子供のころから本が好きで、やがて書くことを憶えて、人生のなかばをちょっとだけ過ぎたいままで、読むことと書くことを続けてきた。高校をふたつも中退して(結局、大学には進んだが)、長くバイト暮らしで、何をやっても長続きしないといわれたが、読むこと・書くことは、生きることだったから続いたのだろう。
いまも毎月かなりの額を本代に使う。妻からは、いくらまで、と決められているが、つい、デッドラインを超えてしまうことが、しばしばある。では、買った本を全部読んでいるかというと、けっこうの分量が積読になっている。
なかなか読めない本もあるけれど、わざとゆっくり読む本もある。僕は下戸だが、酒好きがいい酒を愉しみながら少しずつ呑むのは、こんな感じなのだろうな、とおもう。その一冊に、『橙が実るまで』(文・田尻久子/写真・川内倫子)がある。
エッセイ本なので、どこから読んでもいい。目次からおもしろそうな一篇を選んで、じっくり読む。文章と写真がセットになっているから、写真もじっくり眺める。それで満足して、表紙を閉じる。続きは、また。
田尻久子は、熊本にある橙書店のオーナーだ。ここからは『アルテリ』という文芸誌が出版されていて、僕は定期購読者ではないけれど、ときどき買っている。雑誌が届いて、包装を解くと、いつも手書きの礼状が添えられている。オーナーの自筆だ。丁寧な仕事である。 続きを読む
