連載「広布の未来図」を考える――第7回 宗教間対話の重要性

ライター
青山樹人

諸宗教との対話は不可欠

――前回(第6回)は、広宣流布の運動を推進していく上で「私たちはどのような社会をめざしていくのか」という具体的なビジョンが必要ではないかという話でした。引き続き、このテーマを考えていきたいと思います。

青山樹人 前回、広宣流布といっても、他の宗教を淘汰して一色に染めていくようなものではないということを、池田先生の著作をもとに確認し合いました。
 この他宗教との関係について、もう少し考えていきたいと思います。あくまで頭の体操と思って、ひとつの思索の参考に聞いてください。

 この4月にローマ・カトリックの教皇フランシスコが逝去され、5月に新しく教皇レオ14世が選出されましたね。
 教皇は12億人とも13億人とも言われる信徒を擁するローマ・カトリック教会の最高位の司教であり、同時にバチカン市国の国家元首でもあります。 続きを読む

芥川賞を読む 第53回 『abさんご』黒田夏子

文筆家
水上修一

読みづらい大和言葉から立ち上がる美しく静かな哀しみ

黒田夏子(くろだ・なつこ)著/第148回芥川賞受賞作(2012年下半期)

史上最高齢75歳での受賞

 それまでの史上最高齢の芥川賞受賞者は、「月山」で受賞した62歳の森敦だったが、それを大幅に更新したのが、「abさんご」で受賞した75歳の黒田夏子であった。2012年に早稲田文学新人賞を受賞し、それが同年の芥川賞受賞につながった。彼女の最初の文学賞受賞は、1963年7月度の読売短編小説賞(「毬」で受賞)だったから、実にその49年後の芥川賞受賞ということになる。
 その経歴もさることながら大きな注目を浴びたのは、その文体である。読者にとっては慣れない横書きのかな文字が多用され、句読点は「,」「.」で区切り、日常生活に馴染んだ名詞をあえて放棄しそれを分解した形で表現している。たとえば、蚊帳を「へやの中のへやのようなやわらかい檻」と表現し、傘を「天からふるものをしのぐどうぐ」という具合だ。
 結果として非常に読みづらい。通常、私たちは漢字かな混じりの文章を読むとき、意味を形で瞬時に伝えてくれる漢字の力を借りて、あえて音に変換しない状態でも意味を理解できるのだが、かな文字が多用された文章を読むとなると、かなの音を漢字に変換して意味を受け取らなければならない。それは慣れない作業なので、恐ろしく疲れる。最初の1ページを読み終えるのに、私も何度も読みかえす羽目となった。 続きを読む

『摩訶止観』入門

創価大学大学院教授・公益財団法人東洋哲学研究所副所長
菅野博史

第85回 正修止観章㊺

[3]「2. 広く解す」㊸

(9)十乗観法を明かす㉜

 ⑥破法遍(13)

 (5)中道正観の破法遍②

 中道正観の破法遍は、「中観を修する意」、「中観を修する因縁」、「正しく中観を修す」、「中観を修する位」の四段に分かれているが、今回は第二段の「中観を修する因縁」の段について説明する。

 ②中観を修する因縁

 冒頭に、「二に中観を修する因縁とは、略して五と為す。一に無縁の慈悲の為めなり。二に弘(ひろ)き誓願を満たす。三に仏の智慧を求む。四に大方便を学ぶ。五に牢強の精進を修す」(第三文明選書『摩訶止観』(Ⅲ)、近刊、頁未定。以下同じ。大正46、81上4~7)とあるように、中道正観(中観)を修行する因縁(理由)として、慈悲、誓願、智慧、方便、精進の五項目を取りあげている。言い換えれば、これらの五項目を獲得するためには、中観を修行する必要があるということである。今、これらの五項目に付されている形容語は省略したが、いずれもそれぞれの概念の究極的なあり方を示すものである。以下、順に要点を説明する。 続きを読む

連載「広布の未来図」を考える――第6回 三代会長への共感

ライター
青山樹人

未来への展望が求められる時代

――3月から始まったこの連載ですが、おかげさまで反響をいただいているようです。

青山樹人 第1回で申し上げたように、あくまでも一つの見解としての言論であり、読んでくださる方の何らかの思索のヒントになればという企画です。
 お手軽なネット記事と違って、あえて毎回それなりに文字量も多くしています。それでも読んでくださる方々には感謝するばかりです。

 今から70年前の1955(昭和30)年7月の『大白蓮華』巻頭言で、戸田先生は「青年よ、心に読書と思索の暇(いとま)をつくれ」と綴られました。池田先生もまた、この恩師の言葉を何度も青少年たちに語られてきました。

 そのなかで戸田先生は、「読書と思索のない青年には向上がない。青年たる者はたえず向上し、品位と教養を高めて、より偉大な自己を確立しなければならぬ」と記されています。

 仕事に、家庭や家族のことに、地域のことに、学会活動に、本当に多忙な日々を送っている人が多いと思います。ともすれば目の前のことに追われていく日々です。
 だからこそ、創価の青年には、また青年の心で生き続ける先輩世代も含めて、あえて活字に挑んで思索を重ねていただきたいと願っています。 続きを読む

書評『〈決定版〉ミシュレ入門』 ――偉大なる歴史家の卓越した史観に学ぶ

ライター
小林芳雄

宗教の歴史的功罪を見つめる

 フランスの歴史家・思想家ジュール・ミシュレ(1798~1874)。世界屈指の研究機関コレージュ・ド・フランスの教授でもあった彼は、数多くの書物を著し、人間の生活文化を視野に収めた総合歴史学を目指す〝アナール学派の源流〟ともいわれる。さらに母国では歴史学の分野を超えた大作家とされ、ユゴーやバルザックと並び称されることもある。
 本書は、ミシュレの入門書であるが、生涯の事績を列挙するようなことはせず、大著『人類の聖書』にミシュレが書き残した特徴的な一節を導きの糸に、彼の歴史観の底に流れる問題意識を明らかにする試みである。

インドから(一七)八九年[=大革命]まで光の奔流が流れ下ってくる。「法」と「理性」の大河である。遥かなる古代は君なのだ。君の種族は八九年となる。そして中世はよそ者となる。(『人類の聖書』大野一道訳/藤原書店、本書12ページ)

 中世から近代への歩みを踏み出した時代を「ルネサンス時代」と名付けたのはミシュレである。そしてルネサンス時代に始まる近代化を実現したのがフランス革命であった。 続きを読む