「経済学200年の知見」の学問的資産を知らない日本共産党

経済評論家・「監査と分析」代表取締役
上念 司

理念も哲学もないご都合主義

 日本共産党は政権批判ばかりしていますが、そこにはポリシーもなければ理念もありません。ただ、批判のための批判のみです。もともと日本共産党の大看板は「社会主義革命」にありました。しかし、1991年にソビエト連邦が崩壊し、社会主義国家は失敗に終わりました。それ以降、日本共産党は、いわば「すきま産業」的に何かネタを見つけては騒いでいるだけなのです。
 また、日本共産党の主張は、理論的整合性などなく、ご都合主義の暴論ばかりです。以前は声高に反対していたはずなのに、今度は賛成する、といった具合に主張をころころ変えることの連続です。
 例をあげれば、戦後の日本国憲法制定前、国会審議において日本共産党の野坂参三氏は〝憲法9条はとんでもない、自衛権は国の当然の権利だ〟と激しく反対していましたが、いまは「護憲」を唱えています。
 憲法のような大事なことでさえ矛盾した言動を続けてきた日本共産党なのですから、経済問題についてデタラメを並べることに何の罪悪感もないのでしょう。

著しい知性の劣化が如実に露呈

 経済問題についても、日本共産党は、マルクス経済学に基づいた理論的反駁があるわけでもありません。たとえば、「企業の内部留保をはき出せ」と主張しますが、内部留保といっても現金であるわけではなく、設備や工場、そして不動産などの現金以外も含めての数字なのです。つまり「設備を売れ」「生産するな」と言っているに等しいのです。

 また「アベノミクスの効果が国民の末端まで及んでいない」と批判します。しかし、それならば「末端まで及んでいない」ことの数値的な根拠を示すべきですが、それを示していません。アベノミクス効果が末端まで届いている根拠は就業者数の伸びと雇用者報酬の伸びを見れば明らかであり、多くの人が働いて、収入を得ているという事実を数字が示しています。日本共産党の主張は、漠然としているのみならず、数字の裏付けを何も持たない幼稚な議論です。

 そして「非正規雇用の増大が問題だ」という主張も経済学的には、根拠のないデタラメです。最初のうち、アベノミクス効果による景気の回復に確信が持てない企業は、まずは非正規雇用を増やします。しかし、人手不足により非正規雇用社員の確保が難しくなると、今度は正社員を増やしていきます。
 このように、正規社員の増加は段階をふんで進んでいきます。たとえるならば、いまの状況は、薪に火をつけるために、一生懸命、藁や紙に火をつけていることと同じなのです。それを、日本共産党は、直接薪にライターで火をつけろ、と筋の通らないことをいっているのです。
 日本共産党の主張のように、最初からすべて正規雇用にしろというのは、経済の本質を無視したものであり、それでは企業は成り立ちません。一見、弱者の味方をしているように見えますが、企業が倒産してしまえば、働き口を失って労働者が苦しむ結果を招くだけなのです。

 ほかにも、日本共産党は法人税減税を金持ち優遇だと声高に批判します。しかし、日本共産党は法人税というものを全く理解していません。ノーベル経済学賞受賞者のミルトン・フリードマンも述べていますが、もし、歳入庁(税・保険料の徴収機関。構想段階)をつくって、マイナンバー制度で銀行口座などを紐付けして、全国民の一人ひとりの所得を100パーセント把握できることになれば、法人税は必要ないのです。
 なぜなら、法人が利益を出したなら、必ず働く人に給与や賞与などとして分配されます。よって、個人の収入が100パーセント把握されていれば、分配された利益をすべて課税対象にできます。現状は個人の収入が100パーセン把握できていないので、それができません。だから、法人税があるのです。まず考えるべきは、個人の税金における捕捉率を高くすることなのです。こうした基礎を日本共産党は全く理解していません。

 そして、法人税は国際的競争にさらされている現実があります。
 アジア諸国の中には法人税率の低い国々が多くあります。もし、日本国内の法人が、他国に出ていってしまったとすると、国内から雇用が喪失します。そうすると苦しむのは労働者です。だから、ある程度は法人税を下げて、日本に残ってもらい、できれば、日本にアジアのヘッドクオーター(本社・本部)を置いてもらう政策が必要なのです。企業が元気になり、国際競争力を持つことが、豊かな経済を実現し、労働者の収入を増やすことにつながります。こうした企業と雇用の経済学的メカニズムを理解していないのが日本共産党です。

 日本共産党の著しい知性の劣化が、そうしたところに如実に露呈しています。日本でいわれる反知性主義というのは、日本共産党のためにある言葉といえるのではないでしょうか。
 もっといえば、これまでに蓄積されてきた「経済学200年の知見」という学問的資産を一切使わない、いやむしろ、知らないところに日本共産党のデタラメな経済政策・主張の原因があります。ひどいもので、マルクス経済学すら学んでいるかもあやしいほどです。

 世間でトマ・ピケティの著作が話題になると、日本共産党はすぐに「我々のいってきたとおり格差が問題だ」とピケティの主張と日本共産党の主張が同じだと強弁しました。しかし、ピケティは「日本はインフレ指向すべきで、アベノミクスは正しい」と明言しました。すると、あれだけ持ち上げていたのに、日本共産党は、まったくピケティを持ち出さなくなりました。これが、彼らの常套手段です。単なるご都合主義で経済を語らないでほしいと思います。

 もう少し骨のある議論が展開されるのなら政策約に意味のある論争となるのですが、日本共産党の幼稚で拙劣な主張は、政党としても末期症状ではないかと思えてなりません。もはや日本共産党は身内で固まって他人のアラ探しをするだけの「仲良しクラブ」に堕してしまったといえるでしょう。

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じょうねん・つかさ●1969年、東京都生まれ。中央大学法学部卒業。日本長期信用銀行、臨海セミナーを経て独立。2007年に経済評論家の勝間和代氏と株式会社「監査と分析」を設立。11年、米国イェール大学浜田宏一名誉教授に師事し、薫陶を受ける。著書に『売国経済論の正体』(徳間書店)、『日本は破産しない!』(宝島社)、『「日銀貴族」が国を滅ぼす』(光文社新書)、『デフレと円高の何が「悪」か』(同)など多数。