ぎに生まれ、17世紀の半ば近くに死んだ。
 戦国の世に始まり、織田信長と豊臣秀吉の台頭、徳川家による政権の確立と、時代はめまぐるしく変わった。

 光悦は生前から能書として知られていた。現存する書状などから、陶器や漆器の制作にも関わっていたことが分かっている。

 京都を拠点とする本阿弥家は、遅くとも室町時代より刀剣の鑑定、磨き、拭いなどを家職とし、歴代の為政者をはじめ名だたる武家に仕えた。
 彼ら一族は、日蓮の教えを信奉する法華衆(法華宗)でもあった。「法華衆(法華宗)」の名称は、日蓮が法華経を根幹の経典としたことによる。

 2024年1月から3月初旬にかけて、上野の東京国立博物館で特別展「本阿弥光悦の大宇宙」が開催された。
 国宝に指定される漆器の「舟橋蒔絵硯箱」、重要文化財に指定される「鶴下絵三十六歌仙和歌巻」(以下「鶴下絵」)や茶碗の「時雨」など、実にさまざまな美術品が光悦の作として一堂に会した。 続きを読む

『摩訶止観』入門

創価大学大学院教授・公益財団法人東洋哲学研究所副所長
菅野博史

第42回 正修止観章②

[2]「1. 結前生後し、人・法の得失を明かす」②

(2)失を明かす

 この段落では、正しい修行ではなく、誤ったあり方を詳しく描写し、厳しい批判を加えている。まず、

 其れ癡鈍なる者は、毒気(どっけ)深く入りて、本心を失うが故なり。既に其れ信ぜざれば、則ち手に入らず、聞法の鉤(かぎ)無きが故に、聴けども解すること能わず、智慧の眼に乏しければ、真偽を別かたず、身を挙げて痺癩(ひらい)し、歩みを動かすも前(すす)まず、覚らず知らず、大罪の聚(あつ)まれる人なり。何ぞ労して為めに説かん。設(も)し世を厭う者は、下劣の乗を翫(もてあそ)ばば、枝葉に攀附(はんぷ)し、狗(いぬ)の作務(さむ)に狎(な)れ、獼猴(みこう)を敬いて帝釈と為し、瓦礫(がりゃく)は是れ明珠(みょうじゅ)なりと宗(たっと)ぶ。此の黒闇暗 の人に、豈に道を論ず可けん。(第三文明選書『摩訶止観』(Ⅱ)、512-514頁)

とある。愚かな者は、毒気が深く体内に入って本心を失う(『法華経』如来寿量品に出る)から愚かなのである。その人が信じない以上、手に入れることができず、法を聞く鉤(悪を制圧するもの)がないから、聞いても理解することができず、智慧の眼が乏しいから、真偽を区別できず、全身がしびれているから、歩みを進めようとしても進めないとされる。このような人は何も知覚せず、大罪が積もった人であるので、苦労して説く必要はないとされる。 続きを読む

世界はなぜ「池田大作」を評価するのか――第7回 「創価一貫教育」の実現

ライター
青山樹人

創価の学舎では「宗教教育」はしない

――このほど創価インターナショナルスクール・マレーシアが開校しました。2月22日には、マレーシアのヌグリスンビラン州スレンバンにある同校で開校式がおこなわれ、9カ国・地域の138人が1期生として出発しました。

青山樹人 憲法でイスラム教を国教(連邦の宗教)と定めているマレーシアでも、創価学会に対する信頼は篤く、同国のマレーシア創価学会も大きく発展しています。
 創価インターナショナル・マレーシアは、中等教育と大学予備教育、つまり日本で言うところの「中高一貫教育」にあたる学校ですね。外国語の授業以外は試験も授業もすべて英語でおこなわれるとのことです。
 すでに2023年8月24日に第1回入学式がおこなわれて授業はスタートしていたのですが、国によって卒業時期が異なることもあって、マレーシア以外の生徒はオンラインで授業を受けていました。今回、それら外国からの生徒も現地に合流し、追加試験で合格した生徒らもあわせて、晴れの開校式となりました。 続きを読む

沖縄伝統空手のいま 特別番外編⑨ 沖空連主催「空手道古武道演武大会」

ジャーナリスト
柳原滋雄

今年の男子団体組手は上地流が優勝

 1981年、松林流の長嶺将真(1907-1997)によって設立された「沖縄県空手道連盟」(全日本空手道連盟の下部団体、以下「沖空連」)が主催する恒例の「空手道古武道演武大会」が3月3日、沖縄県立武道館アリーナ棟で開催された。
 毎年1回定期開催されるこの大会は、コロナ禍により2020年から22年まで中止を余儀なくされたものの、昨年、沖縄空手会館で再開。今年はさらに広い会場の県立武道館に戻った形となった。大人から子どもまで総勢1000人近いメンバーが関わる演武大会としても知られる。

団体組手の様子

 午前中は競技空手団体の象徴ともいえる組手団体戦が行われ、男子では初めて編成出場した「沖縄県上地流空手道連盟」が優勝、「拳龍同志会」が準優勝の結果となった。昨年大会では東京オリンピックの男子形部門で金メダルを獲得した喜友名諒も所属する「劉衛流龍鳳会」が流派全体としてチーム編成し、好成績(優勝)を収めた。それに触発される形で今年は実践空手で知られる上地流が各道場の垣根をこえて流派として初の選抜チームを編成した。蓋を開くと沖縄市の名門・拳龍同志会との決勝戦となった。 続きを読む