21世紀が求める宗教とは①――宗教は人間のためにある

ライター
松田 明

人間のもっとも基本的な営み

 旧統一教会の抱える問題がクローズアップされ、「宗教」に社会の目が注がれている。
 宗教が人間を手段化していくことの愚かさと恐ろしさ。連日の報道に接しながら、多くの人がそのことに戦慄しているだろう。
 本来、宗教は人間を幸福にしていくためにあるはずだ。旧統一教会問題は、この「宗教の立ち返るべき出発点」をあらためて社会に問い直している。

 私は、宗教とは、人間がその有限性に目覚めたときに活動を開始する、人間にとってもっとも基本的な営みだと理解している。このような大切な営みに対して、日本人が長年にわたって「無宗教」の一言ですましてきたということは、尋常なことではない。(阿満利麿『日本人はなぜ無宗教なのか』ちくま新書)

 とはいえ、単に反社会的行為を繰り返す教団の異常性をバッシングして留飲を下げるだけに終わっては何の意味もない。21世紀という時代に求められる宗教のすがたとはいかなるものか。宗教が社会に果たすべき役割は何か。今こそ認識を深めなければならない。 続きを読む

芥川賞を読む 第23回『蔭の棲みか』玄月

文筆家
水上修一

在日朝鮮人の集落を舞台に、時代の潮流の中で生きる老人を描く

玄月(げんげつ)著/第122回芥川賞受賞作(1999年下半期)

ありありと描きだされた人物像

 受賞者のなかった前回(第121回)とは打って変わって、第122回はW受賞となった。その一つが、当時34歳だった玄月の「蔭の棲みか」だった。大阪生まれの玄月は、アルバイトや父親の町工場の手伝いをするかたわら、大阪文学学校で創作の腕を磨き、頭角を現し始める。受賞者なしとなった第121回で芥川賞候補となっている。
 在日朝鮮人が暮らす大阪の下町が舞台だ。まるでスラムのような集落に暮らす主人公のソバンは、最古参の住人で、戦争で手首を落として以来68年間この集落に暮らし続けてきた。妻も子どもも亡くし仕事もせず、無為に流れていく日々の中で、街の変遷を見てきた。さまざまな人物や、集落の中で起きる事件や出来事や日常を描きながら、この特殊な集落とそこに住む人間を描いている。 続きを読む

枝野氏「減税は間違いだった」――迷走する野党第一党

ライター
松田 明

減税は「野党共闘」の共通政策

 衆議院選挙を目前にした2021年9月8日。立憲民主党、日本共産党、社会民主党、れいわ新選組の野党4党の代表が国会内で集合した。市民連合の呼びかけに応じて「共通政策」に署名するためだ。
 この「共通政策」には、

消費減税を行い、富裕層の負担を強化するなど公平な税制を実現し(【市民連合】「衆議院総選挙における野党共通政策の提言」PDF

とある。
 署名終了後、立憲民主党の枝野幸男代表(当時)は記者団に、

市民連合の皆さんに大変ご尽力ご協力をいただいて、野党4党で共通政策が作れたことは大変良かった(「立憲民主党」公式サイト2021年9月8日

と発言。 続きを読む

書評『日本共産党の100年』――「なにより、いのち。」の裏側

ライター
本房 歩

未来の選択を誤らないために

 本書『日本共産党の100年』は日本共産党が創立100周年を迎えた2022年7月に合わせ、朝日新聞出版から刊行された。著者の佐藤優氏はキリスト教徒の作家であり、モスクワの日本大使館に勤務していた元・外務省主任分析官である。

日本共産党は「普通の政党」ではない。革命を目標とした結社で、独自の理論、規則、さらには掟がある。日本の未来の選択を誤らないようにするためにも日本共産党について知っておくことが重要だ。
本書では、日本共産党が組織として刊行した公式党史、綱領集などの資料、機関紙「しんぶん赤旗」、党幹部が実名で公刊した書籍を主要な情報源とし、これらによりこの党を批判的に分析するという方法をとった。(「はじめに」より)

 長引くコロナ禍。ロシアによるウクライナ侵攻。それに起因する物価高。急速な円安傾向。佐藤氏は、近い将来に日本がインフレの嵐に襲われ、国民生活が苦しくなる可能性を指摘する。
 そして、そのときに政府の経済政策に異を唱え、米国主導の戦争に反対する日本共産党に魅力を感じる人が出てきても不思議ではないと見ている。 続きを読む

芥川賞を読む 第22回『日蝕』平野啓一郎

文筆家
水上修一

キリスト教学僧の、信仰者としての精神闘争を描いた大作

平野啓一郎(ひらの・けいいちろう)著/第120回芥川賞受賞作(1998年下半期)

新人賞をすっ飛ばしての受賞

 第120回芥川賞を受賞した平野啓一郎の「日蝕」は、異色の形で芥川賞候補となった。通常、芥川賞候補になる作品は、いわゆる純文学五大文芸誌(文學界、群像、すばる、新潮、文藝)のいずれかの新人賞を獲得した作品や、その後それらの文芸誌に掲載された作品が選ばれることが多いが、「日蝕」はそれまでに一度の受賞もなく、いきなりの芥川賞候補となった。有名な話だが、当時23歳の京大生だった平野は、そうした新人賞に応募しても途中で落とされると考えて、『新潮』の編集長に手紙を書き「日蝕」を渡し、それが『新潮』に一挙掲載されたのだ。それが話題となり、芥川賞候補にもなって受賞に至った。
 こうした経緯から世間の注目を集め、中には「三島由紀夫の再来」などと評するメディアも登場した。 続きを読む