二十歳になるかならないかのころ、うちからかなり離れた駅近くのビルに大型書店が入った。それまで僕は、うちから歩いて数分の小さな書店と、バスに乗って10数分の2階建ての書店に通っていた。
いまはショッピングモールやデパートに大型書店があるのは珍しくないけれど、当時はこの書店ほど品揃えの多い書店を知らなかった。友人といっしょになかへ入って、僕は静かに興奮していた。
僕がいちばん好きなのは、読書だ。それもスイーツをつまみながらの。新刊、古書問わず、買ったばかりの本を手にして、チョコや豆大福を頬張っているとき、僕は生きていてよかったと実感する。この快楽を得ることができるなら、100歳までがんばって生き抜いてやる。
大型書店で背の高い棚にぎっしりならぶ本を見た僕は、宝の山を見つけた海賊のように、できればここにある本を全部手に入れたいとおもった。でも、それは叶わない。その代わり、1冊ずつ棚からぬきだして、ぱらぱらとページをめくる。
どれぐらい時間が経ったか、「おい、帰ろうよ」と友人が言う。帰る? こんなにお宝があるのに? 友人の顔を見ると、えらく不機嫌だ。「まだ、いいじゃん」。僕がいうと、「じゃ、俺、帰る」。「いいよ」。友人は怒ってほんとうに帰ってしまった。 続きを読む





