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連載エッセー「本の楽園」 第42回 パーマカルチャー

作家
村上政彦

 作家は、子供の心、若者の肉体、老人の知恵を備えていなければならない。子供は好奇心が旺盛だ。身の周りのさまざまなものに関心を持つ。僕もつねに時代や社会を呼吸し、風を肌で感じている。
 あるとき、ネットで調べ物をしていたら、「パーマカルチャー」という言葉にひっかかった。聴いたことがあるような、ないような……勘が働いて、何かおもしろそうなことが待っていそうな気がして、調べてみた。 続きを読む

連載エッセー「本の楽園」 第41回 なつかしい時間

作家
村上政彦

 先日、都内で開かれた、ある文学者の会に参加した。ちょっと風邪を引いていたのだが、これは僕が事務方を担っているので休むわけにいかない。その日は、もうひとつ別の文学者の会があって、これも僕が中核のメンバーの1人なので出ないわけにいかない。
 それは、まあ、いい。少しくらいの風邪なら、社会人はみんな無理して働いている。もっともこういうとき、無理をしないのが、僕のポリシーなのだが、仕方がない。物書きも社会人の1人だ。ただ、問題なのは、会から会までに2時間程の時間があることだ。
 女性ならウインドーショッピングをする。映画好きなら映画を観る。どちらでもない僕は、さて、どうしたでしょう? 続きを読む

連載エッセー「本の楽園」 第40回 カズオ・イシグロの世界

作家
村上政彦

 10月はノーベル賞が発表になるので、この数年、日本のメディアはにぎやかになる。村上春樹が文学賞を受賞するかどうか――僕の知っている著名な批評家は、何年か続けて発表の当日、某放送局で罐詰になっていた。受賞となったらコメントするためだ(今年は誰がその役を担ったのだろう。ご苦労様である)。
 そのとき、僕の家では夕食のテーブルを囲んでいた。高校生の娘がふとスマホを見て、「お父さん、カズオ・イシグロって知ってる?」と訊く。ああ、いい作家だよ、と応えたら、ノーベル文学賞らしいよ、という。 続きを読む

連載エッセー「本の楽園」 第39回 グローバリズムのなかの日本文学・村上春樹の場合

作家
村上政彦

 2017年度のノーベル文学賞は日系イギリス人作家のカズオ・イシグロに決まった。TVのニュースでは、残念がるハルキストたちの姿が映し出され、ここ数年繰り返されている光景が見られた。
 村上春樹が国際的な作家としての地歩を築いたのは、この十数年ほどのことだろうか。僕が初めて彼の作品を読んだのは、いまから30年以上も前のことだ。群像新人賞を受けた『風の歌を聴け』という小説だった。 続きを読む

連載エッセー「本の楽園」 第38回 死ぬほど読書

作家
村上政彦

 少年のころは話題になった本を買っていたが、やがて文学を読むようになると、ベストセラーには手を出さなくなった。あえてそうしたわけではなく、読みたい本は、だいたい売れない部類に属するようになっていたのだ。
 作家としてデビューしてすぐのころ、ゴダールの本を読んでいたら、できるだけハリウッドのエンターテイメントな映画を観るようにしている、とあった。理由は、そういうヒット作を観る人々を知るためだという。つまり、一種のフィールドワークである。 続きを読む