本の楽園」タグアーカイブ

連載エッセー「本の楽園」 第24回 カルヴィーノの構想する30世紀文学

作家
村上政彦

 僕がイタロ・カルヴィーノを信頼するのは、彼が文学への信頼を手放さないからだ。

 文学の未来に対する私の信頼は、文学だけがその固有の方法で与えることのできるものがあるのだと知っていることによっています。

 カルヴィーノを知ったのは、僕が小説家としてデビューしたすぐのころ、手探りで自分の世界を構築しようとしていた時期だった。『冬の夜ひとりの旅人が』という長篇小説を読んだ。 続きを読む

連載エッセー「本の楽園」 第23回 短篇小説の愉しみ

作家
村上 政彦

 本が好きだ。この齢(半世紀は過ぎました)になると、人並みにさまざまな経験を重ねてきて、何をしてもときめくということは、あまりない。ところが、本を買って、最初のページを開くときには、いつもときめいている。
 なんだろう、この感じは。つらつら考えてみると、そう、恋に近い。 続きを読む

連載エッセー「本の楽園」 第22回 詩人の魂、または「非常時」の言葉

作家
村上 政彦

 中学生のころに立原道造めいた詩を書いていた。いや、詩らしきものといったほうがいいか。憶えているのは、つたない言葉のつらなりだ。すぐに関心が小説に移って、結局、僕は詩人にはなれなかった。
 ひとは、どのようにして詩人になるのだろうか。『我が詩的自伝 素手で焔をつかみとれ!』は、日本を代表する詩人・吉増剛造の自伝だ。誕生から現在までを自作の詩を織り込みながら語っていく。 続きを読む

連載エッセー「本の楽園」 第21回 ぶんがくが すき

作家
村上政彦

 これまで文学は、よく危機を主張してきた。危ない、といって、注目をあつめては延命する。だから、語られるところの文学の危機は、文学の内部の事情に由来していた。ところが、最近になって、延命の手段としての危機とはちがったほんとうの危機がきている。
 よくいわれる出版不況による読者の減少は、僕から見れば、それほど問題ではない。減少とはいっても、ある程度のコアな読者はいる。 続きを読む

連載エッセー「本の楽園」 第20回 放哉のミニマルライフ

作家
村上政彦

 ミニマリズムという言葉がある。もとは芸術の分野で使われていたが、最近は簡素で質朴な生活の試みを指すこともあるようだ。衣食住にわたって、不要なものを削ぎ落とし、極めてシンプルな暮らしを送る人々をミニマリストというらしい。 続きを読む